Ⅳ「猜疑」
「バイズ大臣の配下の軍の者が探っても、隠蔽や妨害に遭って探れないのですね?」
それを聞き、バイズ大臣は、さらに頭を下げました。
「お恥ずかしい限りです。帝国の平和を守る身でありながら、手詰まりを感じております」
「恥ずかしがる事はありません。頭を上げ、私を見て下さい」
バイズ大臣は恐る恐る頭を上げると、陛下は優しく微笑み、
「私が信頼にあたる存在か見極めたい気持ち、でも治安を守れていない劣等感……分かります。大丈夫、お祖父様から貴方は優秀な方だと聞き及んでおります。どうぞ、私を頼って下さいね」
柔らかい絹のような包み込むお声で大臣を励ます陛下は、立ち上がりフィッシュテールドレスのスカートを翻し、玉座に着きました。
「ポリシアの南部担当に疑念を持っている、そう大臣は申すのだな」
力強くそう言いました。
「はい、その様な考えに至っております」
「承知致した。こちらでもポリシアの動きを探ってみましょう」
「はっ、有難き幸せでございます」
「こちらこそ、感謝致しますバイズ大臣。帝国の平和と民の暮らしを守る事に務めている大臣がいる事に、私は安堵致しました」
バイズ大臣は、この時、陛下は噂になっている様なお飾りの女帝ではないと、確信したと言います。
一方その頃、コーラルローズの武器屋ダグラスは、帝国法務局を運営する組織「ブギョウ」の南部の役所を訪れ、今にも泣き出しそうな声で、受付の女性に食い下がっていました。
「納品先の紹介は、何で出来ないんですか」
「ごめんなさい、そういう事はこちらではやっておりません」
「でも、ここは職業ギルド紹介もやっているんですよね!?」
「ですから、こちらは冒険者や戦闘職のギルド紹介はやっておりますが、商業、工業、農林水産業は管轄が違いまして」
「でも武器なんですよ?」
「はぁ」
もちろん受付の女性は困っています。
「女帝陛下と同じコーラルローズ出身として、どうにかなんないか?」
「そうは言われましても」
「イテテテ!!」
突然、ダグラスは耳に激痛を感じました、耳をまるで釣りのように引っ張り上げられているのです。
「イテテ、なんだ、なんだ」
引っ張られる耳の方向を見ると、そこには鬼の形相でダグラスの耳を引っ張る、忍び装束の女性がいたのです。
「モモちゃん!?」
「陛下の評判を落とすような発言は、僕が許しません。殺します」
「ぶぶぶぶ物騒なこと言わねぇでくれよ、モモちゃん」
「こんな場所で何をやってるんですか、ダグラスさん」
「聞いてくれよ、実はな……」
役所の前の広場のベンチで、ダグラスは事の顛末をモモに説明致しました。
「火事で、取引先を失ったと言うのですね?」
「そうなんだよ。これを売りきらなきゃ、儲けもねぇし、それどころか材料費の借金が……あぁ」
ダグラスは髪を掻きむしり、口から魂が抜けそうな絶望の表情を浮かべていました。
「そういう事なら役所の人も言っていたように、商家や商会を頼る方がいいのでは?」
「自慢じゃねぇが、帝都でコネも無い、田舎の武器屋が頼る商家なんて……亡くなったペアー家以外ねぇんだわ」
「商家のペアー家は、ハッシャー商会に加盟していたはず、そちらを頼ってみてはどうですか?」
「その商会の場所、モモちゃん分かるか?」
「……」
モモは厄介事だと思い、関わらないようにしようかとも思いましたが、陛下ならば民を見捨てはしないだろうと思い、一度深呼吸してから答えました。
「承知しました、案内しましょう」
ダグラスはモモの気も知らないで、浮かれるのでした。
クリスティーナは家族と共に、父親が搬送された南部帝国病院に向かったのですが、残念ながらご遺体と再会する事になってしまいました。
ペアー邸の火災の被害者の多くはここに救急搬送されたのですが、全ての方が搬送された時点で亡くなっている事が確認されたのでした。
「パパ……」
病室ではなく、暗い殺風景な霊安室での再会に、クリスティーナは意気消沈しておりました。
再会とは言え、遺体の損傷が酷かった為、直接顔を見る事は出来ませんでした。遺族への配慮だと言うことです。
火災現場の検証をしていたブギョウが言うには、事件性は無い、事故だろうとの事で、クリスティーナの家族は、やり場の無い怒りと悲しみを繰り返す事しか出来ませんでした。
この病院には、昨晩の火災の唯一の生き残り、レティも搬送されておりました。
軽い火傷だったレティは、治療を終え、ススだらけだった服から病院服に着替え、病室で看護師と共に、帝国法務局ギルド「ブギョウ」の取り調べを待っておりました。
「…おトイレ」
火傷は軽いですが、心に深い傷を負っているレティは弱々しくそう言うと、看護師に手を引いてもらいながら、共に御手洗に向かいます。
「で、その生き残りのレティ嬢ちゃんは、どこに居るんだって聞いてんだよ」
卑しいがなる声が、病室に響き、レティが看護師に隠れながら、声の方を見ると、そこには、
父の喉に剣を刺し、
母を無惨に斬りつけた、
男がそこにいたのです。




