その7
兵学校の件が済み、マイルスターが自分の席に戻ったのを見て、シャルスが立ち上がった。
エリオをこき使う気満々であった。
珍しくやる気になっていたので、ここは一気呵成に責める《・・・》所である。
ツボを心得たやり方である。
「殿下、ウサス帝国のサキュスの件についてはどうお考えですか?」
シャルスが、提出した報告書の回答を求めてきた。
エリオが何も言わないという事は、訳がある。
大概は今動いても無駄というか、やれる事がない時である。
ただ、エリオの様子を見ていると、ただサボっているだけという点を排除できないでいる。
その辺をはっきりする必要がある為、シャルスとしては周りに告知すべきだという判断をしたのだろう。
要するに、ここでもサボるなと言うプレッシャーを掛けてきた。
それにしても、ここまで下から突き上げられる人物も珍しいかも知れない。
それは、明らかにエリオの性格に起因していた。
「う~ん、あの件ねぇ……」
エリオは、面倒臭そうにというか、明らかに面倒だと思っていた。
引き続き、5人の目がエリオに向いた。
……。
とは言え、誰も発言する者がいなかった。
となると、流石のエリオも自ら話をしなくてはならない空気を察したようだった。
「皆も知っていると思うが、あれは、サキュス攻防戦で失敗した事に起因している」
エリオはあまり思い出したくはないが、現実なので、きちんと向き合わないといけないと感じていた。
「殿下、失敗と仰っていますが、最大の戦略目的は達成できたので、明らかな失敗ではないと思います」
ライヒ子爵は、何もそこまで否定しなくてもと思っているのか、反論した。
エリオの戦略目的を全て完遂出来るとは、思ってはいなかった。
また、それに拘らずに、すぐに反乱鎮圧に向かった点を子爵は高く評価していた。
戦果としては、サキュスの工廠の一部破壊に成功、ハイゼル艦隊の王都駐留部隊を壊滅させた。
達成できなかった点としては、ハイゼル艦隊のサキュス駐留部隊に大した被害を与えられなかった事、サキュスの軍事拠点としての機能を奪えなかった事だった。
とは言え、物的損害を与えただけではなく、人的損害を与えていた。
即ち、ハイゼル侯を討ち取った事である。
これは、戦果として比類無きものであり、エリオも予想はしていなかった点である。
それにより、ウサス帝国全体の防衛力を低下させる事につながった。
この事は、西大陸全体に波及した。
そして、マグロット陥落という前代未聞の事態まで帝国は追い詰められた。
更に、これにより、西大陸全体の国同士の関係が動き出す自体まで発展していた。
そんな中、エリオは、リーラン王国だけが利益を得ていないと感じていた。
だが、まあ、これは過小評価であろう。
確かに、サキュス侵攻により、国内反乱を引き起こした。
危機的な状況に陥ったが、それによって、軍事面、内政面の改革が進んだ事も確かである。
そう考えると、プラス面も大きいという結論に達する。
まあ、この件はこれくらいにして、サキュスの話である。
「まあ、それは議論の余地があるとして、今は、サキュスの話ですね」
エリオは、自分で振っておいて、自分で話を戻した。
「畏まりました」
ライヒ子爵は、エリオの言う事に異論を挟まなかった。
まあ、これまで散々水掛け論をしてきたからだ。
それより、話を進めたいと思っていた。
「ハイゼル侯には、跡継ぎがいない」
エリオは、そう言って話を戻した。
「確か、成人していない娘さんがいましたが……」
マイルスターは、そう言った。
とは言え、帝国では女性に家督を相続させる事は少ない。
況してや、成人していない女性である。
そうなると、火を見るより明らかな展開になると思われた。
「ハイゼル侯は跡継ぎを決めてはいなかった。
しかしながら、報告書のとおり、一族内で争いが起きている訳ではない。
それどころか、ルリエ嬢に婿を迎えて、その婿にハイゼル侯を継がせるように動いている。
そして、それはどうやら一族が団結して動いているようだ」
エリオは、ある意味感心したようであった。
呑気だな……。
エリオの口振りを見て、5人は誰もがそう感じていた。




