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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第3巻  作者: 妄子《もうす》
29.第2次スワン島沖海戦
34/263

その1

 太陽暦536年8月、エリオはアメット海にいた。


 艦橋でのんびりと、お茶を飲みながら、サラサvsワルデスク侯爵の戦いを眺めていた。


(自分とは関係ないという事は何て、素晴らしい事なのだろうか!)

 エリオは嬉しさ爆発といった感じでそう思っていた。


 だが、表面に現れているのは、ぼけらっとした表情で、暇そうな総司令官がいるだけに過ぎなかった。


 そして、エリオののんびりした雰囲気とは違い、何故が、ピリピリする水兵達。


 しかし、その理由は、エリオが水兵達の神経を逆撫でする存在だからではない。


 あ、いや、そのぉ、書いておいて何だが、それも否定できないではいる。


 まあ、それはともかくとして、水兵達には戦いが近付いている事を肌で感じているのだろう。


 感じていないのは、この稀代の策略家だけかもしれない。


 この『漆黒の闇』め!


 水兵達の怨嗟の声が、声にならずとも気のせいだと思いたい総参謀長のマイルスターだった。


「閣下、バルディオン第2艦隊とワルデスク艦隊の戦闘は終了したとの事です」

 シャルスが、エリオにそう報告した。


「やれやれ……」

 エリオは、これまで聞いていた戦闘経過の最後の報告としてそれを聞いていた。


 なので、やれやれ感満載だった。


 エリオにしてみれば、帰結の見えた戦いだった。


 経過報告は予想された物だった。


 確かに、意外とワルデスク艦隊の統制が取れているという点がちょっと違っていた。


 とは言え、やはり、結果は概ね予想通りになったのだった。


「さてと……」

 エリオは、予定通りの命令を下そうとした。


「閣下、そのワルデスク艦隊がこちらに近付いてきています」

 シャルスは、まだ報告があるとばかりにそう続けた。


「いっ……」

 エリオは、固まっていた。


 だが、周りの怨嗟の雰囲気は高まっていた。


 ほら見ろっと声さえ聞こえないが、そういった雰囲気がエリオにも分かるぐらいになっていた。


「ええっと、どういう事?」

 エリオは、いつも以上の間抜け顔でシャルスに聞いた。


「閣下、『どう言う事』と仰られても、そう言う事としか、申し上げられません」

 シャルスは、いつもの空気読めませんを発動した。


 その光景を見て、マイルスターは危機的な状況にも関わらず、笑いを堪えていた。


「……」

 エリオは、あまりの事に絶句していた。


 無論、思考も停止していた。


 流石に、稀代の策略家であり、『漆黒の闇』である。


 どう見ても、全ての物を闇に引き込んでいた。


「閣下、ご決断を」

 マイルスターは、やれやれともさあさあともいう感じで、和やかにいつも通り、エリオに決断を求めた。


「……全艦、西に向かえ……」

 エリオは、頭を抱えながらそう命令した。


 この命令自体は先程出そうとした命令である。


 しかし、さっきの気分と、今の気分では当然異なる。


 そして、命令の質も異なっていた。


 艦隊は、エリオの思いを他所にすぐに西へと向かい始めたのだった。


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