【第109話】自分がやるべきこと
俺はゆっくりする時間が1日出来たので『宗一郎の物語』を含めて『始祖の勇者派』と『王家の血筋派』の話を思い返してみていた。
恐らく『始祖の勇者派』が重要視しているのは、『女神ルミナリアに召喚された事実』、それに『勇者しか持つことが出来ない特別なスキル』だろう。
逆を言えばそのどちらか一方しか持ち合わせていないものまたは、どちらも当てはまらない者はただの『迷い人』として認識しているということだ。
特別なスキルは恐らく俺も『ハックアンドスラッシュ』のスキルの『一部』として内包されている『スキルツリー』のことだ。
ただし俺が宗一郎の目を通し見ていた『スキルツリー』は俺のスキルツリーよりも遥かに簡素な物だった。
だが簡素故に使い勝手が良かったのか、比較的簡単に自分の技量に結びついていた。
俺の『ハックアンドスラッシュ』に内包されているスキルツリーはと言うと複雑そのものだ。
恐らく事情を知らない物に俺の『スキルツリー』を与えられたとして、きちんと正しき理解し使い切る事が出来るものは100人に一人いるか居ないかの話だと思う。
更に俺の『スキルツリー』はそれ単体でも非常に強力なものだが、『呪われた装備』と掛け合わせることでその威力がとんでもないことになる。
俺はそれ故、この『ハックアンドスラッシュ』は世界を滅ぼしかねないと再認識した次第であった。
話が若干脱線したが、『始祖の勇者派』は宗一郎だけではなくその後も何回かは召喚され、きちんと『勇者』として認められるだけの実力があるものを支持する、といった派閥なのだろう。
一方『王家の血筋派』は、単純に初代勇者の宗一郎の血筋を受け継いでいる今の王家を支持すると言った派閥だ。
『始祖の勇者派』のヴェルナーは俺が『迷い人』であるということを知っているし、俺の規格外の実力も知っている。
つまり、迷い人である=ルミナリアからの召喚を受けたものという条件を満たし、更には規格外の力を有している=宗一郎のように特別なスキルを有していると確信し『始祖の勇者派』の対象者であると確定させているのだろう。
そう言えば前伯爵は『勇者』が召喚されたと言っていた。
そして勇者は『勇者』として分かる何らかの形で『証』を持っているとも言っていた。
それはひと目見てルミナリアの使徒だという事がわかるのだとも。
そこで疑問が浮かんだ。
宗一郎が召喚された時、その様な『証』は無かったはずだ。
更には旧ルシウス王国には巫女というルミナリアの依代となる存在も居たが今はそんな話聞いたことがない。
最終的に宗一郎はルミナリアの手に落ち闇に飲み込まれ傀儡と化してしまったわけだが、色々と齟齬が生まれているのが宗一郎の記憶を直接見た俺だからこそ分かる。
恐らくだが、ルミナリアが最初に犯したミスを修正するために、子供のようにあの手この手で色々と修正を試みているのではないかと考えた。
それが更に一本の糸がこんがらがってぐちゃぐちゃになって行くように、歴史や法則、理等が本来あるべき姿を保てなくなってきているのではないかと予想した。
『勇者』が生まれたという事はそれは『魔王』が生まれているということ。
『魔王』とはルミナリアが本来は『勇者』として召喚を試みた人物がこれらの理や法則が崩壊すつつ有る世界に不完全な形で顕現してしまった者だ。
それをルミナリアは無理やり正そうと再び『勇者』を呼ぶ。
そして上手く役割を果たせた『勇者』はルミナリアにとっては汚点となり得るため、間接的に殺すか闇に落として傀儡にするという方法を取る。
それはまるで子供が割れたカップを隠すかのような扱いにほかならない。
ヴェリティアは俺に『勇者が世界を滅ぼす』と警告してきた。
これは複数の要因が考えられる。
一つ目は単純にルミナリアが『勇者』を理や法則を無視して召喚しているためにいつか完全に破綻し、世界そのものが崩壊するというもの。
二つ目は召喚した『勇者』が直接的に世界を滅ぼすというものだ。
これは特別なスキル、恐らくはスキルツリーを正しく、かつ強力に育てた勇者がルミナリアの手から離れ自分の意志もしくはルミナリアによる制御が効かなくなり世界を滅ぼすという事だ。
正直どちらも最悪なケースだが、一番厄介なのは一つ目のケースだ。
これは俺の手ではもうどうしようもない。
それこそ『神の領域』なのだ。
二つ目のケースについては単純だ。
その暴走した『勇者』を殺すなり、拘束するなりして無効化してしまえば終わる。
ただ当然、『勇者』として生まれている以上途轍もない力を秘めているに違いはないため、苦労することは目に見えている。
ただどちらのケースにしろ、一番簡単なのは『ルミナリアを止める』ただこれだけだ。
全ての元凶となっているルミナリアそのものを対処できればそれで事は終わる。
ヴェリティアは俺に親兄弟を助けろと要求してきた。
それは親である夫婦神や兄妹である他の神々の力によって、ルミナリアを止めるということだろう。
現在12柱の内、ルミナリアとヴェリティアを除けば10柱の神は恐らくヴェリティアと同じ様に封印されているのだろう。
俺の手にはヴェリティアより託されし『鍵』がある。
恐らくここにも1柱の神が封じられていることは間違いない。
「神を救い出すとか、はっきり言って何の神話の物語だよ・・・。全く・・・。」
コンコン
俺がゴロンとベッドに横になり天井を見上げていたら、ドアをノックされ少しビクッと驚いてしまった。
「は、はーい。」
俺が声を掛けるとひょこっとアリスとサーシャがドアを開け、俺の様子を見に来る。
「ススム君。大丈夫そう?」
「ご飯できましたけど食べますか?」
俺は二人の顔を見て自然と笑みが浮かぶ。
「ええ。お腹へったので貰います。」
俺には守るべき人達がいる。
前に進むだけだ。




