その6
「殿下、もう一つ、よろしいですか?」
ライヒ子爵は、マイルスターの企みが成った所で、再び口を開いた。
エリオが仕事をすると決めてから聞くのは、絶好のタイミングである。
こうやって嵌めてしまえば、しめしめと言った所なのだろう。
「何でしょうか?」
エリオは、気分良く子爵の求めに応じた。
目の前にいるマイルスターのほくそ笑む表情には気が付かなかった。
と言うより、いつもの和やかな表情を浮かべていた。
この特技こそ、エリオの参謀としてやって来られた主要因であろう。
「兵学校を作るという事は、殿下にはまた別の目的があると思うのですが、如何でしょうか?」
ライヒ子爵は、単純だが、頭が回らない人物ではないので、尋ねなくても予想は付いていた。
現状、水兵達の訓練は上手くはいっている。
それは、クライセン艦隊の動きを見れば、分かる事である。
それを敢えて変えようという事は、別の目的があるからに他ならなかった。
「現在、水兵は一族の者か、スカウトによるものになっている」
エリオは、子爵の質問にそう答えた。
(スカウト……ですか……?)
ライヒ子爵は、苦笑いする他なかった。
前、大量にスカウトしたのは、エリオだった。
まあ、スカウトと言うより、海賊共に死か従属かを選択させた結果、水兵になった者が多かっただけだった。
いや、こういう条件なので、免罪されるのならということで、選択権を与えられた者達は全員、エリオの配下になったのだった。
それが上手く教育でき、現在のクライセン艦隊の総数増加に繋がっていた。
教育については、色々と意見があるだろうが、結果的には教育が行き届いたのであった。
そして、直前の出来事としては、ホルディム家を吸収した事になる。
これも、また、エリオがやった事でした。
しかし、こちらの方は、道半ばであり、本当の戦力化はこれからである。
でも、まあ、何とか、やっていけると子爵を始め、クライセン一族の幹部は確信を持っていた。
エリオは、水兵達には好かれてはいないが、何故か、命令には絶対に服従するというか、服従せざるを得なくさせる何かを持っている人物だった。
それが、『漆黒の闇』の所以の一つであった。
まあ、それはともかくとして、今後、こう言う事が望めるかというかというと、無理だろう。
こんなに何度も、偶然(?)に人材を得る事はまあ、ないだろう。
「水兵達の窓口を広げたいと思っています。
その為の兵学校と言う事になります」
エリオは、そう続けた。
「と言う事は、一族郎党の者以外、つまり、一般市民からも募集するという事ですな」
ライヒ子爵は、エリオに念を押しした。
「その通りです」
エリオは、きっぱりとそう言い切った。
「納得いたしました」
ライヒ子爵は、本当に感心したようにそう言った。
(だが、殿下は気付いているのだろうか?)
ライヒ子爵は、同時に、不思議で堪らなかった。
エリオがやる気になっているのは、いい事だ。
だが、仕事が増えるのを嫌がるエリオにしては、やっている事がどう見ても自分の首を絞めているとしか思えなかった。
(何か、秘策があるのだろうか?)
ライヒ子爵は、それを聞くのは野暮な気がしてきたので、それ以上は突っ込まなかった。
子爵にとっては、あろうがなかろうか問題なかった。
動き出した以上、止める事を知らないエリオなのだから……。
そして、自分の首を絞めている事には、全く気が付かないのも稀代の策略家である。




