Ⅶ「お忍び」
イリデスケンティア陛下は、クリスティーナの手を借り、結っていた白紫の髪を下ろし、目を隠すように前髪を整えますが、
「さて、どうしましょう。この服のままでは、さすがに身分を隠せませんね」
フィッシュテールドレスの裾を持ちあげ、お御足を気になさいました。
「乗馬の際にお履きになるキュロットになさいますか?」
モモの提案に、陛下は
「あれは帝国の紋章が刺繍されています……身長も同じくらいですし、モモの服を貸して頂けますか?」
「僕のですか!!??」
真っ赤な顔から火が出るくらい恥ずかしそうに、自前の忍び衣装を陛下に差し出すと、最初は陛下とお揃いの服装をする事に、嬉しさが込み上げていたのですが、
背中のファスナーが閉じないのです。
「陛下、上着のサイズが合いません」
「あら、運動不足でしょうか」
「ウエスト周りではなく……」
モモは自分の胸と、陛下の胸を見比べて……ペアルックの夢が消えたと、悲しそうな顔をしました。
「陛下がお許しになればですが、サイズの合う使用人の制服があります。宜しければそちらをお召になりますか?」
「それは名案ですね。使用人の制服であれば、街に出ても紛れるでしょう」
「それでは、用意致します」
「モモの分もお願いしますね?」
「モモさんのもですか?」
「せっかくなら、モモとお揃いで街に行きたいなと思いまして」
陛下はモモを見ながらそう言うと、ウィンクしたのです。そう陛下はモモの気持ちを汲んでそう言って下さったのです。
お揃いのメイド服に身を包んだイリデスケンティア陛下とモモは、宮殿の出入り口「勇者の門」までクリスティーナとレティに見送られました。
「レティちゃん、必ずあなたを守りますから、クリスティーナとここに居て下さいね」
陛下は、レティの頭を優しく撫でられると、その目には力強い意志が宿っておられました。
「陛下、道中……」
クリスティーナが何かを言おうとすると、陛下は人差し指をクリスティーナの口にそっと当て
「今の私を呼ぶなら、姫姉さまとお呼びになって下さい。それから敬語も不要です」
「承知しま……分かりました。姫姉さま、道中気をつけて」
「はい。では参りましょう、モモ」
「御意」
「モモもですよ?」
「……はい」
既に日は暮れ、時間的にも夕食時であり、各家庭からはスープの香りでしょうか、心地よい温かみのある食欲をそそられる香りがし、住宅地を抜け、商店街に入ると、昼の賑わいとは違い、飲食店を中心に活気に溢れていました。
しかし陛下……姫姉様は、目もくれず商店街を抜けるのです。
「姫姉様、どちらに向かうのですか?」
「ギルド「ブギョウ」が運営する南部役所に行き、職登録をします」
南部役所は、商店街からさらに奥、帝都の城壁に近い位置にあります。
「職登録ですか!?」
「隊商の護衛任務を募っているはずです。それに加わります」
「傭兵による隊商の護衛任務ですね」
「防衛省のバイズ大臣のお話によると、山賊に襲われるのは、夜から明け方にかけて帝都に入る隊商が多いと、そして昨晩アルバアロを出た隊商が、ググタス街道を通り、日付を跨ぐ頃にアルバアロと帝都を繋ぐ「ダムガン大橋」を通過する予定だそうです。ダムガン大橋を越えた後に野営をし、夜明け前に帝都から来た護衛隊に任務を引き継ぐそうです」
「隊商の動向を熟知している者が山賊に加担しているという事ですね」
「そうです。私や大臣達は山賊に積み荷を奪われていると報告を受けていました。しかしモモは見たのですよね?ハッシャーマーケットのお米の在庫が十分にあると」
「……山賊がハッシャー商会に盗品を提供している!?」
「まだ判断はしかねます。私の目で確認しなければなりません」
南部役所に着くと、夜にも関わらず、多くの冒険者が役所にいました。
帝都の夜は、特に戦闘職の案件が多く、こうやって夜も開かれているのです。
姫姉様は、冒険者たちの姿を観察しながら、役所のカウンターのおっとりした受付嬢に声をかけます。
「ご要件は何ですかぁ?」
「ジョブ登録に来ました。初めてなので、色々教えて頂けますか?」
姫姉様がそう言うと、受付嬢は不思議そうな顔をします。
「使用人の職の方々では無いのですか?」
「戦闘職に就こうと思ってまして」
「あっ、あぁ〜なるほど、家政婦業からの転職ですねぇ」
「副業で、夜も仕事をしようと思ったのですが、多少、剣の心得がありますので、副業は戦闘職も良いかなと」
「へー面白い選択ですね。お連れ様もですかぁ?」
受付嬢はモモにも話を振ります。
「いえ、僕は戦闘職に既に就いてます。忍です」
「えっ?最上級職の忍ですかぁ?」
戦闘職の最上級職の1つである忍がメイド服を着ているという事に、大きな疑問を持つ受付嬢とモモの間に、妙な間が生まれたのですが、姫姉様が空気を変えてくれました。
「このモモの仕事っぷりに憧れちゃって、私も戦闘職をやってみたいなぁっと思いまして」
「あっ、あーそういう事なんですねぇ。では戦闘職の説明にしますねぇ」
「はい、お願いします」




