第92話 ヤンキーを撃退する騎士
「なので、連れて帰るので、すいませーん」
「んだよ、邪魔すんな」
僕が先生に近づこうとすると、三人組の一人は僕の前に割って入り、睨みつけてきた。
「あ、あの……」
「知り合いとか知らねーよ、今いいところなんだよ。お前みたいな陰キャ童貞はお呼びじゃねーの」
「ていうか、お前別にこのお姉さんの知り合いじゃねーだろ」
「あ、道端に倒れるお姉さんが襲われそうになってるところを、知り合いって嘘ついて助けようと入ってきた感じ?」
「あははっ、アニメの見過ぎ」
なんて男たちは僕を馬鹿にしてきた。
「う、嘘はついてないですけど」
「じゃお姉さんに聞いてみよっか。お姉さーんっ」
男の一人が先生起こそうと、先生の豊満な胸を叩いた。
「ちょ、何してるんですか!」
僕は咄嗟にその男の腕をつかんでしまったが。
「離せ、陰キャが移る!」
男は僕の腕を強く振り払うと、胸ぐらを強くつかまれる。そして、男は嘲るように笑うと、「お前と遊んでる暇はねーんだよ」と、僕を突き放した。
僕はお尻からドテンッと、ウッドデッキの上に倒れてしまった。
情けない。また弱いくせに、僕は人を助けようと前に出てきてしまった。
鬼頭さんのときに比べたら、この人たちなんて怖くもないのだが、しかし怖くなくても力は及ばない。突き放されただけで僕は倒れてしまうほどだから。
キャハハと笑う男たちに屈辱を感じたとき。
「ねえ、あんたたち」
視界の端が、ピカッと紫色に光った。
僕はすぐにそちらに目を向ける。
そこには、ステージ上へ近寄ってくる、鎧をまとった日和さんの姿があった。
へ、変身したのか。まさかこの人たち相手に?
「お、なんだコスプレか?」
男の一人が日和さんの方へ近づく。
「君可愛いね。何、俺らと遊びたいの?」
調子のいいことを聞く男に対し、日和さんは冷たい視線を向けて言う。
「ここから去ってくれませんか?」
「おお、何? 騎士様の格好して英雄気取り? かっこいいー」
男は日和さんにぐっと近づき、汚らわしい視線を向けた。
「じゃあさ、俺と特訓? しようぜ。手取り足取り教えてくれよ、騎士様のイロハを」
そして男は、その汚れた手を日和さんの方に伸ばす、が。
パシッ! と、日和さんがその手を叩くように弾いた。すると、その勢いに腕が持っていかれ、男はバランスを崩してその場に尻もちをついてしまった。
「いってぇ……」
「ガハハッ、お前女に倒されてやんの」
仲間がそれを馬鹿にし、男は苛立った様子で立ち上がった。
「何しやがんだアマがぁーっ!」
そして逆上したように殴りかかるが。
日和さんは上半身をピクリとも動かさずに、片手だけ動かして伸ばしたその拳を受け止めた。そのまま、引き寄せると、お腹辺りをドーンと手のひらで強く押した。
「うあああっ」
それだけで、男は軽く一メートルは吹き飛ばされてしまった。そして倒れたままうずくまった。
「き、気持ち悪い……」
その様子を見てほかの男二人も日和さんを囲みに行った。仲間がやられ、黙ってはいられないのか。怖い視線でズンズンと近寄っていく。
一見、女性一人を相手に男が二人でよってかかるなんて、力の差は歴然としているようだが。
二人とも、僕が瞬きをした瞬間には、簡単にコテンパンにされてしまっていた。日和さんも手加減をして、スネを蹴ったり腕を捻ったりと地味な攻撃をしたが、ラバーズの身体能力からすればたったそれだけの行為も力強くて、二人とも骨の砕けそうな痛みにひるんてしまっている。
「まだやる?」
余裕そうに、格好つけて日和さんは問いかけるが。
「な、なんだよお前!」
「もういい、行こうぜ」
と、男たちはあっけなくスタコラサッサと逃げていってしまった。
「大丈夫、星也くん?」
日和さんは一瞬、紫の閃光を身体から放っては変身を解いて、僕の元へ駆けつけてくれた。
「いや、僕は平気だけれど、まさか騎士に変身するなんて」
「ごめんなさい。よくないことは分かっているのだけれど、あのままだと星也くんも酷い目にあっちゃうところだったし、手加減したから、大目に見てほしいな」
「いや、責めることなんてないよ、なにも」
むしろ無力なくせに、こう助けに出てきてはかっこ悪く返り討ちにあってしまうのだから、僕の自業自得だ。
「それよりも、先生は?」
弥先生は未だ、ベンチで眠ったままだ。
よかった、さっきの日和さんの姿は先生には見られていないようだ。
「弥先生、起きて弥先生」
日和さんは肩を叩くように先生に呼びかける。僕も近寄って「先生、起きてください、風邪ひきますよ」と声をかけたが、かなりの酒臭さを感じて、相当深酒してグッスリなのだと察する。
「うーん……」
だが少し声を漏らした。少し眠りが浅くなってきのだろう。だから二人で呼びかけ続けて、さらに僕がスマホのライトで顔を照らして。
やっと先生は目を覚ました。ゆっくりと瞼を開き、黒目が僕の視線と合わさる。
「……え?」
そして上半身を起こすと、状況を理解できないのか、目覚めの悪そうな表情で僕らを睨んだ。




