その10
フランデブルグ伯は、駐在大使のマルサス伯、艦隊参謀長サズー、副官のイーグと共に、控え室で控えていた。
この時、法王とエリオ達は会談を終えていた。
「マルサス伯、私が責任者でよろしいのでしょうか?」
フランデブルグ伯は、眉間にしわを寄せて何とも言えない表情でそう聞いた。
「本国からは何も指示を受けてはいません。
派遣艦隊の総司令官はワルデスク侯でしたが、戦死なさいました。
その跡継ぎであるジル・ワルデスク伯も戦死なさいました。
序列から言うと、フランデブルグ伯、あなたが最高責任者となります」
マルサス伯は、長々と説明した。
長々と説明したので、自分が進んで責任者にはなりなくないのだろう。
行われる会談自体は、シーサク側にとって不利なものとなるのは明白だからだ。
「はぁ……」
フランデブルグ伯は、気のない返事をした。
トップであるという事にフランデブルグ伯は心躍るものはなかった。
出世は好きすぎる程だが、それ故に、状況は良く分かってしまう。
伊達にコネもなしに出世してきた訳ではなかった。
とは言え、まあ、誰にでも分かる状況ですよね。
これから行われる会談は、どう考えてもシーサク王国には不利な結果が予想された。
その責任を負わされるのは回避したいのは山々だが、フランデブルグ伯には、序列という意味でも気にしていた。
マルサス伯とは、同じ爵位である。
シーサク王国には冠位というものはないので、爵位と役職で序列が決まる。
艦隊司令官と駐在大使、どちらの役職が上かと言われると結構困る。
だが、マルサス伯とは決定的な違いがあった。
マルサス伯は、バーク公爵の一門である。
バーク公爵は、シーサク王国軍の総司令官であり、国王の従弟である。
それに加えて、13貴族の家柄でもあり、王族に連なるので、13貴族のトップだった。
つまり、この場合、爵位は同格でもマルサス伯の方が遙かに格上になるのだった。
だが、マルサス伯は積極的にフランデブルグ伯に責任者として交渉するように促している。
これは、遠回しではあるが、命令でもあった。
なので、フランデブルグ伯は強くは拒否できない立場である。
(まあ、全部引っくるめて責任を取れという事なのだろうが……)
フランデブルグ伯は、眉間のしわが益々深くなった。
その傍らにいた艦隊参謀長サズーも不安と不満がなかった訳ではなかった。
(今回、私は艦隊参謀長として、他にやれる事はなかっただろうか?)
サズーは、真面目な性格らしく、これまでの経緯を振り返り反省していた。
そして、ジッと考えた。
あらゆる場面が思い浮かんでは消えたていった。
(やはり、伯爵閣下の判断は正しい……。
あそこで、伯爵が決断を下してくださったから、全滅を免れたのだ。
停戦の際のクライセン総旗艦艦隊のあの見事な艦隊の動き。
それまでも凄かったのだが、あれで、我が艦隊との力量差がはっきりとした。
本当に恐ろしかった……)
サズーは停戦直後に感じた生きた心地がしなかった事を思い出していた。
とは言え、それはそれと割り切れる人物である。
(ならば、その前ではどうだろうか?
ルディラン総旗艦艦隊での対応は?)
サズーは、再びジッと考えた。
(戦えば良かった?
いや、そんな事をしても無意味であるな。
我が艦隊が、総旗艦艦隊と対峙する事により、ワルデスク艦隊がワタトラ艦隊を追尾できたのだ。
そう考えると、あれも間違ってはいない)
サズーはそう思うと、気持ちが沈んでいった。
因みに、ここでの総旗艦艦隊は、オーマ艦隊の事である。
いずれも自分達はやるべき事をやったという結論だから、胸を張っていい場面ではある。
だが、結果は、自分達の完敗だった。
自分達はミスはしていないが、味方の決定的なミスによって、完敗したのだった。
そう考えると、もう落ち込む他ないだろう。
そして、それだけならまだしも、もっと決定的な事柄が待っていた。
今回の責任を全て自分達に押しつけられる事だった。
(とは言え、あそこで無理にクライセン公に挑んでも損害が甚大になる一方。
そういう意味では、我々は何ら間違ってはいない)
サズーはそう思う事で、自分を鼓舞するのであった。
そして、もう一人傍らにいるイーグも今回の事を考えていた。
(伯爵閣下の判断により、私は無駄死にせずには済んだ。
感謝すべき事だろう。
とは言え、スライスは無駄死にしたようなものだな……)
イーグは、感謝と共に悲痛な思いを抱えていた。
ワルデスク侯の副官であるスライスは、イーグとは士官学校の同期であり、親しい友人であった。
共に、シーサク艦隊を盛り上げていこうと誓い合った中であった。
その友人が、意味を見出せずに散っていった。
これは耐え難い苦痛であった。
(艦隊司令官というものは、本当に大事なんだな……)
イーグは、そう思いながら現状を噛み締めていた。
当然、フランデブルグ伯に対するイーグの評価はあまり高くなかった。
何せ、覇気がない。
そして、出世に目がない。
軍人からすると、唾棄する輩である。
だが、そんな人物が正しい判断をして多くの将兵を救っていた。
そして、一方、覇気に満ちた司令官は、正しい判断を下せなかった。
この事実は、イーグの今後の人生に大きな影響を及ぼす事となった。




