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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第3巻  作者: 妄子《もうす》
28.アメット海海戦

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その5

 さて、サラサの方である。


 事の中心にいるのは今も変わらないが、これまでは台風の中心にいた。


 だが、その台風は動いたようだ。


 ルディラン艦隊とシーサク艦隊は睨み合いを続ける中、1隻の艦がベロウに入港が許された。


 サラサ艦隊の旗艦である。


 これが何を意味しているかは、言うまでもなかった。


 妨害したいシーサク艦隊だが、三竦みの状態では、手が出せなかった。


 リーラン王国のリンク艦隊がベロウの港を背にして、牽制していたからだ。


 ルディラン艦隊にしても、総旗艦が入港したかったが、こう言った状況だ。


 残って、不測の事態に備えるのが吉である。


 流石、当代一の名将と言われるだけの力量をオーマは有していると言えた。


 いくら親バカでも自ら行く程、愚かではないと言う事だ。


 そう言う事で、絶妙なバランスの下、サラサ艦隊の旗艦が、リンク艦隊を通り抜けて、ベロウ港に入港した。


 港には、僧兵に護衛されたサラサとバンデリックがいた。


「奇妙な事になりましたね」

 バンデリックの表情こそ、奇妙だった。


 まあ、こう言った状況になると、そうなると思う。


「……」

 サラサは、それに対して直ぐには応えなかった。


 バンデリックをジッと見ていた。


 バンデリックは、松葉杖をついて、左足を引きずっていた。


 それが気にならないと言ったら、嘘になるので、サラサは気にしていた。


 バンデリックの骨折は、彼の驚異的な回復力で既に骨は繋がっていた。


 ただ、骨折の仕方が悪かったのか、左足の神経を痛めたために、骨折前に戻ってはいなかった。


 医者が言うには、あまり芳しくない状態であるらしかった。


「閣下、どうかなさいましたか?」

 バンデリックは、サラサが何も言わないので心配そうな顔をした。


「……」

 サラサは、それでも何も言わなかった。


「???」

 バンデリックは、訝しげにサラサを見た。


 入港してくる自分の旗艦ではなく、自分をジッと見ていたからだ。


 どう見ても、今、最大の関心事は艦の方である筈だ。


 なのに、さほど、いや、全く気にしていない様子だった。


(俺、何かやりました?)

 バンデリックは、怖いので口に出せないのは言うまでもなかった。


(さて、バンデリックはその足で任務をこなせるのかしらね……)

 サラサは、バンデリックをジッと見ながらそう思っていた。


 正直、困っていた。


 と言うより、不安であった。


 普通、ここは、シーサク艦隊の囲みを突破できるかどうかを気にすべきである。


 ついでに言えば、クライセン艦隊もいる。


 この状況下、無事に本隊に合流できるのかという事を心配するべきだろう。


 ……。


 2人は、しばらく見つめ合っていたが、それはとてもロマンティックなものではなかった。


 この2人も本当に残念無念である。


(しかし、バンデリックが離脱するとなると、全てが瓦解する事は明白!)

 サラサは、きっと目を見開いた。


(あのぉ、お嬢様、怖いのですが……)

 バンデリックは、草食動物以上に危機察知の能力が高い。


 今、サラサが何を考えているかまでは分からない。


 だが、確実に自分にとって、大変な事になる事を考えている事は分かっていた。


 そして、危機を察知しているのに、草食動物のように一目散に逃げ出せない事も分かっていた。


(ならば、結論は一つ!)

という思いに至ると、サラサは、更に気合いが入った。そして、

(バンデリック自身に頑張って貰いましょう!)

とニコリと、とても可愛らしく、バンデリックに微笑みかけるのだった。


「!!!」

 バンデリックは、その可愛らしさにドキッとしながら絶句してしまった。


 年相応に可愛らしさを見せるという事は、自分の運命を受け入れる他ない状況だと悟ったからだ。


 とは言え、救い難い事に、バンデリックは、それも心地よいと思うのだった。


 この苛烈と思える仕打ちは、サラサの最上級の愛情表現である。


 バンデリックも、また、それに応えるのだった。


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