第86話 可愛い後輩♂に耳かきされる②
ああ、僕の耳の中が他人に見られてしまっている。やっぱり恥ずかしくて、顔がだんだん熱くなってくるが。
「先輩、本当に耳の中きれいっすね。垢一つ見当たりません」
そうか、僕の耳の中は汚れていないのか。きれいだと言われると、なんだか安心する。
「毎日風呂上がりに綿棒で掃除してるんだよ」
「うーん、勿体ないっすね。清潔感があっていいんですけど、汚れた耳を掃除するのも楽しそうだったのになー」
耳に近づく百地のしっとりした息。
「ねえ、先輩は、今ぼくに、耳の穴の中、つまり身体の中を見せつけてるんすよね」
「なんだいきなり?」
「そう考えると、エロいなって。まだ栗村さんにも見せてないんすよね、先輩の穴の中」
「変なこと言うな。やっぱり耳かきは辞めてもらおうかな」
「いややや、起き上がらないでください、ちゃんと気持ちよくしてあげますからー」
なんて、起こそうとした僕の頭をがっしりと膝に押さえつけてきた。
「じゃあ、耳かき、始めるね」
そして百地はほっそい指で耳をさらに広げると、「ずぼぼぼ~」と口に出しながら、竹の耳かきを僕の中に入れてきた。
ずぼぼぼ~なんて奥まで入ってきそうな言い方をしながらも、まだ耳かきの先は入口付近にある。そしてその入口付近でかり、かり……と口に出しながら、少しくすぐったい耳かきが始まった。
「もうちょっと、奥に入れちゃうっすねー」
少ししてまた、「ずぼぼぼ~」と口に出しながら、耳かきが奥へ入ってきた。
「かり……かり……先輩、ここ気持ちいいっすか?」
「……まあ」
ちょうど良い力加減で、耳の中の壁をかいてくれる。痛くはないし、なんなら自分でするよりも心地いいかもしれない。
「お前、うまいな」
「でしょ?」
得意げな百地は、かりかりの速度を早くしてくる。
ああ、これも心地いい。
やばい、人にする耳かきってむずかしそうだけれど、こいつなんでこんなにうまいんだ?
「お前、もしかして普段から誰かに耳かきしてる?」
「そうなんすよ、実はぼく、お父さんとお母さんに小さなころから耳かきをしてて」
「へー、なんでまた」
「小さなころにお父さんに耳かきをしてもらったとき、ふとぼくも誰かにやってみたいと思ったのがきっかけで、両親によくやるようになったんすよ」
両親に耳かきをする。僕にはちょっと無理だなーなんて思ってしまうが、百地はよほど両親と仲が良いのだろう。
「そうそう先輩、いきなり世間話なんすけど」
「はい?」
「最近、この町物騒じゃないすか?」
「あー、そうかな?」
「なんすかその阿保みたいなリアクション」
あ、阿保みたい?
「なんだとお前」
「だって、一週間近く前に、いきなり恵比寿公園に大きな盆地が出来上がったじゃないすか」
「あ、あー……」
恵比寿公園。それは、始まりの場所。僕が、日和さんに告白をしたと思ったら、猫俣さんが日和さんと戦闘を始めた場所だ。その盆地は、日和さんの強力な剣技によってできたものだ。
「元町公園だってグラウンドがボロボロになってて……」
それも身に覚えがある。元町公園は僕が鬼頭さんに襲われたところ。ほして、駆けつけた日和さんと鬼頭さんが死闘を繰り広げた公園だ。
「先輩の家の近くのトンネルも、崩壊してたみたいじゃないすか」
そこは、戌子が日和さんに戦いを挑んだ場所でた?。
「おかしいじゃないっすか、一週間のうちにこんな異常事態が何件も発生していて。公園なんて悲惨な状態になっていたにもかかわらず、周辺の家に住んでいた人はみんな、何も気が付かなかったってニュースで言ってたんすよ。いきなり大穴ができていたとか、大火事の後みたいに焼け焦げたあとが発生していたとか」
「あ、ああ、確かにおかしいよな」
「恵比寿公園の大穴なんて、重機でも使わないと作れないと思うんすよ。警察が調べたところ、自然発生で起こったものではなくて、まるで大爆発でも起こったような形状らしいっすし。でもそんな爆発が起こったら、絶対音や振動で周りの人も気がつくと思うんすよ。先輩もそう思わないんすか」
「いや、まー……」
大学でも、阿奈さんと食事をしたときも、そんな話をしたことがある。だがなんというか、僕はその不思議な現象の当事者だから、どう反応したらいいかわからなくて。
「不思議なこともあるもんだよな。もしかして。宇宙人の仕業だったりして」
なんてはぐらかしていた。
「なんすかそれ。でも、意外とそんな、異次元な理由だったりするかもしれないっすよね」
異次元な理由っていうか、異次元の能力によって起こったものなのだが。
「さ、竹の耳かきはこれくらいにして、綿棒に変えるっすね」
耳かきがゆっくりと、耳の中から抜けていく。その感覚が存外かなり気持ちが良くて、思わず肩が震えてしまった。
「お、先輩もしかして、耳かきが抜かれる感覚、好きっすか」
「さ、さあ、そうなのかな」
「ふーん」
なんだか、含みのある反応をする百地だ。
「じゃ、綿棒、入れていくっすね」
綿棒がそーっと入ってくる。竹の耳かきと違い、耳の壁が圧迫されるようで、これは緊張を感じたが。
「なんか、綿棒湿ってないか?」
耳のなかで感じた綿棒の頭は、湿っているようで冷たく感じた。
「そうなんすよ、実は耳かき専用のオイルで濡らしてるんす。きもちいいっすよ」
ああ、確かに気持ちが良い。
ゴソゴソと耳のなかで蠢く濡れた綿棒は、耳の中をしっかりときれいにしてくれそうだ。




