その5
式典はサラサが王都に到着後、直ぐに行われるという事はなかった。
なので、数日の猶予があった。
そして、その猶予がなくなる前日、オーマは国王に呼び出されていた。
「失礼致します、陛下」
オーマは、国王の執務室に通された。
「ルディラン侯、呼び出したのは言うまでもない」
バルディオン王国国王はそう言いながら、処理していた書類を放り出して、立ち上がった。
こういう時も仕事をしているとは、意外に仕事熱心なのである。
まあ、それは置いといて……。
「はぁ……」
オーマは、国王の何時にない機嫌の良さに驚いていた。
まあ、この国王がどんな状況であろうと不機嫌になった所を見た事はない。
そして、今回も取り繕っているという雰囲気は全くなかった。
「侯、話は聞いたぞ」
国王はそう言いながら、執務机の横を通り過ぎて、オーマの傍に寄ってきた。
オーマは戸惑いながら国王の様子を見ていた。
国王がオーマに近付くと同時に、予め招かれていてソファに座っていたシルフィラン侯が立ち上がった。
そして、国王の後ろに立った。
「???」
オーマは、何を言われているのか分からないと言った顔をしていた。
同時に、シルフィラン侯がいる事にも疑問を覚えた。
自分の含めて、この3人が揃う事は、重大な決定がなされる場合であり、前段階の根回しの始まりでもあった。
しかし、今回ばかりは、その課題が思い当たらなかった。
「ワタトラ伯の結婚の件、祝わせて貰うよ」
国王はオーマの手を取りながら、本当に素直に祝福した。
「あっ、ありがとうございます」
オーマは意外な事を言われて、一瞬返答に戸惑ってしまった。
この件は、正式に決まった時点で国王に挨拶すべきだと思っていたが、意外にも情報が漏れていた事になる。
あ、まあ、別に秘密にしていた訳ではない。
父親である本人も、上機嫌になって風潮していたかもしれないので、伝わるのは当然かも知れない。
「私からも、祝わせて頂くよ」
シルフィラン侯は、いつもの静かな口調でそう言った。
儀礼的に失礼のないように、言った事は明らかではあるが、祝福の言葉に詐りがない事だけは確かだった。
「ありがとうございます」
オーマはそうお礼を言いながら、ここで、本当に花嫁の父親の自覚を持った感じになった。
かなり遅い気もするが、今まで浮かれていた分、しっかりせねばと感じていた。
「ついては、その婚姻の件の前に、一つ、形式を整える必要があると思う」
国王は、オーマの手を離しながら真剣な表情に変わった。
「何事でしょうか?」
オーマには全く想像が出来なかったので、素直に尋ねた。
珍しく、想定外の事ばかり起きているようだった。
「ワタトラ伯の相手は、確か……、ば……」
と言いながら、国王は思い出そうと腕組みをしながら、上を見上げてから、
「そう、確か、バンデリックと申したな」
と閃いたようにそう強く言った。
「はい、仰る通りですが……」
オーマの戸惑いは、更に広がっていった。
バンデリックの名前が出てきた事に、違和感しか感じなかったからだ。
正確に名前が出てきたのも驚きだが、どうして、その名が出てきたのだろうか?
あ、いや、考えてみれば、当事者なので当たり前かも知れないのだが……。
ルディラン家にとっては重要人物ではあるが、王国によっては要人という訳ではない。
「その者の階級は、今回の功績で、中佐から大佐に昇進する。
だが、伯爵との婚姻となると、まだ、格が低いと言わざるを得ない」
国王は、オーマに説明し始めた。
(まさか!?)
オーマは、一気に緊張が走った。
やはり、貴族の結婚となると、格というものが大事である。
バンデリックには、それが大いに欠けているのは明らかだった。
と言う事は、流れる恐れもあるのだ。
特に、夫となる人物の格というものが大きくクローズアップされるのだった。
それを失念していたオーマは、一気に動揺するのであった。




