【10分前】
殿畑さんが言う。
「オフレコで御願いね♪
他言無用で聴いてほしいんだけど、
富美子さん、
まさに、名を体現するような方であってな…
貴婦人であって、優しい旦那さん、
子宝にも恵まれた…。
『心配性』って、かんじだったのかな…う~ん、『憂い病』って、やつかな?
人ってさ、
私が思うに、
やっぱ生まれ持った気質って、あるんだな…
富美子さん、
とくに不幸があったわけでなく、
加齢と共に、段々、情緒不安定に、
なってきてね。
本人が意思表示して、
入院することに、
なったんよ。
主治医が、ちゃんと、ついて、
彼女、
自身が良くなるように、
主治医の言うことを、
ちゃんときいて過ごされたわ…。
で、
『生まれてくる御孫さんに会いたい!』って、
そりゃ、いつも、
それを口にしていた。
面会にさ、
たまに、
髪の色、明るい女子大生みたいなコ、
1人で来るだろ?
彼女が、その御孫さん。」
「そうだったんですね!
富美子さん、やったー!!!!」
「…里村くんには、モニター業務と他の雑務、いろいろやってもらって、
こっち本当に感謝しててさ♪
…その、
里村くんが、
分からんのもムリないと思うんだけど、
D棟で生活されてる方って、少ないじゃん。
その、D棟の方は、
もう己が己で誰なのか、
なぜ、己は、ここにいるのか、
も分からなくなっている方だけなんよ。」
僕は…
今までの自身の半生から、
理解したつもり…に、なる危うさを知っていた。
だから、
殿畑さんに訊いた。
「…富美子さん、
ああやって、
御孫さんは、会いに来ているけど、
富美子さん、
彼女が、
自身の御孫さんだと、もう分からない…と。」
「100%そうなんだわ…。」




