【第108話】夢
用意されたVIP席で俺達は『ソーイチロー物語』と題されたこの国、ルミナス王国としての初代王となった人物かつ最初の勇者、『ソーイチロー』の話を見る。
内容は非常にわかりやすく魔族たちの王、すなわち魔王を討伐すべく旧『ルシウス王国』の姫がルミナリアの巫女として存在しており、その巫女を通して勇者が降り立った。
勇者は王と巫女の願いを聞き入れ、従者として異なる3種族の者を連れて行くことになる。
道中勇者は人々を助けながら成長し、魔王と対峙するのだがその際ドワーフ属の従者は討ち死に、エンジェル族とエルフ族が寝返り魔王とともに勇者を倒そうとするも失敗し、勇者により魔王は無事討伐される。
エンジェル族の従者は逃亡に成功し、エルフ族の従者は捕縛された。
その後、王国に戻った勇者は大々的に祀り上げられ、巫女姫と結婚。
当時『ルシウス王国』を名乗っていた王座を引き継ぎ、名を女神ルミナリアにより近しくするために現『ルミナス王国』へと変更し、初代ルミナス王として玉座に座ることになった。
そういった内容の舞台であり、ハッピーエンドで終わっていた。
ここで俺は初めて他種族の扱いについて知ることとなった。
基本的にこのルミナス王国内では人間がほぼ全てで時折職人でドワーフを見るくらいだった。
エルフを見たのはルビアが初めてで、他にエルフ族やエンジェル族を見たことはなかった。
それにはこうした理由があったようだ。
それにしてもなんだろう。
この舞台を見ている途中から息が苦しく感じ始めている。
「素晴らしい演劇でしたね!ススムさん!」
「うんうん!私こんなに綺麗で面白いの初めて見たかも!」
アリスとサーシャは大興奮と行った感じだ。
「う、うん。そうだね・・・。確かに良く出来た演劇で楽しかったですよ・・・。」
そう言葉を発した瞬間、ズキン!と頭が痛むのを感じる
「ぐっ!」
俺は思わずその痛みに頭を抑え、うめき声を漏らしてしまう。
なにやら胸騒ぎもする。
これは正直まずいと思い急いで退席しようとするが体がうまく動かない。
額に脂汗が大量に出始め呼吸も荒くなりはじめる。
「ススムさん!?」
「大丈夫!?ススム君!気を確かに!!」
俺を心配してくれている二人の声が聞こえるがどんどんとその声も遠くになっていく。
闇に飲まれる。
そんな感覚が身体を支配していくと急に目の前に光が差し込んだかと思うと俺はまるで有る人物の体験を『追体験』させられている様な、現実ではないが、夢幻だと切り捨てることも出来ないリアリティが有りすぎる光景を見た。
それはまさしく先程演劇の舞台で繰り広げられていた『ソーイチロー物語』の内容に酷似しているのだが、はっきりと違う部分があった。
そして俺は理解した。
ああ、これが本当の『宗一郎の物語』だったんだと・・・。
俺はその強制的に目の前で広がる『宗一郎の物語』を見続ける。
勇者、従者、女神、巫女、そして魔王。
これらの役割が客観的な視点で見ることが出来た。
従者の裏切りについても理由がわかった。
やはり女神ルミナリアが介入していた。
エンジェル族にはルミナリア加護を与えるという餌を見せ、エルフ族には全エルフ族を人質に取ったという内容で脅迫をし、別々の内容で勇者を裏切らせていた。
そして生み出される魔王の正体。
これは『ルミナリアが勇者として召喚した者の失敗作』だった。
そして勇者はその『ルミナリアが勇者として召喚した者の失敗作』を排除すべき役割を与えられたルミナリアの駒でしか無かった。
魔王を討伐して『ルシウス王国』に戻ってからの勇者はルミナリアの術にはまり、意識だけを刈り取られ完全に傀儡と化してしまった。
この国が『ルシウス王国』から『ルミナス王国』に変わったのも実際はルミナリアが裏で操っていた結果でしかない。
俺がこれら一連の『映像』を見終わったとき、急に光が差し込みその光に手を伸ばすと俺は意識を取り戻した。
「う、うん・・・。」
俺はどうやら自室のベッドの上で寝ていたようだ。
俺はゆっくりと身体を起こそうとすると、傍らにポチとフィルル、そしてアリスが居ることに気が付く。
『御主人起きたー!!』
『ススム様ーー!!』
そう言い、ポチとフィルルが顔面めがけて飛んできた。
その声で気がついたのか俺の手を握りながら眠っていたアリスも目を覚ます。
「う、うん?ススム君!?」
有無を言わさず、アリスはわんわん泣き出し俺に抱きついてきた。
それらの騒音で気がついたのかサーシャ達もやってきて同じ様に涙を流し抱きついてくる。
「ススムさん!!もう大丈夫なんですね!?」
「ご心配をおかけしました・・・。」
「本当に心配したんだからね!!」
「僕、あの後どれくらい寝込んでいたんでしょうか?」
「丸3日です!」
「ええーーーー!!そんなにですか!?」
なんと俺は演劇場で意識を失ってから『宗一郎の物語』を丸3日掛けて見ていたらしい。
「それは本当にご心配をおかけいたしました・・・。」
「本当にもう大丈夫?」
「ああ、いえ。それは大丈夫です。」
「いえ!心配ですからお医者様をお呼びします!ナナリー!」
「行ってまいります!」
俺はポチ、フィルルに顔面に抱きつかれ、アリスとサーシャには身体を抱きつかれ動けない状態で医者の到着を待つ羽目になる。
「ええ、もう大丈夫ですね。過労か何かだったんでしょう。少しお休み頂ければ問題はないかと思いますよ。」
医者が俺の診察を終えるとその場にいた皆は安堵の様子だった。
「そんなに状態が良くなかったんですか?」
それを聞いたアリスとサーシャはずいっと身を乗り出す。
「それはもう!」
「ずっとうなされていらっしゃったんですよ!」
「あはは・・・。そうだったんですね・・・。本当にご心配をおかけしました。」
まあ、あんな内容を見させられればうなされもするわな。
俺はそんな事を思いながら立ち上がろうとすると、アリスとサーシャに全力で止められる。
「だめだよー!せめて今日一日はゆっくりしないとー!」
「そうです!そうです!せめて一日は様子を見ないといけませんよね!!」
「ええ・・・。」
困惑してしまうが二人の目を見るにどうやら本気のようだ。
ここは大人しく従ったほうが良いだろう。
「分かりました・・・。では今日一日はゆっくりさせていただきます・・・。」
俺が折れてそう言うと何故か二人はハイタッチをしていた。
なんで?
だがまあ、その理由はすぐに分かった。
二人は何かと俺の世話を焼きたいようだった。
汗を拭いてくれたり、食事の補助をしてくれたりと何かと手伝ってくれる。
「ありがとう。」
俺は一応お礼を伝えると二人は満足そうにしている。
まあ、3日間も不安な思いをさせたのだ。
今日一日くらいは二人に付き合うのも良いだろう。




