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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法なんてあるの?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第二部 ミスター・ミハイロフ

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再会のシュラバ・パーティー

「わたし、少し疲れてしまったみたいなんです。ガーデンベンチで休んでも?」

「気を付けるんだよ、セレーナ嬢。ガーデンの奥へ行ってはいけない。不埒ふらちやからがいるかもしれないから。人目に付く窓辺のベンチにいるといい」

「もちろん、気を付けます」

「落ち着ける飲み物を取って来るから待っていて」


 ダンスは苦手なので、わたしはヒールでパンパンになった足を休めようとガーデンのベンチに座った。


「ふぅ~、パーティーって思ったよりも疲れる。いっそのこと裸足になりたい。このままベンチで寝転びたい……けれど、小説の題材は見つけたいし……」


 足を投げ出してベンチで休憩していたら、吊り目をした金髪令嬢が目の前に現れた。

 うわっ、縦ロール! こ、これはお約束の!?


 で? 鮮やかなグリーンのドレスだけど……まさか、今話題の『死のドレス』じゃないよね?

 ヒ素をまとったエメラルドグリーンは死を呼ぶから危険なのだ。


「あなたみたいな人がどうしてミハイロフ様と一緒なんですの?」

「えっ?」

「ミハイロフ様に近づかないでくださる?」


 で、出た~!


 これはもしかしなくても悪役令嬢!?

 はじめて見た、感動で全身が震える!

 ラノベかマンガかアニメみたいな人が本当に存在するとは!

 この人の言葉を一字一句聞き逃さないようメモしなければ!


「ミスター・ミハイロフのお知り合いでしょうか?」

「『ミスター・ミハイロフ』ですって? あなた何様なの? 恋人候補のわたくしに向かって何を!」

「あの、ちょっといいですか? その発言、メモさせていただいていいですか?」

「いいわけないでしょう!」


 許可を求めたので(得てはいない)この女の言ったことを速記しよう。メモ用紙はどこだっけ。

 だけどちょっと待って。ミスター・ミハイロフの恋人候補? 候補ってなんだ?

 面倒事しか見えないので、ミスター・ミハイロフを待たずに退場しよう。


「恋人候補様、ご健闘をお祈りします。ではごきげんよう」


 こういう頭のおかしい人には関わらないが吉。これで『悪役令嬢』モノが(少しだけ)書けるかも!

 ところがそうはいかなかったのだ。

 そうだった、悪役令嬢って諦めが悪いんだった。


「気に入らないですわ、あの方のことを気安く呼ぶなんて!」

「え、ええぇっ? ちゃんと敬称を付けていますけど?」


 その女はわたしの頭部目がけ、扇子で横スライディング叩きしてきたのだった!


 バシィン!!!


「キャァッ!」


 狂暴、横暴! 暴力反対!


 強情で負けず嫌いなわたしは、ただちにお手製の二倍金属骨大型デコレーションハリセンで令嬢の頭部を上から叩きのめしたのだった!


「し・か・え・し!」


 パシシシィッ! と、二倍の威力を持つ連続音がした。


 フフンッ、どうよ。


 令嬢の髪飾りが折れ曲がり、髪が乱れた。

 すごいよ、この二倍金属骨大型デコレーションハリセン!


「何するんですの、この暴力女!」


 フンッ、あなたが先に手を出したの。セレーナをなめてもらっちゃ困る。前世では痴漢を退治して警察に引き渡したこともあるんだから!


 間髪入れず襲ってきた令嬢の扇子。


 何とわたしの頬めがけてひときわ殺傷力の高い、回しスライディング攻撃してきたではないか!

 とっさに横を向いたので頬を守ることはできたものの、一瞬息ができず、頭が真っ白になって足がもつれ、肘からガーン! と倒れてしまったのだった。


 鋭い肘の痛み。

 流れる血。

 これは……マズイ……。

 非常にマズイ。


「誰か、助けてー!」


 会場いっぱいに響き渡るほどの渾身の叫び声をあげたら……。


「セレーナ嬢! どうしたのですか!?」


 聞いたことのない男性の声がした。


「あ……あ……この方が、わたしを……」と、儚げなアニメ声で訴えるわたし。


 決して嘘は言っていない。

 ここでは見かけ上わたしが悲劇のヒロイン。しかも今は……肘が痛いです。血が出ています。足もねじったかもしれないです。誰か助けてください。


「違う、違うわ、この女がわたくしを……」と、言い訳する悪役令嬢(仮)。


 コルセットのせいか、胸が苦しい。あぁ、意識が遠のきそう……。


「セレーナ嬢!」


 やっと来てくれたのね、遅いわ、ミスター・ミハイロフ……。

 ミスター・ミハイロフがわたしを助け起こすと、知らない男性がムッとした顔で『セレーナ嬢はぼくが介抱します』と言い、無理やりわたしを奪った。


(だから、誰?)


「へえ? あなたはセレーナ嬢とどのような関係が?」

 ミスター・ミハイロフが男性に挑戦的な眼を向けた。

「先ほども言いましたが、セレーナ嬢はぼくが介抱しますので、お構いなく」

 そして男性は悪役令嬢(仮)に『こんなことをするなんて、最低だな』と言い放った。


(みんな知り合いなの?)


 そこからは何が起きたのか分からない。わたしの意識は本当になくなったから。





 気づいたら見知らぬ部屋だった。たぶんハンソン屋敷の客室。内部は混沌としていた。


「さて、ご令嬢。どういうことなのか説明してもらえるかな?」

 ミスター・ミハイロフに連行され、頬を真っ赤に染めながら泣いている悪役令嬢(仮)がいた。

「セレーナ嬢、今すぐ腕の手当てをしてもらいますね、あなたに傷がついたらぼくは……」と、見知らぬ男性がうつ向きながら言う。


 茶髪で鼻の周りに薄っすらソバカス。

 誰だっけ?


「あなたはセレーナ嬢の知り合いなんですか?」と、男性がミスター・ミハイロフに話しかけた。

「僕? 彼女の……何なんだろうね。そういう君は何なんだい?」

「ふざけているんですか?」


 こんなところで争わないでほしい。わたし怪我人なんですけど。


「自己紹介もなしに僕に話しかけてくるなんて、失礼だと思いませんか?」と、ミスター・ミハイロフ。

「大変失礼しました。ぼくはヘイデン伯爵家のトーマスと申します」


 トーマス?

 ヘイデン伯爵家のトーマスって言ったよね?

 もしかして、アレ?

 現れなかったわたしのお見合い相手。


 グワァァァ~~〜!

 ドゲザしろや、ドゲザァ〜!


「なるほど、ヘイデン家のご子息でしたか。僕はセーヴェラ国のイリヤ・ミハイロフ。君こそセレーナ嬢とはどういう関係なんですか?」

「ぼくはセレーナ嬢の婚約者候補です!」


 違〜う!!

 激しく違ぁ〜……わなかった。

 そういえば婚約者候補様だった。

 まずは謝罪だろうが、地面まで頭を下げてから出直しなさい!


 しばらく言い争ったあとのミスター・ミハイロフが謎の行動をとった。

「僕はこれで失礼します、ヘイデン家のご令息」と言いつつ彼の腕にくっついていた令嬢に向き合うと、「あなたはエスト子爵家のご令嬢、ルシィ嬢ではありませんか?」と、改めて彼女の手を取った。


(あっ、このお嬢様知っていたんだ)


「あの、ミハイロフ様、わたくし……」

「パーティーで二、三度拝見しましたが……」

 エスト子爵家のご令嬢らしき悪役令嬢(仮)はひたすらミスター・ミハイロフを見つめていた。

 そりゃそうですよね、彼の色気というか美貌は飛びぬけているから。


「お嬢様はいつの間にか僕の恋人候補になっていたのですね、存じませんでした。それならしばらくお付き合い願えませんでしょうか、レディー」

 ミスター・ミハイロフに迫られた悪役令嬢(仮)は、皮肉に気づきもせず「はい」とうなずいた。


「セレーナ嬢、この男性があなたを気にしているようだけど気を付けてね、騙されちゃだめだよ」

 ミスター・ミハイロフはわたしにそっと耳打ちし、令嬢と一緒に消えて行った。

 耳の奥がこそばゆい。


「ずいぶん軽い男なんだな」

 同感よ、わたしを無視しやがったヘイデン家のトーマス様。

 そんな男なんだけど、結婚したら不倫しそうだし破滅しそうなんだけど、憧れるの。素敵な大人の男性だから。隣にいるとドキドキするの。

 わたし破滅願望でもあるのかな?


 ミスター・ミハイロフは麻薬。

 ヤク中になりそう。

 オーバードーズで死にそう。


「セレーナ、どうしたんだ!?」

 やっと現れたソーニャとクリス叔父様。

「あぁっ大変、セレーナが!」

 二人とも遅いのよ。


 これっていわゆる『修羅場』ってやつだったの?

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