Ⅴ「邂逅」
「あっあぁ」
レティはパニックになり、泣き出してしまいました。
その悲鳴にも似た甲高い泣き声は、ポルポの鼓膜に響き、彼を不快にさせ、声の方を見ると、
「ん?」
看護師の影に隠れた、少女が目に止まります。
「お嬢ちゃんが……レティちゃんかなぁ?」
穏やかではあるが、不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくるポルポ。
「イヤッ!!イヤッ!!!!」
恐怖で泣き叫ぶレティは、看護師を突き飛ばし、廊下を走って病棟から出て行ってしまいました。
「おっおい!!嬢ちゃん!!!!」
ポルポの鬼気迫る表情に、只事ではないと思った看護師が、廊下を遮り、ポルポを制止します。
「何か御用でしょうか!?」
「御用も何も、あの嬢ちゃんが生き残りの嬢ちゃんなんだろ!?」
「守秘義務があります!!お答え出来ません」
「んったく」
ポルポはレティを追えず、立ち往生。
レティを見失いました。
霊安室で父と再会をしたクリスティーナは、時計を見ます。陛下に送り出されたとはいえ、職務に戻る必要があると考え、宮殿に戻る事にしました。
「ママ、兄様、仕事に戻ります」
「うんうん、パパもその方が喜ぶよ。パパと同じ使用人の職に就いて、女帝陛下の執事長をやってるお前を、誇らしく思っていましたよ」
「はい」
クリスティーナの両手を掴み、優しくポンポンと叩きながら、クリスティーナの母は、そう言い聞かせ、涙を流してました。
「火事の火元とか、情報があったら伝えるよ」
兄がそう言うと、クリスティーナは涙を拭い、後ろ髪を引かれながら、霊安室を後にしました。
家族と別れたクリスティーナは、病院の入り口へと向かいましたが、ガラスに映った顔が涙でボロボロになっている事に気付きます。
帝宮使用人の執事長という立場、そしてこんな崩れたメイクで戻っては、父にも陛下にも申し訳が立たないと思い、メイクを直す為に御手洗いに向かいました。
鏡を見るクリスティーナは、メイクをササッと直すと、気合を入れ直し、
「陛下に報告とお礼をしなければ」
そう言った時、御手洗いの扉がバタンッと大きな音をあげ、泣きながら小さな女の子が入って来ます。
親に怒られたのか、お漏らしをしてしまったのか、そう思いながら、クリスティーナは、なんとなくその子を見ると、酷く慌てた様子で泣いているその子に見覚えがありました。
「あれ?あなたは、レティちゃん?」
父が勤めていたペアー家の御息女だと思い出します。
あの火災で生きていた事に安堵したのですが、その怯え方の異常さに、クリスティーナはレティに視線を合わせる様にしゃがむと、優しく声をかけました。
「どうしましたか?」
「怖い、怖い」
「大丈夫、もう火は消えたよ」
「違う、怖い、怖いぃ」
再び泣き始めるレティに、困った顔をするクリスティーナでしたが、子供の心に深い傷を残した火災は、苛烈だったのだろうと思っていたのですが、次の言葉を聞いて、心臓がギュッと、悪魔に掴まれた様な思いだったそうです。
「お父様とお母様を……みんな、みんなを殺した人が、来るの!!ここに来てるの!!!!」
驚愕の言葉
みんなを殺した!?
つまり父も殺されたのだと、レティは言ったのです。
「レティちゃん……犯人を見たの?」
「そこにいるのぉぉ」
カタン、外で音がします。御手洗いの扉の外に人がいる様で、中に入る事もなく、じっと扉の前にいる様です。
(外に犯人が!?)
南部帝国病院の裏手には、大規模な商店街が並んでおります。
帝都グリドニフの南部は、コーラルローズとは比べ物にならない程、発展している大都会。大通りはどこも、まるでお祭りでもやっているかの様に、人で溢れかえっています。
その中でもこの通りは、食料品や日用品から武器防具までを広く扱っている商店が軒を連ねており、大規模な商店街となっています。
ハッシャー商会は、南部の一位二位を争う商業組織で、そのトップであるハッシャー・サウザーの商店「ハッシャーマーケット」は、大通りの一番奥の目立つ位置にあったのです。
「凄い店だな。憧れるぜ」
ダグラスが子供の様な憧れの眼差しで見上げるハッシャーマーケットは、4階建ての商店は、1階に食品、2階に日用品、3階に武器防具、そして4階にハッシャー商会の事務所を構えておりました。
「じゃあ、僕はこれで」
モモはそう言って立ち去ろうとするのですが、
「ハッシャーさんを紹介してくれるんじゃないのか!?」
「……案内するだけではないのですか?」
モモはまた露骨に嫌な顔をしました。
「僕はハッシャー・サウザーと面識は無いですよ」
「そうなのかい!?」
「いつ面識があると言ったんですか」
モモはげんなりして、もうその場から立ち去ろうかと考えていたのですが、ダグラスの次の言葉で、ハッシャー商会に興味を持つのです。
「ちょっと値は上げてるが、他の店より米が安いな。物価高なのに、民衆思いの値段だな」
確かにダグラスの言う通り、通常より2割増しですが、他の商店よりは価格が抑えられた米や小麦が並んでいるのです。
「在庫も多くないですか?」
モモは店舗に並んでる米の量にも驚きました。
「確かに、何でだろうな。帝都に来る道中の宿屋の主人に聞いたんだが、隊商が山賊に襲われる事が多くて、どこも品薄だと聞いたんだ」
「山賊に……ですか」
その時、店舗に治安維持部隊「ポリシア」の紋章をつけた剣士がやってきます。
店員が対処し、店内は一瞬ざわつくのですが、
「取り締まりじゃねぇよ。ハッシャーさんに相談があるだけだ」
と、その剣士が言うのですが、モモにはその表情は邪悪に見えました。
店員が確認から戻ると
「ポルポ様でいらっしゃいますか?どうぞハッシャー社長もお待ちしておりました」
そう言い、剣士は奥へと案内されて行きました。
「山賊対策の相談でもしてるのかね」
ダグラスは、そう言いポリシアの剣士の対応をした店員に話しかけ、牛車いっぱいの武器を見せ交渉しようとするのですが、3階が担当だと言われ、3階に上がっていきました。
モモはダグラスを追わずに、店内の様子を伺いました。この店に違和感を感じたのです。




