【第107話】宗一郎物語・その2【外伝】
俺が支度を整え終わる頃に、使いの者が来て俺を王を名乗るものの前まで連れてきた。
昨日の様子とは明らかに違い偉そうな態度が鼻につく。
「では、勇者ソーイチローよ。御主が無事に魔王を討伐し、女神からの使命を無事果たせるよう我が国からの支援を送る。」
そうして王の言葉に合わせ三名の人物が俺の前に出てきて跪いた。
不思議なことに全員が特徴的な身体的見た目を有している。
「我が名は、ドワーフ族のガンバン。勇者の盾として務めを果たせること誇りに思います。」
カンバンは見た目は浅黒い肌をして、背丈が俺よりも低いが岩を思わせる筋骨隆々としたどっしりとした体型にやたらと長い髭を生やしている。
次に名乗り出た女は透き通るような肌に俺よりも高い身長そして長い耳が特徴的だった。
「私の名は、レジカ。エルフ族で索敵と弓を得意としております。安全な旅ができるよう務めさせていただきます。」
最後に名乗り出たのは見た目は一見すると俺と同じに見えるが背中に小さな鳥の白い羽を生やした優男だった。
「私の名前はオルフィン。エンジェル族の神官でございます。例え勇者様がどの様な傷を負おうとも私が治療してみせます。」
「・・・そうか。正直、使える者であればどの様な見た目をしていようが、どの様な名を名乗ろうが関係ない。実力で示せ。」
俺がそう言い放つと、三人は深く頭を下げる。
「「「御衣。」」」
「勇者よ。これも御主に授ける。我が国の国宝の防具である。」
それはとても見た目ががっしりしていて戦鎧の様だったが俺の動きの妨げになりそうな格好をしていた。
そして一番目に付いたのは盾だ。
俺の主武器は太刀と槍になるので盾は不要だ。
「鎧だけ貰っていくが、俺の動きに合わないと思ったら即時路銀に変える。そして盾は俺の獲物に合わないので不要だ。」
俺の言葉に周りがざわっとしたがそんな事は関係ない。
不要なものは切り捨てていく。
「で、では鎧だけ今装備していくが良い。」
明らかに動揺している王から勧められ俺は致し方なくその鎧を着る。
その鎧は不思議なことに見た目はかなりごちゃっとしている印象があったが着てみると自然と大きさが俺の体型に合うように変化した。
「・・・妖術の類か。そこをどけ。試しに動く。」
俺が回りにいる奴らを除けると俺は体を動かす。
やはり見た目とは裏腹に俺の動きを阻害しない。
俺は腰に下げている太刀に手をかけ、一瞬で抜刀する。
「ふっ!」
太刀の動きに若干遅れてビュッ!と風を切る音が聞こえる。
動きに制限はない。
「ふむ・・・。悪くない。路銀になることはなさそうだな。」
俺がそう言うと安堵のため息があちこちから聞こえてきた。
その後もなにやら面妖な物を渡されたが俺は覚える気などさらさらなかったので、付いてくるという三人に管理を任せる。
外に出て、馬を四頭渡され各々でその馬に荷物を載せ準備を整える。
準備が終わり馬に乗り込むと、ふとミューラと目が合う。
晩の事が頭をよぎる。
俺は目を瞑り、そしてゆっくり目を開けミューラに頷き一つで返事をする。
ミューラは何も言わずに祈るように手を合わせ、そして微笑みながら俺に頷き返す。
「出発する。」
俺がそう言い、先陣を切って馬を走らせる。
旅は決して快適なものではなかった。
幾度となく化け物に襲われた。
だがその度に俺の従者として付いてきている者たちは目を見張る連携を見せ、一つ一つを確実に切り抜けていった。
時には襲われているものを助けたりもして感謝の言葉を述べられることもあった。
俺は特に何も言ったりしたりはしなかったが、従者たちが何やらそのもの達に声を掛け、出立する頃には「ありがとうございました!『勇者』様!」などと手を振られることもあった。
『勇者』と聞く度に相変わらず俺の頭が痛む。
夜には呪いのごとく、神を名乗る女に植え付けてきた使命が俺の思考を支配しようとしてきた。
だが次第に俺はその使命に対する適応もすることが徐々に可能となり、俺の意識から切り離せるようになってきた。
それからの旅は非常に順調となる。
従者たちとも少しずつだが信頼が生まれはじめる。
そうなれば当然戦闘においても連携が生まれ、例え難敵だろうと打ち倒すことが出来、それがまた更なる信頼を生んだ。
俺達の旅は山を超え、大海原を船で進み、他の大陸へと続く。
旅の途中ガンバンが俺の愛用している武器、太刀に付いて話を聞いてきた。
「ソーイチロー様のその武器、タチは本当に良く出来た武器ですね。柔軟性が高く切断力が抜群でいらっしゃる。」
「そうだな。この世界の武器はここまでで色々と見てきたが、似たような武器は何一つ無い様だ。」
太刀の性質は圧倒的な切断力にある。
だがその分、柔軟性が高いが折れやすく刃毀れもしやすい武器であるため扱いには慎重にならざるを得ない。
この世界の武器はどれも頑丈に出来ていて刃物も切断すると言うよりも押しつぶして切るというような性質のものばかりだ。
なので俺は普段は旅先で手に入れた槍を主武器として使い、場合により太刀を使い分けて使っている。
そんな話を交えながらもどんどんと旅は進む。
海を渡ってからの新大陸に入ってからは敵の強さは上がり、数も増えてきた。
だが俺達は止まらない。
悔しいが女神に強制的に植え付けられた知識が役に立っている。
どうやらこの世界では自身の強さを示し指標として『レベル』というものが有り、各技や技量を『スキル』と呼ぶらしい。
そして俺には『俺しか知らない特別なスキル』を有しているようだった。
それが、『スキルボード』と呼ばれるものでありレベルが上がると『スキルポイント』という特別な点が入り、『スキルボード』にその点を割り振ると自身の能力を大幅に強化できるというものであった。
これらの存在について従者に聞くが従者たちは何も知らないと言うし、あの女神に植え付けられた知識を探ってもそれらしいものは出てこない。
「どういうことなんだ?」
「どうかなさいましたか?ソーイチロー様。」
そう言いながらオルフィンが俺の様子を見てくる。
「いや、なんでもない。こちらのことだ。気にするな。」
「左様でございますか。」
敵の強さが上がるにつれて、入手できる戦利品の強さも変わってきている。
俺は自身のスキルボードとそれら入手した戦利品を組み合わせて戦うことでより有利に、より強靭に戦うことが出来る。
従者たちは俺が異常な速度で強く変化敷く姿を畏怖の念を込めた表情で時折見ているのを知っている。
だが、そんな事関係ない。
俺はやるべきことをやるだけだ。
旅は季節を幾つも跨ぎ、いよいよ敵の本陣、『魔王』が住むという都市まで来る。
そこでは幾人もの『魔人』と呼ばれる、人に近い者達が住んでいた。
だが、俺達の目的が魔王の討伐だと知るやいなや、徒党を組んで襲ってくる。
こうなれば当然戦うしか無い。
俺は斬って、斬って、斬りまくった。
気がつけば魔王と呼ばれる存在の元までたどり着いていた。
「御主が魔王だな・・・?」
そのものは見た目からして直ぐに今までの者たちとは違うという気配を纏っている。
「ぐ・・・、ぎぎ・・・!」
声をまともに発せない魔王は何かを伝えようとしている様子だったが発せられる声からは何を言いたいのかがわからなかった。
だが不思議なことにその声ともうめきとも言えぬ魔王から発せられた物が自然と頭の中で理解できた。
『殺して・・・!殺してくれ・・・!』
その突然頭の中で理解した言葉に困惑する。
『お願いだ・・・!拙者を殺してくれ・・・!』
確かにそう聞こえてきた声に俺は思わず魔王を凝視する。
「御主・・・、まさか・・・!」
『ああ、俺も元は日の本の人間だ・・・。自分を神と名乗る女に強制的につれてこられて今はこのざまだ・・・。頼む。情だと思って殺してくれ・・・!』
目の前に居る魔王は明らかに人間の姿をしていない、化け物であった。
だがその元はと言えば同じ日の元の人間で、同じ神を名乗る者によって強制的に連れてこられてきたのだという。
「ぐう・・・!こんな事が許されるのか・・・!!」
俺は絶叫すると同時に太刀を抜き、一閃で死を願う魔王を斬り伏せる。
『感謝する・・・。ああ・・・、これで俺は帰れる・・・。』
俺が魔王を斬り伏せ、溶けるように消えていく様子を呆然と眺めていた時である。
急にドン!という衝撃とともに身体に短剣が刺さり、背中から刺されたそれが腹から刃が飛び出しているのが分かる。
「ソーイチロー殿!ぐあっ!!」
俺のその様子を見たガンバンが慌てて俺に近づいてくるもそれはオルフィンの一撃によって阻まれた。
ガンバンの様子を見るに一撃で絶命しているのは明らかだった。
俺は背中に刺さっている短剣を無理に引き抜き、持っていた治療薬をぶっかける。
瞬時にその傷は塞がり治り始めている。
「何故俺達を裏切った!オルフィン!レジカ!!」
そう、俺に刃を突き立てたのはレジカだった。
「レジカ!何故毒を使わなかったのですか!?」
オルフィンがレジカに怒鳴っているがレジカの顔面は青ざめている。
「使ったさ!!何種類もの毒を複合したものを!」
「なるほど・・・。毒か。残念だが俺には毒は効かない。」
俺がそう言うと二人が顔を真っ青にする。
だが、流石は俺の従者をしてきただけのことは有る。
オルフィンの動きは早かった。
一瞬にして転送の魔道具を使用し、この場から離脱した。
それを見たレジカも慌てているが焦りからか上手く行かなかったのだろう。
俺はその隙を見逃さず一気に間合いを詰め峰打ちで思い切りレジカを叩きのめす。
その一撃は致命傷ではないが当然、骨が何本かは折れているし衝撃で気を失っていたのでレジカを捕縛した。
俺は魔王を倒すという使命を終え、遺体となったガンバンと捕縛したレジカを連れ、転送の魔道具を使いルシウス国に戻る。
その後、ガンバンは勇者を守った英雄として祀り上げられ、レジカとオルフィンは勇者を裏切った者として裁かれることになる。
レジカの話によればレジカとオルフィンは旅の途中で女神ルミナリアより直接的な介入が有ったらしい。
魔王を倒したことを確認した後に忠実な従者であるガンバンと勇者そのものを屠るよう指示があったとのこと。
だが俺は正直、魔王を倒した後の記憶が曖昧になっている。
というのも『魔王を倒す』という使命を果たした後、それが引き金になったようで最大級の女神ルミナリアの呪縛が俺を支配し俺の意識を完全に飲み込んだからだ。
半ば俺は見た目だけがそのまま残り、中身は女神ルミナリアの操り人形と化してしまった。
流石の俺でもどうにもならないと感じ、俺は心を完全に閉ざし闇に溶け込んでいくのを最後に感じた。




