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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法なんてあるの?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第二部 ミスター・ミハイロフ

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18/32

トーマス困惑の極み

 シュラバ・パーティーの翌々日、貴族界隈に不名誉な噂が流れた。エスト子爵家の令嬢が平民と逢引きして一夜を共にしたというのだ。

 情報源は例によってクリス叔父様。なじみのクラブで話題になっていたらしい。

 パーティー後わたしに起きた事件を聞いた父がエスト子爵家に抗議の手紙を送ったらしいのだが、その醜聞を耳にして矛を収めた。

 そのとばっちりが、わたしをホッタラカシにしていたソーニャとクリス叔父様に飛んだみたいだけど。


 ミスター・ミハイロフと一緒に会場を去ったあと、あの悪役令嬢(仮)に何かがあったわけね。


 あっはは~ん。


 とんでもなく悪いことをしましたね、ミスター・ミハイロフ。

 これは[追及案件]ですわ!





「エスト子爵家は禁書追放を声高に叫んでいる伝統主義派なんだ」

「禁書追放?」

「実はセレーナ嬢のギフトブックの一冊が禁書にされそうなんだよ」

「えっ? 聞いてないです」

「今まで知らせなかったからね」

「どうして? なぜ? 大事なことなのに……」


 ヤバい事態じゃない。

 どうしてわたしに言わなかったの?


「著者とはいえ、未成年のセレーナ嬢に厄介事を持ち込みたくはなかった。来週の議会で決議が行われることになっている。娘の醜聞があったからエスト家はしばらく大人しくしていると思うし、意見は揺れているだろう。それに、例のギフトブックは書店から取り除いたから、可決にしろ否決にしろあまり影響はないと思う」


 そんな風にしてわたしを守ってくれていたの?

 一見優男に見えるけど、実は思いやりの深い人なのかも。

 優しい人よりも思いやりの深い人の方が……。


「アールグレン家には禁書決議に対する反対票がほしいね」

「お父様は世事に疎いから、言いくるめてみるわ」


 わたしのギフトブックが禁書――そういえばパーティーで子爵未亡人がそんなことを言ってた。

 しかも来週の会議で賛否が問われるとか。

 お父様は作者がわたしということを知らないから、晩餐では話題にも上らなかった。

 魅了少女に騙された王子が追放されて、少女も消される話だったかな。

 何も考えずに書き過ぎたのかな。

 でも――印刷所が内容を審査しているはずだよね?

 何がいけなかったんだろう……。



※ ※ ※



 散々な結果をもたらした一回目のお見合いのあと、ぼくは拠点を首都のタウンハウスに移した。社交シーズン以外でもここに滞在する予定だ。その方が官公庁の手伝いに都合がいい。

 男所帯で、しかもあの男(父)がいる限りヘイデン屋敷の雰囲気は良くならないし、可憐なセレーナ嬢がぼくに嫁いでくることはないだろう。

 それどころか、誰もぼくの妻になろうなんて思わない、あんな幽霊屋敷だもの。


 ぼくはセレーナ嬢のためにタウンハウスの雰囲気を変えることに一層の努力をした。カーテンしかり、調度品しかり。

 使用人に丸投げせず自分の目で下見し、その上で手配し、ふさわしい場所に配置するのだ。

 何事も一歩ずつ、確実に。

 実際そういうことをしてみると、意外と楽しいことが分かった。


 お見合いのやり直し日時を決めるため頻繁に手紙を出しているものの、アールグレン家からの返事はイマイチだ――というよりは、のらりくらりとかわされているという感じだった。

 ぼくはアールグレン伯爵に歓迎されていないのかもしれない……あんなことをしでかしたのだから当然か……はぁ……。


 ぼくには下心があった。

 社交シーズンなので、貴族のパーティーへ行けば彼女に会えると思ったのだ。もしかしたら――という一筋の希望を持ってパーティーへ通う日々。

 なのに全く出会えないではないか。


 落胆していたぼくだったが、幸運なことにハンソン家の演奏会でセレーナ嬢を見かけた。

 エキゾチックな文様のドレス姿だった。

 エスコートしているのは――少しなまりのあるノルデン語で話す――外国人?

 しかも、周りの令嬢をことごとく引き付けている美貌の男性。


 誰だよ、あいつ?

 随分と馴れ馴れしい。


 ぼくはそれとなく彼女の方へ移動した。

 挨拶くらいはしないと……アールグレン家に拒否され訪問できなかったため、前回の謝罪も不十分だったし……直接彼女に謝罪して信頼を回復しないと。





 そんな風に思いつめながら室内楽演奏を聞き、ダンスに誘うため彼女を捜していたら、女性の叫び声が聞こえた。

 ガーデンからだ。

 まさか……と思って駆けつけると、そこには倒れたセレーナ嬢と、髪をふりみだして青ざめている令嬢、それに例の外国人がいた。


 どういうことなんだ!?

 セレーナ嬢は虐めを受けたのか!?


 肘から血が出ている彼女が例の外国人に抱き起されているではないか!


『セレーナ嬢! どうしたんですか!?』


 ぼくは『セレーナ嬢はぼくが介抱します』と、外国人から彼女ををさらうように抱き上げた。こんな優男に彼女を任せたくはない。

『あなたはセレーナ嬢とどのような関係が?』と、外国人。


 お前こそどういう関係だよ、僕は婚約者候補(お見合い相手)なんだ!


『こんなことをするなんて、最低だな』

 令嬢を睨みつけたぼくは、壊れ物を扱うように彼女を抱きながらガーデンを去った。


『エスコート役は僕だ! 君、勝手なことをするんじゃない!』


 知るか!


 ――そのあと起きたシュラバからセレーナ嬢を守るのに、僕は必死だった。





 ――今回もセレーナ嬢を守ることができなかった。一生彼女を守ると(心の中で)誓ったのに。


 その後ぼくは毎日のようにアールグレン家のタウンハウスへお見舞いの品を送った。そして……とうとう彼女との再お見合いの日取りを決めるに至ったのだ!


 あぁ、神様、ありがとうございます!


 だがそんな喜びも束の間……先方からの知らせで、お見合いをしばらく延期してほしいとの連絡がきたのだった。


 なぜ?

☞トーマス待望の二度目のお見合いはなかなか実現しません。

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