第83話 裸エプロンの後輩♂
インターホンを押すと、どこぞのコンビニと同じチャイムが中から聞こえてきた。すると「はーい、今行きまーす」なんて、スピーカーから百地のふわふわした声がする。
ガチャッと茶色のドアが開いた。僕は取っ手を引き、ドアを自分から開いて、やつの顔を見た……のだが。
「いらっしゃい、先輩!」
元気よく、嬉々と僕の訪問を喜んでいる様子の百地。それは僕も嬉しいのだが、そんなことよりも、だ。
「……お前、なんて格好をしてんの?」
「ん? いや、エプロンすよ」
そう、百地はエプロンをしているのだが。
エプロンの下は裸だった。つまりこいつ、裸エプロンをしている。
前部分は桃色のエプロンで隠れているが、正面から見える肩から両脇腹のスベスベした肌が、こいつがエプロンの下に何も着ていないことを物語っている。
「あの、早く入ってください。近所の人に見られたら恥ずかしいっすから」
「ああ、ごめん……」
と、僕は即座に玄関に入ってドアを閉めた。
「いや、だからなんでお前そんな格好してんだよ」
「実は、パイを焼いてたんすよ。リンゴのパイっす、あとで食べましょう!」
「おお、ありがとう。そうじゃなくて、なんでエプロンの下が裸なんだよって聞いてるんだ」
「えへへ、せんぱーい、ドキドキしました?」
「ドキドキって、ビックリはしたがそんなに鼓動が速くなるほど驚いちゃいない」
「そういう意味じゃなくてー。もう、面白くないっすねー」
どうやら、ドッキリを仕掛けてきたようだ。
変ないたずらをしてくるも、僕の反応が面白くなかったのか、百地は拗ねるように僕に背を向けてリビングの方へ向かう。その後ろ姿は、小柄な百地の痣ひとつない背中だ。地肌が見えてしまっているが、しかし下半身には短パンを履いていて、流石に素っ裸ではなかったようで安心した。
しかし、似合っていたな。というか、あいつの可愛らしいルックスも相まって、なんだか背徳的な色っぽさがあった。
「あの、僕も飲み物とか買ってきたけど」
「あー、部屋に持っていってください。リビングからコップ持っていきますから」
「お邪魔します」と、僕は靴を揃えて玄関から上がると、ぴかぴかなフローリングの廊下を少し進んで階段を登る。登った先にはオークの扉が閉まった部屋が二つあり、僕は手前側の部屋に入った。
ここは百地の部屋だ。男の子の部屋、といった六畳一間の空間は、あいつの生活感をよく感じる。壁端にはベットが設置されていて、くしゃくしゃになったシーツと薄手の毛布があった。テレビ台に乗せられたモニター周りには、最新のゲーム機が並んでいて、棚の中にはFPSゲームやRPGゲームのパッケージがズラッと並んでいた。
タンスの引き出しは若干空いていて、服が漏れているところに、やつの性格を感じる。
しかし、あいつの匂いが濃いな。別に不快感はなくて、何というか、男っぽい部屋のくせに、男臭くない。女子のような清潔感のある石鹸のような香りが、心地良いと思う。
「先輩、お待たせしました」
先ほど見た短パンに、よくわからない変な表情のキャラクターが印刷されたTシャツを着た百地が、お盆にコップを持ってやってきた。
「パイはおやつの時間にいただきましょう」
「ああ、ありがとう」
僕はビニール袋から、先ほどのスーパーマーで買ってきた、コーラとグミをテーブル上に出した。
「さて、先輩。さっそくゲームをしましょう」
「ああ、この間新しく買ったって言ってたやつか?」
「はい、すっごく楽しみだったんすよ」
「当てよう、ボードゲームだろ?」
「ブブー」
百地は手でばってんを作ると、テーブルの下に隠してあった袋から、なにやら箱を取り出した。
「……えっと、これって」
そして、箱に書かれたその文字を読んで、どう反応していいかわからなくなる。
「はい、ツイスターゲームです」
ツイスターゲーム。あの、ツイスターゲームだ。
マットの上に赤、黄、緑、青の円が列になって描かれていて、ルーレットで出た指示に従い、自分の手足をその円に置いていく、身体を使ったハードなゲームだ。自分のバランス力が試され、手足が指定された円以外の場所についてしまったり、身体が崩れてしまったりしたら、ゲームの負けとなるのだが。
「ぼく、一度やってみたかったんすよ、ツイスターゲーム」
「ああ……」
「なんすか、そのポケーッとした反応。もしかして、エッチなこと考えてます?」
「いや、そんなことはないが」
確かに、数人で行うツイスターゲームといえば、身体のいろんな部位がおのずと触れ合ってしまい、男女で行おうものなら、いやらしさも感じてしまうが。
男同士のツイスターゲームか。それはなんだか、いろんな部位がぶつかり合って、地獄になってしまいそうだ。
「大丈夫ですって先輩、男二人でやるんすよ。くんずほぐれつしてもそんな気まずいことにはなりませんって」
なんて、ことを重くとらえず、意気揚々としながら百地は、テーブルを端に寄せてマットを広げていく。
まあ、百地が楽しみにしていたのだから付き合ってやるか。確かに、僕もこのゲームを一度はやってみたいと考えたこともあったのだし。




