その16
そして、オーマ艦隊の方である。
それにしても、次々と視点が変わる。
筆者泣かせの場面である。
忘れないように、色々と書いていかなくてはならない。
オーマ艦隊とフランデブルグ艦隊は、まだスワン島沖にいた。
2つの艦隊は、射程外ギリギリの距離を保ちながら、追いかけっこをしていた。
この海域は神域である。
なので、互いに砲撃したりしなかった。
でも、まあ、射程外にいるので、砲撃しても無駄なことは両指揮官ともよく分かっていた。
と言う事で、無駄なことはしなかった。
「いや、ワタトラ攻防戦の時もそうでしたが、やり方が徹底していますな……」
ヤーデンは、フランデブルグ艦隊を見ながら、感心と呆れが入り交じった感じでそう言った。
とは言え、明らかに嫌がっていた。
「ああ、見事だな」
オーマは腕組みをしたまま、唸るように言った。
オーマは人を非難することは滅多にないが、実力がない者を無理に持ち上げたりはしない。
そのオーマが、2回目の邂逅でフランデブルグを高く評価しているようだった。
前回の戦い振りは、ブラフでも何でもないと。
名将とはまだ評価できないものの、独特な何かを持った人物である事は疑っていなかった。
ただ、それ故に、オーマは幸いだとも感じていた。
「それ故に、考えが読みやすくていい……」
オーマは、そう続けた。
「???」
「???」
その言葉を聞いたヤーデンもヘンデリックも、あからさまに頭の上に「?」マークを浮かべた。
もう一方のワルデスク侯の方も考えが読みやすいのは明らかだった。
それ故に、ヤーデンは何かいいたそうな表情になった。
「ワルデスク侯の方も考え方は分かりやすいだろうが、サラサの方は苦労しているだろうな。
全く、不甲斐ない父親だな……」
オーマは、ヤーデンが言いたい事を先に言った後に、自嘲気味に最後の言葉を付け加えた。
結構深刻に気にしている様子だった。
ならば、役割を変わればいいのではないかと思うかも知れないが、そうも行かなかった。
位置的には簡単に、オーマ艦隊とサラサ艦隊は入れ替える事は可能だった。
だが、その時は、ワルデスク侯もフランデブルグ伯も、サラサ艦隊に殺到するのは目に見えていた。
そう、オーマ艦隊は意味なく、遊兵になる。
ならば、艦隊を分けずに行動したらどうなるか?
その場合は、熾烈な戦闘になる。
負けるとは考えられないが、それなりの損害を出すだろう。
それは、こちらとしては最もやってはいけない事である。
と言う事で、今の作戦になる。
フランデブルグ艦隊をオーマ艦隊が抑えている間に、サラサ艦隊が離脱し、更にワルデスク艦隊をも振り切る。
然る後に、オーマ艦隊も離脱するというシナリオである。
その際、意味のない戦いを仕掛けてこないフランデブルグ伯が相手だと助かるのは言うまでもなかった。
だが、それはサラサにまた苦労を掛ける事となる。
とは言え、それが一番サラサに苦労を掛けない戦い方であるのもまた事実である。
そういった葛藤の中、オーマは自分の不甲斐なさを突き付けられるのであった。
「閣下……、お考え過ぎでは?」
ヤーデンは、そう言う他なかった。
何の慰めにもなっていない事もヤーデン自身は分かっていた。
「とは言え、サラサにはその苦労も糧として貰う他ないか……」
オーマは、そう納得する他なかった。
案の定、ヤーデンの言葉は何の慰めにもなっていなかった。
しかし、今回の事はオーマには堪えたのだろう。
艦隊戦で散るのならまだしも、こういった使者の形で散るのは、勿体ない才能である。
親バカの極みではあるが、サラサには納得した人生を送って貰いたいと考えていた。
納得した人生を送るのはとても難しい事だとしてもだ。
「閣下、第2艦隊がアメット海に入りました。
そこで、ワルデスク艦隊と交戦中との事です」
ヘンデリックは、報告書を読み上げた。
雰囲気を変える切っ掛けとしては、良い機会だった。
が、内容が内容だった。
「第2艦隊とワルデスク艦隊の位置関係は?」
ヤーデンは、直ぐさまその報告に反応した。
「第2艦隊が、先んじていたとの事です」
ヘンデリックは、更に報告した。
「ふぅ……」
ヤーデンは、ヘンデリックの答えに安心して堪っていた息を吐いた。
2人のやり取りを聞いていたオーマは、苦笑した。
自分が落ち込んでいる場合ではないと思うと同時に、サラサは大丈夫だと確信した。
「よし、どうやら、心配の種は我が艦隊の方だな」
オーマは、安心したかのようにニヤリと笑った。
いつも以上のオーマが戻ってきた瞬間だった。
「艦隊進路を南へ。
一旦、ネルホンド沖に近付いた後に、東進。
我が艦隊も戦闘から、いや、まだ戦闘はしていないな……。
離脱を図るぞ」
オーマは、待ちに待った命令を下していた。




