第230話 オーロラ⑥
その日、イザベラは自分の執務室で仕事をしていた。そこに秘書の女性が入ってくる。
「会長、サムラ元部長が牢の中で自殺をしたそうです」
その報告にイザベラは眉一つ動かさない。
「解雇した人間のその後なんてどうでもいいわ」
冷たく言い放った態度に、秘書はビクッと震えた。イザベラが怒っているのが伝わってきたからである。
その怒っている理由というのは、オーロラからの手紙であった。
この時代、eメールも普及しているのだが、今回は手紙という古い伝達手段が使われた。その内容は――――
「ソーウェル家の問題解決にアーチボルト製鉄を使ったお詫びとして、裏切り者を始末したって言われてもねえ」
机の上にある手紙を見て、そうつぶやいた。サムラ元部長は自殺ではなく他殺。自殺に見えるように処理されたのである。eメールであれば、ハッキングなどにより流出の可能性もあるが、手紙であればその心配はない。
それに、貴族同士の手紙については、非公開が原則である。これを公開しようものなら、他の貴族から総スカンをくらう。それは誰であってもだ。
イザベラはオーロラからの手紙の内容を忘れようと、仕事に集中することにした。
そのオーロラであるが、非常に焦っていた。
「あと、あと何回、彼にこうしたことを見せられるかしら」
自分の残りの寿命が短いことはわかっている。だからといって、スティーブと別れるのを納得は出来ない。
思い出されるのは過去の出来事。出会ったときからの水蜜桃のような高貴な甘い体験。それは単に甘い純愛のようなものではなく、知的欲求を満たすもの。工業製品や商品先物、株式市場などを使って、様々な敵を排除して権力を拡大してきた歴史。
いまはもう、寝る時間が惜しいくらいの焦燥がオーロラを襲う。
「次を、早く次を考えないと――――」
オーロラは次にどんなことでスティーブの興味をひこうかと思案の海に潜るのであった。
多薬室砲の点火タイミングと、株価指数先物と現物株によるアービトラージを実現させるために、コンピューターが90年代くらいの性能まで開発された世界となっております。
ちょっと早すぎる気もしますが、外伝なのでまあいいかなと。
オークマがビッグベア帝国なのは大隈と大熊を勘違いしているだろというつっこみはなしで。




