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第82話 後輩の家へ遊びに行く

「ほら、ベッド半分空けてるよ」


 なんて、なぜか僕のベッドに我が物顔をしながら横になる戌子は、片端に寄ってベッドの半分を空けて、とんとんと自分の顔隣を叩いて誘導する。

 つまり、また一緒に寝ろと?


「あの、帰って?」


 そんな戌子に、僕はダルそうな顔を向けてやった。


「ちょっと、なんでそんな嫌そうな顔をすんの!」


 なんて、ブラウンのTシャツに短パンと、夏の部屋着と言った装いの戌子は、自身の胸を触って挑発する。


「今なら、その、あたしの胸、触ってもいいよ」

「いや、いいから」


 僕はそんな戌子の挑発に乗らないよう、冷たく返した。すると戌子は。


「な、なら……パンツ、今から脱ぐから、その、被らせて……あげる」

 

 と、とんでもないことを口にする。


「いらんわ。ていうかそれ、お前がやりたいことだろ?」


 えへへ、と笑う戌子の前に、僕はベッドに座った。


「何してんだよお前」

「せっかく日和さんがいないんだもん、こんなの、誘惑するチャンスじゃん。本当は毎日のようにここに来たかったけれど、お母さんに平日は迷惑をかけるなって強く刺されちゃって」


 お母さんの言いつけは守る、良い子な戌子である。


「大学はどう? また危ない目にあってない?」

「大丈夫だよ、この一週間はそれと言って事件はなかったから」


 むしろ先週の一週間はいろいろ起こりすぎだった。


「でも安心しちゃ駄目だよ。お兄のことを狙う輩はまだまだいるんだから、常に気をつけていないと」

「ていうか……」


 注意してくるが、戌子、お前。


「当たり前のように僕の一日着たシャツを持つな」


 ちゃんと洗濯機に入れたのだが、なぜか戌子は片手に僕が一日着たシャツを持っている。


「お前も大概だぞ」

「お兄、今日は汗の匂いが強いね、臭い」

「うるさい、人のシャツ勝手に嗅いで文句言うな」

「文句じゃない、褒めてるの。お兄の匂いが濃いから、こう吸引するたびに、幸せホルモンが分泌されて……」

「もうお前帰れよ」


 こんな変態、このまま部屋に置いておけない。一応戌子には神出鬼没な忍のラバーズから、この家にいるうちは僕のことを守ってくれることになっているが、しかし忍よりも先に、こいつにどうにかされてしまいそうで心配である。


「お兄、聞いて。あたしは、お兄を襲わないためにシャツの匂いで我慢してあげてるの。だから、嫌がらないでほしいな。お兄のためにこんな変態的な行動をしてるんだから」

「お前、無敵かよ」


 そんな感じで、戌子とワチャワチャしていく間に時間が過ぎていった。


「お兄、明日はどっか行くの?」

「ああ、高校時代の後輩と遊んでくる」

「ああ、百地さんだっけ。お兄高校を卒業してから一年以上経ってるのに、まだ仲良いんだ」

「趣味も合うし、向こうはすごくなついてくれているしで、友達のように思ってるぞ」


 なんて雑談を少ししてから、戌子を家に帰して、今度こそ眠る時間だ。

 僕は日和さんに日課となった「おやすみなさい」の連絡を送ると、窓が開いていないことを確認して、部屋の明かりを消した。

 しかし窓を閉め切ると、もう暑苦しくて仕方がない。クーラーをつけてしまいたいが、まだクーラー本体の掃除をしていないし。窓さえ開けば涼しい風は入って来るのだが、しかし忍の脅威がある以上、とても怖くて開けられない。実際、その忍は僕に電車の中という公共機関で痴漢をしてきたのだ。まるでよくあるエッチなシチュエーションを楽しむように、僕の身体中を、恥ずかしいところを、ベタベタ触ってきやがったのだ。

 だから、油断はできない。


 そんなわけで僕は扇風機を用意した。風がベッドに直接当たるようにして、数時間で電源が落ちるようタイマーをセットする。ずっと扇風機をつけるのも、電気代がもったいないだろう。

 そんな感じで、僕はスマホで適当な動画を流しながら、寝落ちするのを待ったのだった。



◇◇◇



 朝のワイドショーでは、今日からこの地方も梅雨明けだと報道されていた。いつの間にか暦も文月に入っていて、体感では夏の暑さも増したように、今朝は暑かった。

 朝からシャワーを浴びて寝ている間に出てしまった汗を流し、支度をした。

 一応、これから会うのは男友達なわけだが、しかし男同士だからといってもエチケットは必要なので、しっかりと髭を剃り髪をセットして、身を整えておく。


 きょうは百地の家で遊ぶわけなのだが、夕方からは日和さんとご飯に行く約束のため、昼前には百地宅に向かうことにした。そのため、中途半端な時間に朝と昼兼用のご飯を済ませてから、僕は家を出た。

 

 百地の家は歩いていくと遠い場所にあり、僕はバスで彼の家に向かう。

 乗り込んだローカルバスは普段登校時に乗車する学生だらけのバスとは違い、若い人間がおらず、席も空いていている。

 贅沢に二人席の窓際に腰を下ろして、流れる外の景色を眺める。バスが町を抜けた瞬間、すぐに木々が景色を埋め尽くし、僕が住む町よりもさらに田舎へと向かっていく。


 二十分ほど揺さぶられていると、目的地のスーパーマーケット前に着いた。そこは敷地が広く、片側には食品のスーパー、もう片側はホームセンターが建っている。田舎ながら車の数も多く、ここら辺に住む人は皆ここへ買い物をしに来ているのだろう。


 バスを下車してから、スーパーで百地宅へのお土産を買う。そしてそこから歩いて少しの場所にある、彼の家へと訪問した。


 ちょっと古そうな家々の中に並ぶ、瓦屋根のないモダンな外観の白っぽい家。正方形のような住まいは、こう周りの厳かな家屋と比べると見た目がシンプルで、なんだか耐震に弱そうな印象を持ってしまう。もちろん、それは僕の勝手なイメージで、下手したら重たい瓦屋根がない分、こういう家の方が潰れにくいなんて話を聞いたことがある。


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