Ⅺ「女帝初陣」
南部のとある屋敷、そこに住んでいる者が只者ではない事が分かる程の警備と広さを有していました。
その屋敷の一間から、醜悪なる者たちの笑い声が、闇夜に漏れているのでした。
「グリフ裁判官様、今回は誠にありがとうございます」
グラスに酒を注ぎ、礼を言っているのは、ハッシャー・サウザー。ハッシャー商会の社長、そしてその相手は屋敷の主、ギルド「ブギョウ」南部法務局 裁判官グリフ・チャックです。
「よいよい、田舎メイドと低ランク冒険者の証言など誰も信じぬ。俺が言ったことが正義なのだからな」
「グリフ裁判官様のお裁きは、帝都一でございますよ」
「俺が南部の平和を、いや帝都の平和を管理運営しておるから、皆が飯を食っていられるのだぞ、なぁハッシャー」
「まことに、そうでございますね」
ハッシャーは、小箱を出し
「これは今回のお礼と言いますか、こいつらの誠意と言いますか、気持ちを込めた、菓子でございます」
ハッシャーの後ろで、ポルポ小隊6人がひれ伏している。
「んーー?」
グリフが小箱を人差し指で少し開けると、中には、貴重な宝石が入っているのです。
「これは綺麗な砂糖菓子だな、ガハハハ」
「南部の平和と法を守って下さってるグリフ様には、これでもまだ足りないくらいです。我々ハッシャー商会を今後ともどうぞ宜しくお願い致します」
「もちろんだとも、しかし今日の様な事は、そうそう有ってはならぬぞ。そのやたら腕が立つおかしなメイド2人の素性は分かったのか?」
「ゲニスの言うには、事業に失敗した三流商家の娘とその従者だと、明日には素性を割り出して……西部に売り飛ばしましょう」
「ガハハハ、西部に売りに出すとは、お前も悪じゃのう」
「いえいえ、平和の為でございますよ」
薄汚い醜悪な笑い声、その声を切り裂く様な美しい声が響きます。
「何が平和の為ですか……極悪人ども」
庭の方から声がし、ポルポ達は勢いよく窓を開け、外を確認するのですが、そこには誰も居ません。
「誰だ!!出てこい」
怒号が響く庭の奥の闇の中から、現れたのは、朱色のエンパイアワンピースに身を包み、白紫の髪をまとめ上げ、腰に短剣を装備した、イリデスケンティア陛下、そしてその一歩後ろに、忍び姿のモモが控えています。
「お前たちは!?」
ポルポとゲニスが2人の顔を見て驚愕。そこにいたのは、自分たちを捕縛した2人組だったのですから
「グリフ様、ハッシャーの旦那、こいつらです。こいつらが俺たちの邪魔を」
「なんだ貴様ら、名を名乗れ」
傲岸不遜の態度を取るグリフ裁判官に、陛下は静かにこう言います。
「極悪人に名乗る名など、ありません」
陛下がそう言うと、ゲニスが鬼の首を取った勢いで言い放ちました
「名前は分かってるぜ。イーリス・ビリオンとモモ・ミツヤだったな!!」
それを聞いて、単なる戦闘職の女2人だと高を括ったグリフは、強気に出たのです。
「狼藉者が、ここが誰の屋敷か知って来ているのか!?」
「分かっております、外道衆……帝都の平和を脅かす、悪しき闇……これ以上のさばらせる訳にはいきません」
陛下は一歩踏み出し、睨みつけると、その場にいた者達、全てがまるで蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなりました。
「ギルド「ブギョウ」南部裁判官グリフ・チャック。貴様は本来治安を守るはずの者達による山賊行為、そして罪のないペアー一家の殺害の実行犯、そしてそれを企てたハッシャー商会と共謀し、帝国法を無視し、私腹を肥やす外道です。帝国法に基づいて、裁きを受けよ!」
陛下の言葉と視線に抗うグリフが反論します。
「な……何の権限があって、きっ……き貴様はそんな事を言うのだ!!俺が民の平和を守っているのだ、生活を守り、仲間を儲けさせて何が悪い!!!!」
グリフはそう高々に叫ぶと、陛下は、哀れむ様に言いました。
「……帝国法、第三章11条、全ての帝国国民は、生命、自由及び幸福追求をする権利を有する。法を用いるお前なら知っているだろう?貴様がやっているのは、それを妨げる行為だ」
「俺の裁きが不服なのか!?」
「12条、全ての帝国国民は法の下、平等に裁かれる。貴様は裁判官という立場にありながら、平等な判断をせず、不当に法を曲げ、犯した」
「司法は俺だ!!俺が法なのだ!!!!」
「確かに帝国法、第23章65条、すべて司法権は、帝国裁判所及び帝国法の定めるところにより設置するギルド「ブギョウ」に属する。とされている……しかし」
陛下は、腰の短剣を抜き、構えます。
「帝国法、第99章 皇帝について、2条、皇帝は国民の為に全ての法律を守り、裁く権利を有する」
「ああん!?皇帝だと??」
「3条、皇帝は、あらゆる生命体の平和を破壊する者を、自らの判断で処罰することができる」
短剣の魔石は、極彩色の光を放ち始めます!!
「勇者の剣よ、応えよ!!」
力強く、優しい光、荒々しくもあり、穏やかでもあるその虹色の輝きは、屋敷を包み、まさに闇を照らす希望の光です。
光が収束し収まると、短剣は、虹色の大剣へと姿を変えていたのです。
「虹の……大剣……虹の大剣だと!!!!」
「女帝陛下??!!」
虹の大剣が示すのは女帝陛下だと知っている者達は、態度を一変させて、その場にひれ伏しました。
「グリドニフ帝国皇帝、イリデスケンティア・ヴァーミリオンが命ずる。グリフ裁判官、これが最後の警告です。帝国法に基づいて裁きを受けよ」




