【第112話】レベル上げ再開!
俺が回復してからの数日間は再び次のダンジョンに潜るまでの間に商人向けの教室を行ったり、スラム街や学校の運営において足らないものを確認、補充したりという日々に追われる。
普段から目まぐるしく動いていた俺が急に心労で倒れたと噂になってからはどうやらスラム街の住民たちにも、商人たちにも衝撃だったようだ。
回復したと顔を見せに行けば本当に安堵した様子で心からの見舞いを何度も貰ったくらいだ。
一番の変化はスラム街に住む者たちの心の変化だった。
自分たちが俺に対し無茶をさせすぎたのではないか、依存しすぎていたのではないかという予想外の気づきを与えたらしい。
そしてもっと自分たちでも出来ることが有るはずだと、自分たちから率先してスラム街を良くしていこうという動きが各所で見られるようになった。
俺はこれらの自発的運動については敢えて首は突っ込まず、過程と結果を見守るだけにしようと思った。
成功するかも知れないし、失敗するかも知れない。
けれども重要なのは自分たちで考え動いたという事実だ。
きっとこの街はもっと良くなる。
俺はそう確信を得ながら準備を行っていく。
俺は次のダンジョンに突入する前に、錬金術師ギルドで大量に薬品を購入していた。
というのも前回のダンジョンで初めて俺の攻撃に対して火力でゴリ押しできないケースが発生していたからだ。
となれば今後はあらゆるケースを想定しなければならない。
特に俺が一番警戒したのは状態異常による、身体的・精神的な障害だ。
これは宗一郎の記憶を見たことで一番厄介だと理解した。
自身の身体や思考のコントロールを奪われる事案だけはなんとしても回避したい。
なので俺はそれらに対応できるように対処薬を購入していたのだった。
「お待たせ致しました。こちらが商品になります。ご確認下さい。」
そうして持ってこられた薬品類を一つ一つ確認していく。
「確かに。性能的にも問題はなさそうですね。」
俺が薬品を手に取れば【ハックアンドスラッシュ】の補助能力である『システムメニュー』が開き、名前と状態を表示してくれる。
「左様でございますか・・・。それにしてもこれらの商品、非常に値が張るものばかりですが・・・。」
「ああ、お金は大丈夫ですよ?お支払いはこちらで良いですか?」
俺はそう言い、商業者登録票を提示する。
「な、なんと!お客様は金級商人様でしたか・・・!これは失礼を・・・!」
「いえいえ。まだ成り立ての身なので実感は余りまりませんが。」
「と・・・言うと、もしや貴方様が途轍もない速度で商人、冒険者共に金級になられたススム様ですか!?」
俺は急に声のトーンが跳ね上がり興奮し始めた錬金ギルド員を黙らせる。
「しー!・・・すこし落ち着いてくださいね。」
「あ、これは失礼しました・・・。」
「それにしても僕の名前がここにまで広まってるのは意外でした。」
「それはもう。大量の薬草類の納品に加え、朝露のセージの件がありましたので貴方様のお名前は有名ですよ。」
そんな事もあったな・・・、と思うと同時にそろそろ冒険者ギルドと商業ギルドで一回精算しないとまずいかもなという思いが急に湧いてきて俺は焦ってしまう。
「あ、あはは・・・。ちょっとやるべきことを思い出したので僕はそろそろ失礼しますね。」
「ええ。ありがとうございました。なにか特別な依頼がある際は指名依頼させていただきますね。」
俺はペコっと頭を下げ、忘れない内にと冒険者ギルドと商業ギルドに行き精算を依頼すると当然のように嫌な顔をされ、日を改めて来て下さいと言われる。
流石に書類の手続きがある以上、日本にいた時のように完全に自動でと行かないのが面倒くさい。
まあ、それでも十二分にオーバーテクノロジーなんだが・・・。
俺はテキパキと準備を整え、そして次の一時的なダンジョンに突入する準備を終える。
次の突入するダンジョンも効率を考え、サーシャとヴェルナーに強力してもらい3つのダンジョンピースは【呪われた】物で揃えている。
「よし、準備完了!」
俺が荷物を確認し終え、見送ってくれるアリスやサーシャ達に挨拶をする。
「またどれくらいの時間になるかはわからないけれど必ず戻ってきますので。」
「ええ、安心して行ってきて下さい。」
「うんうん!気をつけていってくるんだよ!」
そう言って一件安心して送り出そうとしているが、二人はしっかりと手を結んでいるのを俺は横目で見ている。
きっと不安に違いない。
「ポチ!行くよ!」
『わかったのー!』
そう言い、ポチを定位置のフードの中に入れ俺は早速一時的なダンジョンを解放する。
『ダンジョンの入口を発見しました。』
名前:“森の中で”“群れる” “悪鬼達の” ダンジョン
推奨レベル:42
俺は早速、新しいダンジョンへと足を踏み入れる。
ダンジョンの中は俺が初めてこの地に降り立った時の場所のような森林の中だった。
違う点と言えば、俺が降り立った場所は目の前でゴブリン達が集団で集まっているようなポイントであった。
俺は思わず驚きで「げ!」と声を出してしまったのがまずかった。
気配遮断を全力で使用しているので俺の姿は最初こそ完全に捉えられていないようだが、集団の一部にスカウト系のゴブリンがいたため看破されてしまう。
「これはまずいな・・・!」
ダンジョンのレベルが上がれば当然敵の強さもダンジョンそのものの難易度も上がる。
それに今回は自身のレベルが40に対してダンジョンレベル42の場所だ。
気を引き締めなければ一瞬で殺されかねない場所だと再認識する。
俺は一気に場所を引き、逃げる。
そして逃げる最中ででも俺は『風精霊召喚』を唱え、身体に雷の上位精霊を纏い引き撃ちのように足が早く俺に最も近づいてきた個体から確実に屠っていく作戦を取る。
ゴブリン全員が同じ速力で迫ってくるならばこの作戦を取ることは出来ないが、確実に個体差はあるのでこの作戦が見事に刺さる。
逃げならも雷の上位精霊の間合いに入った瞬間、フルオートで電撃を纏った一撃がゴブリンにめり込み木々をなぎ倒しながらゴブリンは吹っ飛んでいく。
雷の上位精霊の一撃はとてつもない速度で放たれるため、並のゴブリンでは急に吹っ飛んだようにしか見えないだろう。
スカウト系のゴブリンから弓矢等で攻撃もされるが、当然それも矢が間合いに入った瞬間フルオートで迎撃される。
攻撃と防御は雷の上位精霊に任せ俺はひたすらに前を向き逃げるだけだ。
レベルも40になり、基礎ステータスも上がっているため足も早くなっているしスタミナも付いている。
あっという間にゴブリンの一団から距離を取ることが出来、ゴブリン達も俺の姿を見失ったようだった。
こうなれば後は今までと同じだ。
体力とMPを回復し、そして遠距離から『ファイアボール』をぶっ放す。
当然、着弾した場所はおまけで『メテオフォール』が降り注ぎ、炎上効果も相まって地獄絵図の完成だ。
ゴブリンの集団を全て屠ればあとは氷の上位精霊を呼び、森を消火しながら戦利品を回収し主が居るであろう場所までゆっくりと歩を進める。
「うーん・・・。道中の雑魚から手に入る戦利品は今日は外れっぽいなあ。」
俺はそんな愚痴を漏らすもある場所でたった一つの反応が出た。
「うん?ボス部屋タイプのダンジョンかなくて通常のエリアにボスが居るタイプのダンジョンか。」
俺は今までの経験からそう思い、それならば勝手が良いといつものようにギリギリの場所からファイアボールを放つ。
だが、そこで予想外のことが起きる。
なんとその主と思われた反応がとんでもない速度で俺の探知から外れてどっかに行ってしまったのだ。
「こっちに来ている様子はない?逃げたのか。ん?逃げた・・・?まさか・・・!!」
俺は大急ぎでその主が居たであろう場所まで近づくとあるものが落ちているのに気が付く。
「これは・・・!少額のお金!?やっぱしトレジャーゴブリンか!!」
トレジャーゴブリンとはその名の通り『お宝を大量に持っているゴブリン』である。
特徴としてはこのゴブリンは基本的にプレイヤーに対し攻撃行動は行わない代わりに、とにかく逃げる。
それもとんでもない速度で逃げるため普通の攻撃では当たらない。
しかも体力もそこそこ有るため倒すのには幾つかの攻略方法が有るがそれらを持ち合わせていない場合、確実に逃げられてしまう。
このゴブリンの厄介な所は、仕掛けた初段の攻撃からカウントダウンが始まりそのカウントダウンが無くなると、完全にトレジャーゴブリンはエリア外に逃亡し、討伐失敗となるのだ。
既に俺の攻撃は放たれている。
つまりカウントダウンは始まっているのだ。
「なんとしてでも討伐しなくては!!待ってろよ、トレゴブ!!」
こうして俺は森の中でトレゴブとの『鬼ごっこ』が始まった。




