その8
エリオの名誉の為に言っておくが、別に呑気に構えていた訳ではない。
邪魔したくても邪魔できない状況である。
自国の人事にも思いのままに出来る訳ではないのに、他国の人事に自由に介入出来る方がおかしい。
なので、傍観する他ないのである。
とは言え、邪魔できても、エリオの性格からすると、邪魔しないような気がする。
「それは、適うのでしょうか?
ルリエ嬢が成人するまで、北方艦隊の指揮官が空白化しますし」
ライヒ子爵は、本質を突いた質問をしてきた。
「ふっ……」
エリオは、唖然とした表情になった。
だが、直ぐにいつもの表情に戻った。
「フレックスシス大公がどう考えるかですな……」
エリオは、遠回しの言い方で結論を述べた。
「つまり、そうはさせないと……」
ライヒ子爵は、エリオと同じ意見のようだった。
そして、現状の説明を求めるような言い方だった。
鈍いエリオだが、そこまで鈍くはない。
「帝国の弱点としては、軍権がバラバラに散らばっている事ですね。
ただ、海軍は北方艦隊以外は皇帝一族が掌握している。
今、この機を利用しない手はないと思われます」
エリオは、まだ遠回しに言った。
実際の所、どうなるかは分からない。
一方に賭け過ぎると、碌な事にならないと考えているのだろう。
こういう要素があるので、こうなる可能性もあるという言い方に終始していた。
大成する人は、よく伸るか反るかの大博打をする。
だが、大博打に敗れた人の方が、圧倒的に多いのである。
そう考えると、責任ある立場にいるエリオは、そう言うことは出来ない。
ま、そういう性格ではないのもあるのだが……。
「そうなると、ハイゼル侯側としては、代理を立てる必要がありますね」
ライヒ子爵は、議論を止める気はないようだった。
「実績のある代理がいるかどうかですね」
エリオは、子爵の意見を補足するように言った。
「失礼ながら、それは無理かと思われます。
数々の戦いで、殿下が、その可能性を潰しましたから……」
マイルスターは、和やかにそう口を挟んだ。
!!!
一同は、シャルス以外、唖然としてしまった。
シャルスは、勿論済ました表情でいた。
大笑いするのを避ける為だった。
「となると、皇帝一族が海軍の全権を掌握する事は確実ですな」
ライヒ子爵は、気を取り直しながら結論を出した。
当然、それに反論できる者はいなかった。
とは言え、皇帝側にも実績のある者がいるのだろうか?
エリオは反論はしなかったが、完全に同意はしなかった。
この辺は流石に稀代の策略家である。
あらゆる事を想定していた。
「皇帝一族が北方艦隊を掌握するとなると、我が国にどんな影響がありますか?」
結論が出た所で、マイルスターが尋ねてきた。
こう言った議論は、自分達にどのような影響が及ぶかを検討しないと意味がないからである。
「特に影響はないだろう」
エリオは、いきなり議論をぶった切るように言い切った。
……。
当然、エリオの言い分には、一同は唖然とする他なかった。
エリオと議論をすると、本当に唖然とさせられる場面が多い。
思考があちらこちらに飛び、付いていけない時が多々ある。
「こちらから帝国を攻める事はないし、帝国からこちらを攻めてくる事はないだろう。
まあ、当分の話にはなるがね」
エリオは、珍しく言葉を続けた。
補足説明をするという事は、きちんと学習能力が作用しているのだろうか?
……。
一同は、唖然として表情から、安堵した表情に変わった。
補足説明があったからだった。
「とは言え、世界情勢はまた変化するだろうね」
エリオは、深刻そうな表情でそう言い切った。
話題が飛びまくって、大変な事になっている。
それに気が付いていないのは、無論、エリオだけだった。
まあ、それはそれとして、自分が起こしたサキュス攻防戦の余波がまだ続いている事を強く認識せざるを得なかった。
その為、エリオは深刻そうな表情を浮かべていた。




