その9
「どう変化するのでしょうか?」
マイルスターは、しばらく待ってもエリオの補足説明がないので、尋ねた。
それは、まあ、いつも通りだった。
そして、こうしたフォロー入れるマイルスターもいつも通りだった。
まあ、勿体ぶらないで、話を進めよう。
「北方の守りが安定すると、注力したい所に注力できるようになる」
エリオは、そう言った。
って、勿体ぶっているようね、これ……。
「マグロット奪還ですか……」
ライヒ子爵は、エリオの考えを直ぐに察した。
副司令官代理を務められる能力の表れだろう。
「現状、帝国側はスヴィア王国と上手く戦っていると思う。
マグロット陥落を利用していると言える。
まあ、要するに戦術的な幅が広がったと言えるかな?
戦略目標を補給路を叩くというたった一つになったお陰で」
エリオは、理論立ててきちんと説明した。
そのせいなのか、忌々しそうにしていた。
フレックスシス大公の意図が分かりすぎるぐらいに分かっていたからだ。
「そう言うことですね。
成る程、ここで北方の守りを固める事により、今、不利である海の戦いをも覆すという事ですか……」
ライヒ子爵もエリオの言いたい事をきちんと理解したようだった。
こちらは、エリオとは対照的に清々しいという顔をしていた。
(どうして、同じ結論なのに、全く正反対の表情になるんだろうか?)
マイルスターはそう考えると、おかしくなった。
笑い出したり、吹き出したりはしていない。
ただ、いつもの和やかな表情が、一層、和やかになるのだった。
恐らく、エリオは、それ以上の結論に達しているのだろう。
エリオの表情からはそう言った事が読み取れた。
「とは言え、スヴィアとは言え、黙っては居ますまい。
何らかの手を打ってくるのでは?」
マイルスターのこの質問は、かなり意地悪とも言えた。
まあ、エリオ相手なので、多少捻くれていても許されるだろう。
と言うか、1人で納得している場合ではないでしょうという意味の質問である。
「その通りだな……」
ライヒ子爵は、唸るようにマイルスターの意見に賛同した。
それに対して、マイルスターがほくそ笑んでいた。
そうそう、このまま、エリオを楽にさせてはいけない。
総司令官なので、考えている事を話し、指示を出さないといけないのである。
少なくとも、マイルスターは、そうやって、エリオに対峙してきた。
「スヴィアはどうするのだろうな?」
エリオは、思いっ切り期待を裏切る発言をした。
これには、流石のマイルスターもずっこけた。
前のめりになっていたからだ。
ここまで、考察しているので、相手側の考察も済んでいるものとばかり思っていた。
「定石で考えるのなら、戦力を増強するのでしょう。
帝国侵攻の橋頭堡を維持したいでしょうし」
ライヒ子爵は、流石に年長らしく、マイルスターと違って落ち付いた対応を取った。
一応、エリオの質問を受けたと言った体ではある。
「そうなんですけどねぇ……」
エリオは子爵の意見は尤もだという感じだったが、煮え切らなかった。
まあ、元々煮え切れない性格のエリオだったが、場の空気を煮え切らない感じに変える程だった。
なので、一同はエリオの次の言葉を待つしかなかった。
「ヴァーカッグとマグロットの間が問題なんだよなぁ……」
エリオは、場の空気を考えていない発言だった。
まあ、いつもの通りと言えば、いつもの通りで、1人で納得している感がありありだった。
ヴァーカッグはスヴィアの国境近くの歳であり、マグロット攻略の拠点だった。
それはともかくとして、勿体ぶりのはいい加減にしてほしいものである。
これは、一同も思っている事だろう。
「ヴァーカッグとマグロットを結ぶ道って、入り組んでいる上に、道が細い。
つまり、補給路としては最悪なんだよね、攻撃されやすいし……」
エリオは、やれやれ感満載でそう言った。
漸く、なんでこんな状況になっているかを説明し始めた。
そう、まだ、説明しきっていないのであった。
「ならば、これを機会に道を整備するのでは?」
ライヒ子爵は、そう尋ねてきた。
「……」
エリオはそれに関しては応えずに、シャルスを見た。
「道路整備については、行う動きは見られます。
ですが、大規模に進めているという動きではないようです」
シャルスは、直ぐにそう答えた。
空気読まないけど、優秀な副官である。
「つまり、マグロットを確保できなかった場合、逆にその道路を使われるのが怖いという事ですか?」
ライヒ子爵は呆れてはいたが、同時に尤もな事だとも思った。
なので、複雑な表情を浮かべていた。
「その通りです」
エリオは、ライヒ子爵と同じ事を感じていたのか、苦笑いを浮かべていた。
「ならば、海から……。
いや、スヴィア王国の港は、意外と離れてますな……」
ライヒ子爵は見方を変えて意見しようとしたが、地図を見て断念した。
ヴァーカッグの近くにいくつもの都市があるが、港があるのはヒューダボルズまで行かないとなかった。
無論、ここからの補給は可能である。
だが、所謂ピストン輸送が可能かと言われると、少々無理があった。
「強大な輸送艦隊があれば、別なんでしょうが、まあ、スヴィアにはそれがありません。
と言うか、西大陸の国で、そんな艦隊を持っている国はどこにもありませんがね」
エリオは、そう言って議論を締めくくった。
補足だが、スヴィア海軍の輸送部隊の一部は、サラサがセッフィールド島沖海戦で叩いていたのだった。




