その21
「よし、このまま陣形を再編し、敵艦隊に乗り込むぞ!」
ワルデスク侯爵は、檄を飛ばした。
艦隊は侯爵の劇に呼応するかの様に、陣形を急激に整えていった。
息子であるジル・ワルデスク伯爵は、それを羨望の眼差しで見ていた。
そして、副官のスライスは、侯爵の指揮能力の高さを評価していた。
陸戦での経験がそうさせていたのだった。
とは言え、指揮官の指揮能力がいくら高くても艦隊運用は上手く行く訳ではない。
その命令を実行できるだけの力が、艦隊になくてはならない。
そういった意味では、シーサク艦隊はよく訓練されていた。
その辺の所を、サラサは意外と思いながらも大いに評価していた。
なので、油断せずに第2撃を加えたのだった。
ドッカーン!!バッシャン!!ドドド……。
サラサ艦隊から放たれた砲弾は、陣形の先端部分に集中した。
正確に言うと、先端部分になる場所に殺到した。
不味い事に、先端部分を中心に陣形を整えていたワルデスク艦隊であった。
その為、ワルデスク艦隊の陣形は乱れに乱れた。
中心点に激しい砲撃をされたので、混乱するのは無理はないだろう。
「ぐぐっぐ……」
あまりの見事な砲撃の為、侯爵は揺れる艦上でバランスを取りながら、歯軋りをするしかなかった。
見事なカウンターを喰らい、為す術がなかった。
だが、その間、損害が増大するという訳ではなかった。
サラサ艦隊の砲撃はあくまで牽制であり、撃沈を狙ったものではなかったからだ。
更に言えば、ワルデスク艦隊の各艦もサラサの意図を察知して、砲撃地点から離れてた。
無様な陣形になり、接触する艦艇が出た。
が、沈没する艦が無かったのは、訓練の賜だろうか?
ドッカ~ン!バッシャーン!!ごごご……。
そこに容赦なく、サラサ艦隊の第3撃が襲い掛かった。
先程の砲撃地点を中心に、より広い場所に着弾した。
ぐらぐらら……。
旗艦も先程より大きく揺さぶられた。
侯爵とスライスは、バランスを保っていた。
「うぁっ!!」
と言う事なので、伯爵は派手に転んでいた。
バンデリックが転ばされた意趣返しではないが、サラサ艦隊もお返しをした形になった。
あ、まあ、サラサはそんな事は知らないし、どうでもいい事だろう。
だが、伯爵の方は、かなりの屈辱であった。
顔を真っ赤にして、痛みを堪えて立ち上がろうとしていた。
そこに、止めというべきの第4撃。
ドンッ!!バシャン!!ぐらぐらぐら……。
第4撃は、更に広範囲にばら撒かれ、ワルデスク艦隊は完全に陣形を失った。
あ、でも、止めというのは何かおかしい表現だ。
ワルデスク艦隊からは被撃沈艦は1隻も出ていないからだ。
とは言え、旗艦が更に大きく揺さぶられたので、艦は大きく揺さぶられた。
侯爵は物に捕まって、何とか堪える羽目になった。
スライスは、屈んで手をつきながらの体勢を維持するのが精一杯だった。
伯爵の方は、起き上がった瞬間に、甲板に叩き付けられていた。
「ぶへっ」
今度は、顔から言ってしまったので、伯爵は無様な声を上げてしまった。
でも、これは仕方がないと思うのである。
運が悪いと、こうなるよねと言う典型的な見本である。
ホント、仕方がないのである。
とは言え、無様すぎるのは言い換えようがない事実である。
しかも、大きな揺れが収まるまでは、伯爵は為す術がなく、翻弄されていた。
貴族にあるまじき失態……。
伯爵は、そう感じると、腸が煮えくりかえった。
恐らく、周りは仕方がないとか、お気の毒とか思うだけで、それ程気にはしないだろう。
甲板にいた水兵達も結構な人数が転倒していたし……。
でも、そこは貴族の中の貴族である。
原因を作ったサラサに対して激情した事は言うまでもなかった。
だが、しかし、完全に混乱状態に陥ったワルデスク艦隊を他所に、サラサ艦隊はこの海域から一気に離脱を果たしていたのだった。
サラサから見ると、絡まれていたので付き合っていただけ。
それが無くなれば、いち早くいなくなるのが得策である。
そして、それを実行したのに過ぎなかった。
「……」
伯爵は、ようやく起き上がれた時には、サラサ艦隊は遙か遠くに過ぎ去っていた。
激情に任せて、追撃するにしても追い付けないと分かる距離がそこにはあった。
アメット海海戦は、こうして終了したのであった。
ある意味、海戦とは名ばかりのものであったのは言うまでもなかった。




