↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/115

第91話 道端で酔って眠っていた女教師

 今日の日和さんは水族館でデートをした際と同じ装い、藤色の高級感のあるワンピースを着ている。凛とした態度やお酒に余裕があるところが、とっても大人びていた。僕なんていつまでたっても子供のままだと思うことが多くて。


「日和さん、大人の余裕があって、かっこいいな」


 と、少しうらやんでしまう。


「何言ってるの。私なんて、家ではいつもお母さんにご飯を作ってもらってるし、洗濯物だって干してもらってるし、自立してる部分がないの。その点、君は一次的にとはいえ今は一人で生活していて、家事もちゃんとこなしているのだし、私からしたら君の方が大人に感じるよ」


 なんて生活面を褒められてしまったたが。僕がうらやんだのはそういうことではなく、とにかく日和さんという人間が大人に感じるのだ。


 頭のなかに、百地の言葉がよぎる。


 日和さんは、一度彼氏がいた身だ。だからこそ、その経験が彼女を成長させていて。

 つまり、僕は嫉妬しているのだ。ほかの男と育んだ経験が、今の日和さんを作っていることに。それはなんとも情けない嫉妬で、とても日和さんには恥ずかしくて言えない。


 ただ、ダラダラと日和さんとお酒を飲むのは楽しくて、気がつけば二時間近く僕らはこの居酒屋を楽しんでいた。

 以前みたいに無理をしてお酒を飲んで胃が痛くなる、なんてこともなく、程よく酔いは回り、気分も心地よい。


「あー美味しかったし楽しかった」


 会計を済ませて外に出ると、若干ひんやりした空気が気持ち良くて、酔いがほどほどに冷めてくる。


「ねえ星也くん、私なんだか甘いものを口にしたいなー」


 酔いどれの日和さんは、少しふわふわした口調で僕の腕を取った。


「今お腹いっぱい、美味しいものをいただいてきたばかりじゃないか」

「甘いものは別腹、まだ食べられます」

「何が食べたいの?」

「食べたいっていうか、飲みたいかな。スターパックス行こう」

「あー、スターパックスか」


 スターパックスは、少し前にこの田舎町にやってきた、陽キャ御用達で有名な全国チェーンの喫茶店だ。僕は入ったことはないが、家族とドライブスルーでチョコチップのフラペチーノを買ったことがある。


「いいよ、僕も久しく飲んでみたいし」


 そんなわけで、僕らは再び大きな盆地ができた恵比寿公園の前を通って、大型スーパーの方へとやってきた。スターパックスはその大型スーパーの敷地内、駐車場の端の方にある。


 僕らは夜も更けて車の通っていない四車線の道路を挟んで、信号を待っている状態にある。だがここから見えるスターパックスの周りには、車がたくさん止まっていて、店内の人影も多いことがうかがえた。


「人めっちゃいない?」

「そりゃ、スターパックスなんてこの町にできたら、夜は若者たちが溜まりにくるよ」


 そうか、若者がうじゃうじゃとあそこにいるのか。そういう空間は苦手だが、日和さんがスターパックスの抹茶フラペチーノを飲みたいと言っているのだ、我慢しよう。

 なんて考えながら赤く輝く歩行者信号を眺めていると。


「おーい、お姉さーん」

「そんなとこで寝てると、手出しちゃうよー」


 と、若い男たちの声が背後から聞こえてきた。気になって僕は後ろを振り向く。

 僕らの後ろは広場になっている。そこは屋根のあるウッドデッキのステージと、その手前に決まった時間に水が噴き出るちゃっちい噴水を挟んで、さほど広くはない芝生が広がっている。


 若い男たちはステージ上のベンチに横たわっている誰かに声をかけていた。概ね、酔っぱらって眠ってしまった女の人がそこにいて、ヤンキー集団に囲まれてしまったのだろうと思うが。


「うるひゃーい……」


 と、眠たそうな芯のない声が、男たちの問いに返す。

 が、その声に、なんだか聞き覚えがあった。


「お姉さん、スカートの中覗いちゃうよー」

「いや、もう覗いてんじゃねーか」


 ああ、酔ってしまった女性が、ヤンキーにセクハラをされている。


「じゃ、俺はおっぱいもんじゃおうかななー」


 男たちは悪いノリを止めようとしない。さすがに黙って見過ごせないので、僕は止めにいきたいと考える。


「ごめん日和さん、僕行ってくる」


 ずっと腕を組んでいた日和さんから、僕は腕を抜こうとしたが。


「……ねえ、あの人って、弥先生じゃない?」


 その横になる人の方をまじまじと見て、日和さんが言う。


「え、マジ?」

「間違いない、さっきの声聞き覚えあるなと思ったもん」


 それならなおさら、あの男たちを止めに行かなくてはいけない。


「す、すいませーん」


 僕はすぐに広場のステージ上まで駆け寄った。


「あ、なんだお前?」


 三人組の派手な髪形髪色の男たちは、鋭い目突きでガンを飛ばしてきてきた。


「えっと、あの、その人僕の知り合いでして……」


 僕はベンチで横になった、スーツ姿の女性を確認する。

 間違いない、尊弥先生だ。僕と日和さんが高校生のころ、担任だった教師である。

 危なかった、僕らが通りかからなかった、先生はこのヤンキー達にひどい目に遭わされるところだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。