その6
緊張感がないような感じで……、と言うより、緊張感は増し増しか……。
どちらかと言うと、本来考えなくてはならない事をおざなりにして、サラサとバンデリックは入港した自分達の旗艦に乗り込んだ。
乗り慣れた艦なのだが、どこか、懐かしく思えた。
まあ、思い返すまでもなく、今回の任務は2人に大きなインパクトを残したものになっていた。
戻って来られた事に、感謝すべきだろう。
と、感慨に浸りたいのだが、そうは行かない。
問題は何も解決していないからだ。
(取りあえずは、問題なさそうね……)
サラサは、バンデリックを見ながらそう思った。
だが、口にはしなかった。
そんな事を気にするくらいなら、聞けばいい事である。
でも、それは一種のの禁忌である。
聞けば、「大丈夫だ」と答えるのは目に見えている。
ただ、それを鵜呑みにして、事を収める訳にはいかなかった。
サラサは、艦隊司令官であり、使える人間、使えない人間は自らの判断で決めなくてはならない。
なので、自分でしっかりと見極めなくてはならない。
自分の副官に相応しいかどうかを。
(お嬢様、怖いですよ……)
バンデリックは、バンデリックで、サラサが異常に自分を観察してくるのを感じていた。
と言う事とで、殊更大丈夫アピールをしていた。
いくらバンデリックでも、既に自分が任務に耐えられるかを見極められている事ぐらいは察していた。
なので、ここは何事もなかったように振る舞わなくてはならない。
「閣下、出港準備は既に整っております」
バンデリックは、いつもの業務に復帰する事にした。
自分で言っていて、しっくりしていた。
やはり、自分はこうでなくてはならないと感じていた。
前と違って、杖をついていたが、気にはならなかった。
まあ、その辺には、新鮮味を感じていたのだが……。
「よし、これより本艦は出港する」
サラサは、バンデリックの言葉を聞いて、ニヤリとした。
「出港!」
バンデリックは、命令を復唱した。
それにより、周りの水兵達が動き出した。
旗艦は、ゆっくりと岸壁を離れていった。
「閣下、入港前の状況ですが、現状はこうなっております」
バンデリックは、机に地図を広げて、敵味方の艦隊の位置を示した。
「意外に、シーサク艦隊が離れているのね」
サラサは、感心していた。
「リーラン西方艦隊の牽制によるものでしょう」
バンデリックは、サラサが感心した理由を述べた。
「西方艦隊?」
サラサは、あれって表情をした。
「ああ、北方艦隊からの転属ですよ」
バンデリックは、リンク艦隊の事情を説明した。
「そうだったわね。
これで、より即応できる環境が整ったという訳ね。
忌々しい!」
サラサは、エリオの意図を完全に見抜いていた。
リーランの西方艦隊は、大陸に近いため、即応できる艦隊が必要であった。
これまで、クライセン一族ではない艦隊が駐留していたため、即応という点ではかなりの難点があった。
それを解消したのだった。
「……」
バンデリックはサラサの態度に、いつも通り苦笑いする他なかった。
褒めておいて、最後に思い切り突き落とす芸が健在だからだ。
「とは言え、本艦出港後、各艦隊は動いている事は確実ね」
サラサは、各艦隊の駒を動かしながらそう言った。
「……」
バンデリックは、それを見ながら無言で頷いた。
「よし、本艦は、最短距離で本隊と合流する」
サラサは、地図から視線を上げると、次の命令を下した。
水兵達は、その動きを変える事なく、自分の任に励んでいた。
予想された命令だったからだ。
バンデリックは、しっくりくるサラサを見て、安心した。
(やはり、こうでなくては)
バンデリックは、自分の足の事はさておき、心からそう思っていた。
「しっかし、あのトラブルメーカーは、ここでも出てくるのね」
サラサは、悪態をつきながらそう言った。
「へぇ?」
バンデリックは、めまぐるしく変わるサラサを見て、唖然とした。
サラサは、さっき手を触れようとしなかった艦隊の駒を睨み付けていた。
(いつものお嬢様だ……)
バンデリックは、サラサの態度を見て更に安心した。
完全に、戦いに備えていたからだ。
え、睨み付けていた艦隊は?って、それは書くだけ野暮でしょう。
- 艦隊配置 -
スワン島
LC
CS R EC
LC:クライセン西方艦隊、EC:エリオ艦隊
R:ルディラン艦隊
CS:シーサク艦隊




