その7
サラサとバンデリックは、控え室で待機していた。
退屈そうにしているサラサに対して、バンデリックは緊張していた。
いつもなら、サラサがやらかすのではないかという緊張である。
だが、当然ながら今回は違った。
いや、正確に言うと、それに加えたものがあった。
と言う事は、サラサがやらかさないかという心配の他に、加わったものがある。
言うまでもないかも知れないが、それは自分に対して降りかかった災難である。
少なくとも、バンデリックはそう思っていた。
災難であると。
「まあ、貰えるものなら素直に貰っておいていいんじゃないの?」
サラサは暇そうに上を見上げて、足をばたつかせていた。
子供か!!
容姿からすると、まあ、ピッタリなのだが、それは絶対に口にはしてはいけない。
バンデリックは、心の底からそう思うのだった。
まあ、それよりもだ。
「!!!」
バンデリックは、サラサの軽く言った言葉に上手く反応できなかった。
とは言え、貰ったら貰ったで責任が生じる事は確かだ。
そう考えると、軽く考える事は出来ないでいた。
こういう人間は、貧乏性と言われ、そうでない人は、脳天気と言われる。
なら、どうすればいいのだろうか?
まあ、なるようにしかならないのが、人生である。
「爵位だの、階級だの、それ自体に意味がないとは私も思うわよ」
サラサは、やれやれ感満載でバンデリックにそう言い始めた。
「……」
バンデリックの方は、当然の如く、サラサが何を言いたいのか分からないという顔をしていた。
「でも、社会の認識は違うのよ。
そして、何か、事をなそうとする時には、その爵位とか階級とかが役に立つのよ」
サラサのやれやれ感は一層増していた。
サラサ自身、階級は好きではなかった。
だが、それに依存している自分もいる事は確かだった。
その辺の矛盾が、自分に突き付けられている気分になっていた。
「はぁ、まあ、その通りですが……」
バンデリックは、サラサの言いたい事は理解できていた。
が、だからと言って、今回の措置が必ずしも自分に合っているとは思っていなかった。
「それなら、何が問題なの?」
サラサはその性格故に、単刀直入に聞いた。
「いえ、見合った実績もないのに、与えられようとしていますからね」
バンデリックは、溜息交じりにそう言った。
「実績がない!?」
サラサは、驚き呆れていた。
「???」
バンデリックの方は、素っ頓狂な声を上げたサラサに驚いていた。
「あんたねぇ、あたしとやって来た事を否定するつもり!」
サラサは、バンデリックに顔を近付けながら明らかに怒っていた。
「えっと、それはお嬢様の実績であり、私の実績ではないのでは?」
バンデリックは、サラサを宥めるように言った。
そして、いつでも逃げられる態勢へと移行するのも忘れていなかった。
が、致命的なミスを犯した事には気が付いていない。
「あんたねぇ、その認識は大きな間違いよ」
サラサは、バンデリックが何でそんなに卑屈なのかを理解した。
そして、呆れた顔をして、バンデリックから離れた。
あれ?あの言葉に対する懲罰は?
「???」
バンデリックは、また訳分からないという顔をした。
「あたしが実績を積めるのは、バンデリック、あんたがいるお陰でしょ。
そうじゃないと、あたしは死んでいたわよ」
サラサはそう言うと、申し訳なさそうにバンデリックの左足に目を遣った。
「はい?」
バンデリックは、気を遣っているサラサを不思議そうな目で見ていた。
「要するに、あたしの実績の半分はバンデリックのお陰という事よ」
サラサは、まだ分かっていないと思われるバンデリックにはっきりと言った。
「はぁ?」
バンデリックは、分かったような分かっていないような顔をした。
「兎に角、あたしの傍にいなさいよね」
サラサは、もういいやとばかりに話を締めくくる事にした。
まあ、なるべく照れないように本音を言った事は言うまでもない。
「了解しました」
バンデリックもこれ以上はグチグチしていても仕方がないと悟り、サラサに同調した。
(グチグチ悩まずに、素直に受け取っておこう。
それが、お嬢様の傍にいられる事に繋がる)
バンデリックは、自分なりに決意した。
「ところで、バンデリック……」
サラサは、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「!!!」
バンデリックは、絶句する他に術を持たなかった。
逃亡態勢が全く整っていなかったからだ。
「あたしの呼び名、そろそろ変えてくれない?」
サラサの言葉は、勿論、お願いではなく、要求であった。
(しまった!)
バンデリックが気が付いた時には、もう遅かった。
腹に力を込めよう!
「まあ、儀式が終わってからと言う事ね……」
今回のサラサは、溜息交じりにそう言っただけだった。




