その9
何故か、リーメイとシャルスの話である。
こう書くと、察しのいい人は何故だか分かってしまうだろう。
だが、先の予想は言い当てないようにして頂きたい。
それはともかくとして、リーメイとシャルスは、従兄弟同士である。
そして、この2人は、クライセン家宗家の傍流に当たる。
とは言え、まあ、そんな事は今回の事には全く関係がない事である。
リーメイは、リ・リラの乳姉妹であり、シャルスはエリオの乳兄弟である。
両人に近しい間柄で、その性格もよく知っている人物達である。
なので、本来ならば、リ・リラもしくはエリオの命で行動するのが常である。
だが、今回の隠密行動はどちらの命も受けていなかった。
背任行為ではないが、いや、なくはないが、そうでもないかも知れない。
まあ、要するに、例のあれで、クルスと密に秘に連絡を取り合って動いている。
「で、そちらはどうなの?お兄様」
リーメイは、苛立った様子を隠そうとせずにそう聞いてきた。
ここは中庭。
隠密行動には全く適さない場所である。
声量も普通どころか、ちょっと怒気が含まれているので、やや大きいかも知れない。
要するに、隠す気はなさそうである。
「どうと言われてもな……」
シャルスは、いつもの調子でそう答えた。
元々、あまり口数の多い方ではない。
だが、そう言った途端、リーメイに睨まれた。
「ええっと、いつもぼやきながら仕事をしているのに、そのぼやきがない。
よって、仕事はいつも以上に捗っている」
シャルスは、慌てて観察の結果を上司に報告した。
普段冷静すぎるシャルスにはあるまじき行為である。
それ程、ボスは迫力があるのである。
「あのねぇ、お兄様……」
リーメイのイライラは頂点に達していた。
そこで、怒らない所がまた怖い所である。
何でイライラしていたかというと、聞きたい事はそこではないからだ。
普段、察しのいいシャルスなのだが、この点に関してはポンコツである。
だが、リーメイは、シャルスの報告を聞いて、察してしまった。
朴念仁は、それ以上には成れないと。
「はぁ……」
そう結論が出た途端、リーメイは大きな溜息をついた。
「!!!」
何故か、シャルスがその溜息にビクついた。
戦場で、どんな状況に陥っても眉一つ動かさないシャルスがビクつくとは余っ程である。
「こちらもそうなのよね……」
リーメイは、溜息交じりにそう言った。
もうどうしようもないと言った感じだった。
「……」
シャルスは、無言で自分への砲撃ではなかった事を確認していた。
言うまでもないが、ホッとしていた。
「仕事が捗る捗る!
そのお陰で、各方面から絶賛されているけど、みんな、大事な事を忘れていると思うのよ」
リーメイは、得意気になっている人物を思い出して、呆れていた。
「それはそれは……」
シャルスは、いつもの表情に戻っていた。
自分は安全圏にいる事を確認したからだろう。
と同時に、お笑い好きのシャルスである。
現在の状況が、面白い事になっている事に気が付かない訳がなかった。
そして、更におもろい事になる事は、予想が容易であった。
「自分だけ、上手くやろうって事ですか?お兄様……」
リーメイは、ギロリとシャルスを睨み付けた。
これには、リーメイ自身の僻みも入っていた。
「あ、そう言う訳ではないんだ」
シャルスは、両手でアワアワし始めた。
「どうだが……」
リーメイの視線は、シャルスのいい訳に冷淡だった。
「それより、侯爵閣下は何と仰っているんだ?」
シャルスは慌てて話題をすり替える事にした。
「『掘りは全て埋め立てた。
機が熟したら、構わないから引きずり出すように』と仰っていましたわ」
リーメイは、今までの事がなかったように、ニヤリと笑った。
「了解した。
こちらも容赦なく、実行する事を誓うよ」
シャルスは、ここで初めてニヤリとした。
こうして、2人が知らぬ間(?)に、事は進んでいくのであった。
向こう側とは大違いである。




