【第116話】不穏な勇者
俺は少し悩んだ後、ヴェルナーに話を持ちかけた。
「ではこうしましょう。今回持ち込んだ物についてはサーシャさんと話し合って二人で分割して下さい。今回は金銭的には頂かなくても結構です。」
「「!?」」
俺の持ちかけた話に二人は酷く驚いた顔になる。
「勿論条件があります。」
それは以下のようなものだった。
1、あくまで個人用の『コレクション』とし、他人への譲渡や売買の一切を禁止する。
2、金銭的支援は望まないが今後も【呪われた】一時的なダンジョンのピースを融通する。
3、他に俺が欲しいと思ったものの要望を出すので探す手伝いをする。
4、上流階級向けの対応ができる人員を貸し出すか指導をして欲しい。
以上のような内容だった。
俺がその様に話すとヴェルナーが口を開く。
「こちらとしてはありがたい話なのですがそのようなことでよろしいので・・・?」
「はい。特に希望の1は徹底して守って下さい。それが例え王族の勅命だろうと譲らないという約束が欲しいですね。」
「・・・それについては問題有りません。以前も申したように私は『王家の血筋派』のものでは有りませんので。それに2と3については当然、協力させていただきます。しかし4は・・・?」
「はい。私の個人的なことになるのですがサーシャさんと同じ様な関係の方がもう一人いることはご存知ですか?」
俺がその様に聞くとヴェルナーはにこっと笑みを漏らす。
「ええ、『森の穴熊亭』のアリス様ですね。勿論存じておりますよ。ココだけの話、私もあの味に魅了されている者の一人です。」
俺は予想外の言葉に驚く。
「貴族であるヴェルナー様の舌を掴んでいるとは思ってもいませんでした。」
「貴族であってもああいった物は好みますし、美味しいものは立場を超えるのですよ。」
そう言いヴェルナーは笑う。
「でしたら好都合です。じつはあの店舗の二階に上流階級向けに利用できる個室を作ろうかと思っていたのです。ですが一つ問題が有りまして。」
「なるほど。それが4ですね。上流階級向けに対応できる店員が居ないと。」
ヴェルナーはなるほどと行った表情を浮かべる。
「ご明察です。店舗を用意できても運営できるものが居なければ意味がありません。そこで4となるわけですがご協力頂けませんか?」
俺の言葉にヴェルナーは考えるかと思ったが、そんなことはなくノータイムで返答が来た。
「是非、ご協力させていただきます。ご相談についてはサーシャ様と行えばよろしいでしょうか?」
ヴェルナーの問いかけにサーシャが答える。
「ええ。非常に嬉しい限りです。私としてもこの問題に苦慮しておりましたのでヴェルナー様のお力添えを頂けるのは非常に助かります。」
「では、後ほどご相談致しましょう。」
これで穴熊亭の問題は全て解決できそうで良かった。
二人は分けて所持するものについて、ああでもないこうでもないと言いながらなんとか収まる所に収まり話がついたようだ。
二人とも自慢のコレクションが出来たとホックホクの顔を浮かべている。
現状俺自身、欲しいものも特に無かったので後のことについては二人に任せることにした。
「では今まで通り、色々と宜しくお願い致します。」
俺がそう言い頭を下げるとヴェルナーから感謝される。
「本日は大変ありがたいお話を頂き感謝の念に耐えません。今後も勿論最大限の支援を行うこと、お約束させていただきます。」
そこまで言うとヴェルナーはついでということで話をしだす。
「ススム様は先日現れた『勇者』の存在についてはご存知ですか?」
「ああ、そう言えばそんな話を聞きましたね。『勇者』がどうかしたのですか?」
「はい。実は相当な力を持つ者らしいのですが、どうやら性格的に非常に問題があるものの様で王家も扱いに困っているとのことです。」
「なるほど・・・。確かに『勇者』としての特別な力と『女神の使徒』として降臨している以上、正確に問題があれば王家としては頭の痛い種かも知れませんね。」
「ええ・・・。なるべくススム様の活動には影響の内容にこちらも配慮させて頂き、必要な情報があればまたこちらからもお知らせ致します故。」
正直勇者の話しについては俺は余り首を突っ込みたくはなかったが、現状の問題を考えるといつかは衝突しそうな予感はしているのでそうした配慮をしてもらえるのは非常に助かる。
「ありがとうございます。非常に助かります。」
俺は全ての話が終わった所で席を立つ。
サーシャは、穴熊亭の事で話を早速詰めたいとのことだったのでここで別れることとなった。
基本的にこうした話はサーシャに丸投げしたほうが何かと上手くいくのは事実だったのでサーシャにお願いをして店を出る。
「さてと・・・。」
俺はその足で重い体を引きずり商業ギルドと冒険者ギルドの精算に向かう。
各ギルドに迎えば当然、精算額はとんでもないことになっており再び俺の懐には0がたくさんついたものが転がり込んできた。
今回対応してくれた商業ギルドのバレッサは何か使い道があるのか?と聞いてきたがそんなものはない。
気がついたらこんな事になっていただけだと言うと非常に呆れられた表情をされる。
「ススム様はお金を稼ぐことにおいては右に出るものがいませんが、こと商人としては本当に欲がなさすぎますね・・・。」
「強欲よりは良いかとは思いますが?」
「ススム様はもう少し欲が強くても良いとは思うんですけどね?」
「あはは・・・。」
丁度昼ぐらいになったので俺はアリスに先程の話をすべく穴熊亭へと足を運ぶ。
「それは本当!?」
「うん。おかげで何とか二階の計画が進みそうだよ。」
俺はもぐもぐと穴熊サンドを頬張りながら話をする。
「おー。これでこの店も完全な形で動かせるんだねえ。本当にこんな話になるなんて最初は思っても居なかったけど、ススム君について来て良かったよ。」
「喜んでもらえたようで何より。僕も世話になった店がここまで繁盛し、受け入れられ大きくなっていくのを目のあたりにできるのは嬉しいことだよ。」
ふふっと笑うとアリスもにこーっと笑い返してくれる。
それにしても不穏な動きの勇者ねえ・・・。
まあ俺としては、今ある俺のこの幸せを壊そうとするなら例え勇者だろうと容赦はしないだろうなあ。
そんな物騒なことを考え食事を終えた。




