その2
「御父様、私達、結婚します」
サラサは、絶句しているオーマに構わずにそう言って、ニコリと微笑んだ。
(誰と?)
(誰とですか?)
ヤーデンとヘンデリックは同時にそう思い、お互い、顔を見合わせた。
いきなりの展開に、付いていけないようだった。
無理もない。
「……」
父親の方は絶句した状態から、魂が抜け出たんじゃないかという状態になっていた。
珍しい事である。
まあ、娘の事となると、親バカに振り切れてしまうので、当然の反応か?
ただ、間抜けにも「誰と」という風には思ってはいなかっただけ、マシなのかもしれない。
(あっ、それ、私が言うのでは?)
バンデリックの方はサラサが先んじてしまったので、唖然としていた。
サラサの方はサラサの方で、吉報を早く話したくて仕方がなかったのだろう。
ラブコメコンビは、ここにもいた事になる。
ただ、あっちと違うのは、話がどんどんと進んでいく方向に向いている事だろう。
……。
まあ、当然の事ながら、突然のサラサの宣言により、場が静まり返ってしまった。
「あっ……」
バンデリックは不味い雰囲気になったとして、口を開こうとした。
だが、オーマに睨まれて、その後が続かなかった。
まあ、正確には、オーマはバンデリックを睨んだ訳ではない。
父親として、娘の相手を確認しただけだった。
とは言え、こういう場合、漢という者はそう感じ取ってしまう動物である。
……。
バンデリックが口を閉じてしまった為、また沈黙が訪れてしまった。
(あれ?)
サラサはずうっとニッコリと微笑んでいたが、あまりにも長く続く沈黙に戸惑いを感じ始めていた。
流石のサラサにも場の空気がおかしいかなという感じは伝わってきたようだ。
そんな状況の中、ヤーデンとヘンデリックは、どうしようかと表情で見合っていた。
この2人は、相手は誰と聞いていいものか、どうかを確認し合っていた。
場は静まり返っているのに、カオスな状態になっていた。
その場にいない関係ない人間から見れば、非常に面白……、ではなく、興味深い状況である。
そして、なんでこんな状態になっているかはよく分かるので、まあ、そう言う事である。
「あっ……」
居たたまれなくなったバンデリックが、再び口を開こうとした。
「バンデリック!」
オーマが沈黙を破るかのように、鋭い口調でバンデリックの名を呼んだ。
海軍総司令官である故に、迫力は十分であった。
バンデリックは、立場上、それ以上の圧を感じていたのは言うまでもなかった。
それでも、バンデリックは、直立不動になり、
「はい」
と、緊張しながらもよく通る声で答えた。
「うむ……」
オーマはバンデリックを品定めするように、見回した。
困ったような、何か、引っ掛かるような表情であった。
「……」
バンデリックは、無言のまま直立不動を保つ他なかった。
「御父様……」
サラサは流石に、父親に真意を尋ねようと口を開こうとした。
「バンデリック、別室に来てくれ」
オーマはそう言うと、隣の控え室に入っていた。
「畏まりました」
バンデリックは、オーマの後を慌てて追った。
サラサもその後を追おうとしたが、
「バンデリックだけだ」
とオーマにそう言われて、別室に入る事を許されなかった。
そして、バンデリックを別室に招き入れると、オーマ自ら扉を閉じた。
執務室には、唖然としたサラサと、サラサの相手がようやく分かったヤーデンとヘンデリックが残された。




