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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法なんてあるの?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第二部 ミスター・ミハイロフ

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16/32

初恋パーティーデビュー

 最近、わたしのお見合い相手だった男性は貴族のパーティーに出ずっぱりらしい、というのは噂好きのソーニャの言葉。噂の出どころはたぶんクリス叔父様。

 わたしにお見合いを強要しながら、パーティーという名の婚活に足しげく通うって、どうなの?


「あせっているのよ」

「どうして?」

「ヘイデン家のご令息はもうすぐ二十三歳よね。婚約者もいない、恋人もいない。となれば当然じゃない。このままだとお見合い即婚約、一年後には結婚コースかもしれないわ」

「どうしてそうなるの? 男性なら三十歳くらいまで独身でもいいじゃない」

「そうね、クリストフはもうすぐ三十歳だし。それは婚約者がいるからよ」


 そう、クリス叔父様とソーニャは十歳くらい年の差がある。

 けれども精神年齢は……ソーニャの方が上かも。

 クリス叔父様はスペアだったから当主見習いもろくにせず両親から甘やかされていた。それなのに伯爵家を継がなければならなくなったのよ、当主の父に息子が産まれなかったから。しかも妻が産んだ子供はどこの誰なのか分からない男の子供。


 わたしが女でつくづく良かったと思う。もしも男だったらお家乗っ取りになってしまう。

 何てボランティアでお人好しな父なの。こんな出自の怪しいわたしを産んだ母と結婚してくれて、感謝している。





 今日はハンソン家の演奏会パーティー。

 わたしのエスコートはミスター・ミハイロフ。外国人だけど貴族だからね。

 ただし、ソーニャとクリス叔父様も一緒にという条件付きで。


 わたしは渾身のデザインドレス、名付けて(戦闘的な意味での)勝負ドレスを纏った。黒髪だから小さいからとバカにされないように。

 アイボリーの布地に、極彩色の糸で刺繍した花鳥風月風の文様入り。柄は自分でデザインしたの。我ながらカッコイイと思う。ドレスメーカーからも『斬新ですわ!』って褒められたし。


「メリディアナ皇国のデザインに似ているわね」

「見たことあるの?」

「奥様の故国じゃない。以前奥様のご両親がいらしたときに、似ている文様のコートを着ていたわ。セレーナは見ていなかったの?」

 そうだったっけ?

 これは前世の記憶を辿ってデザインしただけなんだけど。


 さらに自らデザインした二倍金属骨大型デコレーションハリセン。もしも悪役令嬢にからまれたとき、これが活躍する予定。


「悪役令嬢なんて、いるわけないでしょう? 陰でコソコソ噂話をする人たちはいるけれど」


 ソーニャには不評だっけれど、ミスター・ミハイロフは『斬新な扇子だね』と褒めてくれた。ちなみに父とクリス叔父様には不評だった。


 そして青いトルマリン・ヘアピンブローチ!

 ミスター・ミハイロフからのプレゼントなの、フフフッ! 素敵!

『セレーナ嬢と僕の瞳の色に合わせたんだ』なんて言われちゃったから、興奮して前日なかなか眠れなかったじゃないの。


 さあ、初のお貴族様パーティーへ乗り込むわよ。ソーニャとクリス叔父様と共に、アールグレン家の馬車で会場へ!





 いつもの二倍キラキラしたミスター・ミハイロフが、ハンソン屋敷の門でわたしたちを迎えた。


「お待ちしておりました、お嬢様方。さあ、こちらへ」

「えっ、マジで赤いバラを胸に付けてる。どこまで嫌味なイケメンなの……」

「そこは『素敵よ』と言って僕に抱きついてほしかったね」

「え、えぇ……」


 もう、この人は。

 リアル・リア充過ぎて引くわ。

 でも素敵。


「ミスター・ミハイロフ、セレーナは未成年なんです。あまりからかわないでいただきたいですね」と、クリス叔父様。

「当然のエスコートですよ、次期アールグレン伯爵様」


 ミスター・ミハイロフとクリス叔父様の間に火花が。

 何だかこの二人、気が合わないみたいだ。同族嫌悪かな。

 ソーニャはクリス叔父様と、わたしはミスター・ミハイロフと共にハンソン家のサロンへ。


「セレーナ嬢はいろいろな題材の小説を書いているけれど、どれもみな少女向けだ。少女相手なら愛や恋などは知らなくても適当に書けるからね。でも、そこにセレーナ嬢の気持ちは入っていないんじゃないかな。それでも小説が売れたのは、少女たちの憧れがつまっていたからだ」

 ミスター・ミハイロフはそっとわたしの手を取って言った。


 お説教?


「これはセレーナ嬢が本当の愛や恋に目覚めるいい機会になるかもしれないね」

 そういうと彼はわたしの手の甲に優しく口づける真似をする。

 とたんにわたしの心臓がはねて頬が真っ赤になった。


「ミ、ミスター・ミハイロフ、恥ずかしい……」

「前から思っていたんだけれど、セレーナ嬢の可愛さは殺人的だね」

「なっ、なにを……急にどうしたんですかっ?」

「男性への耐久テストだよ。セレーナ嬢が変な男に騙されないように」


 それはあなたのことです! でも素敵。


 会場に入ったとたん、女性たちの目線がミスター・ミハイロフに釘付けになった。それはそうよね、後光がかかったイケメンだし、外国のエキゾチック貴族だし。わたしも外国の血を引くエキゾチック貴族のひとりなんだけど、黒髪だから見た目が地味なのよ。


「ミスター・ミハイロフは、頻繁にこういうパーティーに来るんですか?」

「そうだね、アートギャラリーの営業も兼ねているから。このパーティーは知り合いの子爵未亡人が主催しているんだ」


『知り合いの子爵未亡人』……何だか怪しげなワード。

 さすがミスター・ミハイロフだわ。とびきりアダルトな小説が書けそう、わたしには無理だけど。





 音階を二つ抜いた切ない旋律の室内楽演奏会が終わり、ワルツがはじまる。

 それぞれが飲食をはじめたり、ダンスホールへ移動したり。


「ねぇ、気になる?」


 飲み物を給仕から受け取ったミスター・ミハイロフが耳元で話しかけてきた。

 くすぐったい。


「何がですか?」

「知り合いの子爵未亡人のこと」

「あ……いいえ、別に」

「気にしてほしいな。彼女はアートギャラリーのパトロンで、僕のビジネスパートナー。今夜は彼女主催のパーティーなんだよ」

「そうだったんですね。そうやってミスター・ミハイロフはわたしに小説のネタを提供したいんですか?」

「そう……かな。セレーナ嬢の頭の中は妄想の宝庫だからね」

 褒められているのか、からかわれているのか、彼は曖昧な笑みを浮かべていた。





「イリヤ、若い娘を誘惑してはいけないわ」


 誰?


「誘惑しているわけではありませんよ、ハンソン夫人」


 で、出た~!


 もしかしたら、この人がパトロンの子爵未亡人?

 胸と背中が大胆に開いたエンジのドレスとブルーのチョーカーにブレスレット。

 ブルネットの髪を色とりどりのフェザントファーで高々と結った、お色気ムンムンレディー。誰も逃さないという強い目力に囚われそう。

 ミスター・ミハイロフが女性の手を両手で挟んで口づけ、二人は見つめ合う。


 ア、アダルトな場面過ぎて鼻血が出そう。脳裏に焼き付けてイラスト素材にしなければ。

 でもでも、こんな雰囲気の小説、わたしには書けそうにない、無理。


「初めまして。わたしはカリーナ・ハンソン、この演奏会パーティーの主催者よ」

「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

「ゆっくりしてね。イリヤの口車に乗ってはダメよ」

「はい……」

「酷いですよ、レディー・カリーナ」

「フフ……今日はあなたと『禁書』の件を話し合いたいと思っていたのよ。後で時間をとってちょうだい」

「この場で言うことではないでしょう」


『禁書』? 何のことだろう?

 それに、この二人はどんな関係なんだろう……気になって仕方ない。

 気が付くと、わたしはミスター・ミハイロフばかりを追っていた。

☞ミスター・ミハイロフは前世も今世も初心うぶだったセレーナが憧れる大人の男性で、唯一自分をレディーとして接してくれる人という感じです。それが結婚につながるかは、どうなんでしょう。


☞次回トーマスとミスター・ミハイロフが鉢合わせします。

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