その3
バンデリックの上司はあれなので、地位が高い人間だからと言って臆する(?)事はない。
だが、今回は違った。
単純な話、そんな次元の事ではないからだ。
相手は、侯爵ではなく、嫁さんの父親である。
そうなると、緊張しない訳なかった。
何時になく、緊張したバンデリックは、扉の目の前で目立たないように、小さくなりたかった。
オーマはオーマで、妙な緊張の仕方をしているバンデリックを繁々と見回すのだった。
(私は、どうなってしまうのだろうか?)
バンデリックは、オーマの妙な視線に怪訝さを覚えざるを得なかった。
「バンデリック……」
オーマは腕組みをして、何とも言えない表情でバンデリックの名を呼んだ。
「はいっ!!」
バンデリックは、直立不動していた格好から、更に直立不動した格好で答えた。
どうしたらそんな事が出来るかと思うかも知れないが、そのような状況に陥ったら出来てしまうのである。
これは、経験者以外は分かるまい。
「あっ、いや……」
オーマはオーマで、自分の態度でバンデリックを緊張させてしまった事を不味さを感じていた。
だが、次の言葉が出てこなかった。
……。
よって、沈黙が訪れた。
しかし、この物語はよく沈黙してしまう……。
まあ、それは筆者の能力のせいなので、ここは置いておくとする。
「まず、聞いておかないとならない……」
オーマは、何故か済まなそうにそう切り出した。
「はぁ?」
バンデリックは、バンデリックで何を聞かれるのかと身構えた。
だが、詰問されるという雰囲気は微塵も感じられなかったので、どう対応すべきか、悩む事となった。
この辺の危機管理能力は、随一なので、バンデリックの感じ方に間違いはないだろう。
「いや、もっと早く聞いておくべきだったな!」
オーマは、意を決したようにキリッとした。
現状は、オーマ自身が予め予想できた事態である。
それを放って置いたのは不味かったと感じていた。
「何をでしょうか?」
バンデリックは落ち付いてきたのか、まどろっこしくなったのか、質問を促してしまった。
ちょっと迂闊だったか?
「怪我の方は大丈夫なのか?」
オーマは、バンデリックが付いている杖を見ながら聞いてきた。
(あっ!これの事か!)
バンデリックも、自分の杖に視線を落としながら得心がいったようにそう思った。
「足を引きずっていますが、日常生活、戦闘状態にも耐えられます」
バンデリックは、胸を張ってそう答えた。
そして、何だか安心した。
「いや、そう言う事を言っているのではない!」
オーマは、何故か語気が荒くなった。
「えっ!?」
バンデリックは、絶句する他なかった。
全く予想しない答えが返ってきたからだ。
それどころ、オーマはズカズカと、バンデリックの元にやって来た。
そして、両手で、バンデリックの両肩をがしっと掴んだ。
(いっ?)
バンデリックは、オーマの思わぬ強い力にたじろいだ。
安心するのは早かった?
こうなると、バンデリックは何もする事は出来なかった。
なので、オーマの次の行動を待つしかなかった。
「男性としての機能は大丈夫かという事だ!」
オーマは自分の顔を、バンデリックの顔に近付けながら真剣な表情で言い放った。
「!!!」
バンデリックは、驚きながら力が抜けていった。
だが、オーマの握力は強まる事はあっても、弱まる事はなかった。
それだけ、真剣だった。
そして、オーマはジッとバンデリックの答えを待っていた。
「はい、問題ありません!」
バンデリックは、そう叫んだ。
叫んでしまったのは、まあ、こう言う時はそうぜざるを得ないよなと言う事である。
「……」
オーマは、しばらく反応がなかった。
(不味かったか?)
バンデリックは、そう思った。
が、勿論、そう考えるのはおかしな話である。
「そうか、そうか!」
オーマはそう言いながら、両手でバンデリックの肩をバシバシ叩いた。
心から安心しているようだった。
(痛い、痛い!!)
バンデリックは、本気で叩かれているので、痛みを感じていた。
だが、こう言った手前、口にする事は出来なかった。
これも、単に、危機管理能力の高さを示していたのだった。




