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後編「継承」

 それから1週間後。


 帝都グリドニフにそびえ立つ巨大な城には、帝都を一望出来る宮殿テラスがあり、その眼下の広場に、多くの民衆が集まっております。

 即位に際し民衆の新たな皇帝の誕生を知らしめる「勇者の儀」が、今まさに執り行われようとしているのです。


「まだ6歳なんだぞ」

「陛下もこんな事になるとは、思ってもみなかったでしょう」

「せめてヴィクトール様がいらっしゃれば」

「皇帝の座を奪おうとする、聖騎士国の陰謀じゃないのか?」

「あんな子供に、勇者の剣は応えてくれるのか?」


 集まった民衆は、口々にそう不安や不満をこぼすのでした。


 宮殿テラスには、勇者の血を受け継ぐ御三家が一堂に会しております。

 聖騎士国アルバアロの王家、セルリアン家。

 魔導国メンザーコールを治める貴族、サルファー家。

 コーラルローズを治める、勇者の直系の子孫ヴァーミリオン家。

 それぞれの王や領主が、アズール皇子の「勇者の儀」を見守ります。


 民衆と御三家が見守る中、宮殿テラスの一段高い場所に、緊張した表情のアズール皇子が上がり、向けられる視線に、震えるのです。


 この1週間、事を理解したアズール皇子は、最初は大泣きしていましたが、徐々に父と兄の死を受け入れ、この儀式に臨まれています。


(アズール皇子頑張って下さい。皇帝陛下もヴィクトールお兄様も、見守って下さっていますよ)


 姫様も、心の中で励ましながら、アズール皇子を見守っていました。


 アズール皇子が手にしている剣は、柄《ヒルト》の部分に豪華な金の装飾、柄頭《ポンメル》と鍔《ガード》には、それぞれ煌めく赤い魔石が埋め込まれております。

 

 その2つの魔石は「勇者の宝玉」と呼ばれている物です。

 美しく絢爛な装飾に不釣り合いな短い刀身《ブレイド》の剣を掲げる皇子は、お腹の中から大きな声を出し、こう叫びました。


「勇者の剣よ。応えよ!!」


 すると、勇者の剣に埋め込まれた2つの赤い魔石が煌めくと、短かった刀身《ブレイド》が美しい虹色に輝き放ち、勇者の剣は、虹色の刀身を持つ長剣へと変化したのです。


 民衆から歓声が上がり、御三家の人々も大きくうなずき、この瞬間、新たな皇帝が誕生致しました。


「光った!!」

「新皇の誕生だ!!」

「アズール皇帝陛下、バンザーイ!!」


 虹色に輝く勇者の剣を掲げるアズール新皇帝。


 このホッとする様に晴れやかなアズール陛下の表情を、イリデスケンティア姫は生涯忘れる事はありません。


 姫様がアズール陛下を思い出す時は、この時、この瞬間を思い出すそうです。


 ……なぜなら

 ……1年後の嵐の日の出来事でございます。


 

 この年、帝都も含め、各国に流行り病が蔓延し、多くの民の命が奪われる事態になりました。


 ……その病は、幼い皇帝の命も奪う結果になってしまったのです。


 流行り病は人から人への感染をする為、各都市の貿易や交流を制限している状態にありました。

 特に病が流行っていた帝都には近づかないようにと、コーラルローズから離れられなかったイリデスケンティア姫は、病気に伏せっていたアズール皇帝陛下にお会いする機会も貰えず、自室で配下のモモからその訃報を受ける事となったのです。


「そんな馬鹿な事がありますか?あの……アズール陛下が…………そんな事が……」


 姫様は、声を堪え、静かに涙を溢しました。


 激しく窓を叩く雨音と暴風が、姫様の心を代わりに表してくれているようでございました……。


 そんな姫様に寄り添うモモは、言葉を選びながら、


「姫様、この様な事態を想定して、帝国政府は姫様を帝都から遠ざけたのです。次の皇位継承権は姫様にあります。流行病による各国の貿易不振、天候不良による穀物の不作、それにより帝都の治安も悪化する一方。教会や他の御三家、帝国法務省のご意向もあり、お早く入都をお願いしたいとの事です」


 モモは申し訳なさそうに伝えると、イリデスケンティア姫は、アズール陛下の屈託のないあの笑みと、虹色に輝く勇者の剣を掲げた晴れやかなアズール陛下の姿を思い出すのです。


 そして涙を拭い、立ち上がりました。


「即、入都します。モモ、準備を」

「御意」



 イリデスケンティア・ヴァーミリオン姫の「勇者の儀」は、アズール前皇帝陛下の「勇者の儀」とは、状況が異なりました。


 今にも雨が降りそうな曇り空の日に、それは行われました。


 流行り病が収束に向かっているとはいえ、その儀式に参列する民は少なく、御三家も限られた人数の者しか出席しておりません。


 暗雲垂れ込める静寂の宮殿テラスで、帝都を見るイリデスケンティア姫の目には、静かでそれでいて燃え上がる様な闘志が宿っています。


(先帝達の築き上げたこの帝都を、帝国を、もっと豊かに致します。事故や病で、大切な人を亡くさない様に致します)


 姫様は、そう想いながら、アズール前皇帝が虹色に輝く勇者の剣を掲げる姿を思い出しておりました。


(アズール陛下、あなたの代わりに……姫姉さまは頑張ろうと思います。見守っていて下さいね)


 姫様は短い刀身《ブレイド》の勇者の剣を勢いよく、真っ直ぐに天に掲げ、叫ぶのです。


「勇者の剣よ、応えよ!!」


 力強く、闘志を奮い立たせ、姫様が叫ぶと、勇者の剣はそれに応える様に埋め込まれた2つの赤い魔石「勇者の宝玉」が煌めき、アズール前皇帝の儀式と比べ物にならない程の虹色の光を放ちます!!


 そのまばゆい光に、その場にいた誰もが目を疑い、目を奪われました。


 短かった刀身《ブレイド》の勇者の剣は、極彩色の光で、宮殿テラスを飲み込みます。


 闇を照らす希望の光。


 それはまるでイリデスケンティア姫の荒々しく激しい闘志と、深い優しさに満ち溢れた柔らかな性格を具現化した様な虹色のオーラ。


 勇者の剣は、それまで誰も見たことの無い、虹色の大剣へと姿を変えたのです!!


 イリデスケンティア・ヴァーミリオン女帝の誕生の瞬間です!!




姫姉さまが成敗します!!

〜勇者の剣を継ぐ女帝、身分を伏せて闇を討つ〜




次回予告!!


 グリドニフ帝国の女帝となったイリデスケンティア姫は、アズール前政権を引き継ぐ形となり、その若さもあり民衆にも帝国の大人達にも「お飾りの女帝」と噂されていました。


 そして穀物の物価高騰で民衆が嘆いている中、帝都南部で2つの事件が起こります。


 商家の殺人事件

 街道の山賊事件


 2つの事件が重なる時、陛下は初めて勇者の大剣で悪しき闇を成敗するのです。


次回 女帝初陣ノ章「狙われた米と麦。少女が見た帝都の闇」


快刀乱麻を断つ姫姉さまにご期待下さい!!


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