第87話 可愛い後輩♂に耳かきされる③
スリスリ……と、また百地は囁くように綿棒を動かす。耳の内側に綿棒の頭を優しく押し付けるようにこする。すると徐々に綿棒への緊張がほぐれていき、マッサージをされているときのような、頭がふわふわとしてくる快感が押し寄せてきた。
いけない、力が抜けてしまい、よだれがたれそうになる。
「先輩、なんだか腑抜けた顔してますね」
指摘され、僕は口をぐっと閉じた。
「そんなに気持ちいいんすか、ぼくの耳かき。先輩が、ぼくの手で籠絡されちゃって、なんか昂りますね」
なんでそんなしっとりしたことばかり口にするんだこいつは、悪ふざけが過ぎる。
だって、少し目線を傾け百地の方を見上げると、そこにはまるで女性のように可愛い顔がこちらを覗いていて。ビジュアルといい言動といい、様々な点が異様に乙女で、僕の脳は錯覚を起こしたように混乱してしまう。こいつは男ではないと誤認をしてしまいそうになる。
「さて、こちら側は十分気持ちいいができたでしょう。次は反対の耳をズポズポするので、顔の向きをこちらに向けてください」
「わかっ……いや、もう十分だ」
「えーなんで? せっかくだからもう片耳も気持ちよくなりましょうよ」
「いや、いいよ。一応ただの罰ゲームなんだから。片耳だけでも十分僕は気持ちよくなったし」
「だから、ぼくが先輩を気持ちよくしてあげたいんですよ。なので、素直に顔の向きをこちらに向けてください!」
百地は引こうとせず、起き上がろうとする僕の肩を押さえつけては、頬をペチペチと叩いてきた。
「だーっ、わかったって」
僕は根に負けて、百地の膝の上に乗せていた頭を、正面向きから、反対の百地のお腹のある方へ180度回転させた。
「はーい、素直でよろしいっすね、先輩。でも、ちょっと離れすぎです。もっと付け根付近に頭を乗せてください」
「あ、ああ……」
「遠慮しないで。お腹に顔をくっつけるくらい近づかないとやりにくいっすから」
僕は頬で、付け根に近い百地の太もものさらなる柔らかさを感じた。百地の胴体が目の前にあると、こいつの石鹸のようないい匂いが濃くて、鼻腔が刺激される。
「じゃあ、反対側も耳かき始めていきますねー」
楽しそうな声で、百地は竹の耳かきを僕の耳へ挿入する。そしてまたかりかり……と囁くように口に出しながら、耳の内側の壁をかいてくる。
「気持ちいいっすか〜」
「うん……」
変わらず気持ちいいのだが、しかし、なんだか落ち着かない。
だって、僕の目と鼻の先、百地の太ももの、付け根の先にあるのは、百地の股間だ。男のそれが、すぐそこにあるのだ。それがなんだか落ち着けない。
僕は平静を取り戻そうと、深呼吸をした。
「先輩、そんなところで深呼吸しないでください、エッチ」
「は、はあ?」
「あははっ」
また嘲る。こいつの、こんな小悪魔みたいなところが、僕の情緒を乱してくる。
「先輩、栗村さんとは順調っすか? なんて聞いても、まだ付き合って二週間しか経ってないっすけれど」
「ああ、順調だぞ。しっかりラブラブ、愛し合ってる」
「オエッッ、先輩の口からラブラブで愛し合ってるなんて」
「なんだよ」
「いやキモって思って」
なにも言えない。だって我ながら似合わないことを言っている自覚がある。
「先輩、本当浮かれてますよね」
「何が悪い、片思いの人と結ばれたんだ、浮かれるだろそりゃ」
「まあ、悪くはないんすけど、気まずくないのかなって思って」
「気まずい?」
「だって、前にも言いましたけど、栗村さん元彼いるわけですし。例えば、チューはしたんすか?」
「……」
「したんすね。どうでした? 栗村さんチューうまかったです? それって、元カレと散々してたから上手なわけっすよね」
そのことは考えないようにしていたのに。こいつはまた、思い出させてくる。
「チューがうまいってことは、つまりそれ以外もしてるかもしれないわけですし。先輩はまだ、してないすよね、キス以上のこと。栗村さんはもうオトナな経験をしてしまっているのに、先輩はまだ童貞なんすよね」
「……勝手なこと言うなよ」
なんでお前は、そうやって嫌なことを言いやがるのだ。
「先輩言ってましたもんね、過去は気にしない的なこと」
「そうだ。だから、一々掘り返すな」
僕は怒り気味に言う。
「ごめんなさーい。お詫びに、高速耳かき、してあげるっす」
「こ、高速?」
百地は僕の頭をまるで赤ん坊にするように優しく撫でながら、竹の耳かきを引き抜いた。また反射的に肩がゾワゾワする。
そうして、綿棒を構えると僕の「ちょっと待て、高速ってなんだ」という問いに答えようとせず、問答無用で湿ったそれを耳の中に突っ込んできた。
最初は、先ほどと同様耳の内側を冷たい綿棒の頭で優しくスリスリ……と擦ってくる。なんだ、高速ではないじゃないか、驚かせるな、なんて安堵し、僕はその耳かきを受け入れたが。
しかし、妙に気持ちのいいところを擦ってきやがる。何というか、少し奥の方の、後頭部側を擦られると、ゾクゾクした感覚が押し寄せるのだが。そのポイントが気持ちいいことを知っているかのように、百地は集中して狙ってくる。




