2
その日、僕は仕事が休みで、
兄も同じくであった。
兄に誘われ、兄の車で、
2人で、
地域で1番大きいファションモールに、
行った。
兄は、
そこのテナントにあった、
人気のあるお洒落なカフェが目当てで、
兄に、
「おまえも、行く?」と、
言われ、
僕も同行したわけだ。
斬新なカフェであった。
そして店内は広く、
客で混んでいた。
僕らは何とか席につき、
互いに、コーヒーとケーキセットを
オーダーして、ゆっくり味わった。
兄も僕も現在、独身で、
彼女なしだ。
兄は出発前に、
僕に、このようなことを述べた。
いつか、彼女が出来た時、
洒落た店で食事するという展開があるかもしれない…
そのような店に、慣れておこうかな…と。
みたいなことを言った。
僕は単純に、
流行っている喫茶店に興味があった…。
僕らは店内で、
本当に、ゆっくり、飲食していた…。
目の前の兄に、
僕は、
こんなことを口走った。
「店内の角に1人、老紳士が、
お茶を楽しんでいる…
かと思えば、
このモールの入り口で、忙しくショッピングカートを整理している、御老体が、おられる…
この差は、なんなんだろう…?」
兄は、
紅茶をすすり、
ティーカップを置いて僕に話す。
「おまえ、今年で30だよな。
お二方、いくつ、くらいだ?」
「60は、いっているような…」
「結論から言う…
おまえは、
60になるまで、あと30年あって、
彼らは、
間違いなく60年を生きてきたとことだ…。
物理的な60年間の歳月を。」
兄は続ける。
「で、
おまえは、本当に1面しか、見ていないということだ…。」
「1面だけ…」
「そう、まさしく、1面しか見ていない。」
兄は、
そうして、ぼやいた…。
「どちらからに、しようかなぁ…」と。
それが聞こえた僕は、兄に、
「なにを?」と言えば、
「『俺』のことか、『じいちゃん』のことか、どちらから話せばいいかな…って、ことなんだけど…」
兄は、
そんなことを、ゴニョゴニョつぶやく。
兄は、僕と、けっこう歳が開いていた。
おじいちゃん…僕らの祖父は、
大分前に、亡くなっていた。
僕が兄と色々話すようになったのは、
僕が社会人になってからで、
祖父に関して言えば僕が幼い頃、
祖父は他界しており、
僕は、祖父と過ごした記憶は、
ほとんど、なかった…。
「俺のことからにしよう…」と、
僕には聞こえ、
改めて、
兄は僕に話し出した。
「俺、
今、己が勤めている会社に、
骨を埋める気で日々、精進しているが、
プライベートにおいては、
今の時点で、
そりゃ、国内外、旅行に行きまくれるものなら、そうしたい…。
だが、現実的に、
あえて、そうは、なってないし、
己でも抑制している。
俺が、まだ誰かと結婚したい!と、
思っており、
それが現実となった時、
お金なんて、あれば、
あるだけ選択肢は、広がるわけだ…
結納、
婚約指輪、
結婚指輪、
結婚式、
どう夫婦で生活を始めるか?
子どもを授かったら、
どう育ていくのか?
お金を蓄えるに、こしたことはない。
で、
まぁ、無事、今の会社を定年まで、
勤めあげたとしよう…。
そしたら、
収入は本当に、なにもない。
年金だけは、入ってくる。
かけてきたからな。
で、
その時、
俺は、世界を気ままに旅行しまくれる身分か?と想像するに、
それには、ほど遠いと、
現状、思うわけだな…。」
兄は続ける。
「亡くなった、おじいちゃん、
おまえは、あんまり覚えてないだろうが、
そりゃ勤勉な人でな。
回りから退職を惜しまれ、
長年、勤めた会社を去った後、
ほどなく自ら、シルバー人材センターに登録して、やっぱり働く日々に身を置いたんよ。
じいちゃん、ちょっと俺に、
話してくれたけど、
ずっとデスクワークだったのが、
何かと体を動かせる仕事も、
これまた一興!みたいなこと言ってて、
つまるところ、
じいちゃんは、
そんな真面目な人だった…
几帳面だったし…。
回りが、
『もうムリして働かなくていいよ!』って、言うのに、
かなりの高齢までシルバーで働いて、
結果、それが、
元々、あまり良くなかった膝の状態を悪化させてしまったんだけどな…。」
兄は、
そこで一息ついて、
己のティーカップの紅茶を、
全て飲み干すと、
さらに続けた。
「俺が、
思うにだ…定年したという年齢で、
自身が、
生活には困窮していない…というのは、
クリアしていたとしよう…。
それで、
趣味が盆栽とか、
ゲートボール、
釣り、
囲碁、
将棋、
絵を書く、
俳句、
短歌、
読者…などなど、そんな銭を使わない趣味があれば、いいが…なにか自然に、そうなっていればいいが、
そうは、ならない人も、
兄ちゃんは、少なくないんだろうなぁ…と、
思うんよ。
で、
回りくどくなったが、
『趣味をしていて、お金は、いっせん、も、入ってこない。』わけだ。
じいちゃん、なにか、
働くことが1番充実する!とか、
そんなニュアンスで老後、過ごしてように、
俺は思うよ。
だから、
本日、その年配者2名は、
『孫に、小遣い、あげたい!』の働きかも、
しれないし、
『この茶会をもって、しばらくは、自宅で出来る限り質素に暮らそう…。』かも、しれない。」




