Ⅸ「山賊」
ゲニスは、右手の指輪を見せながら名乗りました。その指輪には、小さな赤い魔石が装飾されています。
「まぁ、綺麗な指輪ですね」
姫姉様は目を輝かせて指輪に魅入ります。
「嬢ちゃん目利きだね。これはよ、魔導国メンザーコールでも高く取引されている、低い魔力で中級以上の炎を発動出来る優れ物なんだぜ」
「そうなのですね」
「嬢ちゃんの短剣も魔石がついてんな?あんたジョブは魔導使いなのか?」
「いいえ、私はまだ駆け出しのランク1の剣士なんです。魔力を込めると斬れ味が増す効果があるんですが、まだ魔力が上手く練れなくて」
「これから護衛任務って言うのに、使えもしねぇ短刀しかないのか?まぁよ、魔力は生まれ持ってのセンスだからな。俺が買い取ってやるから、別のいい武器でも買ってこいよ」
「ありがたい申し出ですけど、これはご主人様から贈られた大切な物なので、売れませんわ」
「……相当、金を持ってるんだな、嬢ちゃんの主人は……使用人の嬢ちゃんも丁寧な言葉遣いだしよ……直接可愛がってもらってるんだな、えぇおい」
ゲニスはイヤらしく笑いながら言うのですが、姫姉様はなぜ笑われているか不思議そうな顔をしてらっしゃいました。
それをモモが許すはずがありません。
音も立てず、ナイフをゲニスの喉元に当てます。
「モモ!!やめなさい」
そう姫姉様が言わなければ、少し傷をつけても良いとモモは思ってました。
「姫姉様、モモはこの者の無礼を許せません」
首筋に当たっているナイフの冷たさに、ゲニスは顔を真っ青にして、固まったまま、動けません。
「モモ、ナイフをしまいなさい」
姫姉様の命令なので、仕方なくモモはナイフをしまい、ゲニスから距離を取ります。
「悪かったぜ、これから任務だ仲良くしようや」
ゲニスはそう言いながら、もう一口酒を飲むのですが、腕がガタガタと震えていました。
「これは大変な部隊になりそうだね」
ボンド・ゾルゲは頭を抱え、それを見てミラン・ミラルダは笑っていました。
「ハハハッ笑わせてくれるね。2人、名前は?」
「イーリス・ビリオン。魔法剣士を目指すランク1の剣士です。こちらは私と同じ主人に就いています、モモ・ミツヤです」
姫姉様は丁寧に挨拶をしますが、モモはまだゲニスを睨みつけています。
「モモです。姫姉様への無礼は僕が許しません」
「モモったら、まったくもう」
姫姉様は、モモの顔を両手で挟み、目を見つめ
「めっ」と叱りました。
「モモちゃんは只者ではなさそうだけど?それになんでイーリスちゃんを姫姉様って呼ぶのさ?」
ミランは深い考えもなく、ただ疑問を声に出しただけでしたが、モモは答えに困りました。
本当は、こちらに御わすお方はコーラルローズの姫姉さまこと、グリドニフ帝国の女帝陛下様なのだぞ!!なんて言えませんから……
すると姫姉様が言いにくそうに、
「モモは元々私の家で用心棒として雇っていたのですが、父の事業に失敗しまして、一家離散になってしまい、私とモモはそれから家を離れ、一緒に暮らし、姉妹同然になりました。そして2人共に使用人として、今の主人にお世話になっているのです。私も自立しないと、と思い戦闘職をやってみる事にしたのです」
少し涙を浮かべる、素晴らしい演技でした。東部の劇場の役者としても活躍出来るのでは?さすが姫姉さま!!と僕は思いました。
「最近はそういう貴族や商家が多いって言うね、色々と大変だけど、頑張りなよ」
「ありがとうございます、ミランさん」
「ミランでいいよ、今夜はよろしくね」
「さぁ、そろそろダムガン大橋に向かおう。日付が変わる前に、到着予定だよ」
ボンドがそういうと、そそくさと表の馬車を用意しに外へ。馬車小屋の前には、怪しい人影があり、ゲニスはその影に寄っていき、
「一人メイド姿の強いやつがいるが、他はランク一桁の雑魚だ。問題ねぇ、折り返しでやるぞ」
そう、言ったそうです。
片道4時間の道のり。ボンド護衛隊はダムガン大橋を越えた野営地で、定刻通りにアルバアロの護衛隊から隊商を引き継ぎ、来た道を引き返し、帝都を目指しました。
ボンド護衛隊の幌馬車の御者はゲニス、荷台にミラン、姫姉様、モモが乗っており、隊の先頭を走っています。
隊商は3台の荷馬車に、米や書物を乗せており、殿の荷馬車にボンドが乗っていました。
帝都まであと1時間……このまま何も無く任務を終えると思われた時でした。
護衛隊と隊商が、月明かりを遮る様に生い茂った森に入り、しばらくすると、
「なんだあ〜、あいつら」
突然ゲニスが叫び馬車を止めたので、モモはすぐさま外に飛び出しました。
モモの視線の先、進行方向に覆面をし、真っ黒なローブを着た男が3人。
それぞれが剣や槍を構えてます。
「あ、あいつら、山賊だ」
ゲニスは、指輪から炎を出し、戦闘態勢をとり、ボンドは後ろの馬車から、前にやってきます。
「山賊!?」
その行動にモモは焦りました。
山賊の狙いは商人の命でも、護衛隊を倒す事でもない、積荷です。ならば積荷を奪う効率の良い方法をするはずなのです。
「馬車から離れないで!!」
モモが叫ぶと、ボンドはその意図に気づき振り返るのですが、殿の馬車の御者に剣を突きつける同じく覆面の黒ローブの剣士がいます。
「大人しくしな、経歴に傷をつけるか、命を落としたいか、選ぶんだな」
モモは、目の前の3人に背を向ける事は出来ない、ボンドは振り返ったまま、身動きが取れない状態です。
「ここからじゃ弓では狙えない」
ミランは幌馬車の後ろを開け、剣士を弓で狙おうとするのですが、暗さと別の荷馬車が邪魔で射線が取れないのです。
しかし
「こんばんは、山賊さん」
姫姉様が殿の荷馬車の前に立ち、黒ローブの剣士の前に立っています。




