第79話 水族館デート②
その後のイルカショー。巨大なプールで、イルカたちが圧巻のパフォーマンスを行った。
水上から垂直にジャンプしてはぶら下がったボールを鼻でタッチしたり、水上を跳ねては輪っかをくぐったり。
最前列にいては濡れてしまうので、僕らは正面の中間あたりに座って鑑賞した。しかしイルカたちが最前列間際で起こした大波のしぶきは後部座席まで大きく飛んできて、僕たちにもしょっぱい水が少しかかってきた。
僕はとっさに両手で髪の毛を守る。この梅雨という湿気の帯びた時期によってただでさえクルクルになりやすい髪の毛を、デートだからと今朝はいつもより時間をかけて必死にストレートアイロンで癖を伸ばしてストレートにセットしてきたのだ。絶対に濡らして髪を曲げるものか!
「あははは、すごいねー」
なんて、濡れたことをさほど気にしないように、まるで無邪気に日和さんは喜びながら感心していた。その表情が心から楽しんでいるのだとわかって、うれしくなる。
壁一面に鏡が貼り付けられ、色とりどりの照明が照らすクラゲコーナー。ふわふわ浮かぶように泳ぐクラゲが美しく、先ほどの深海生物ともまた違った地球外生物感が少年心をくすぐった。
よたよた歩くペンギンたちも可愛かった。のんきに水面に浮かぶウミガメがなんだか面白かった。
そして生き物を見るたびに、いろいろな表情を浮かべていた日和さんが、素敵だった。特におさわりができるエリアで、ナマコを触って、自分から触ったくせに意外に気持ち悪かったのか、涙目になって顔を震わせていたところが、おかしくて仕方なかった。
そして、こんなにいろいろな日和さんの表情を見て、日和さんのことをまだよく知らないのだと気が付いた。
そりゃそうだ、僕らは再開してから、付き合ってからまだ間もないのだ。だから、これからもいろんな表情の日和さんを見たいと思った。蜘蛛が苦手なことを知ったように、日和さんの好きなものや苦手なものも、もっと知りたいと思った。
帰り際、日和さんの提案で、僕らはおそろいのキーホルダーを買おうという話になる。この付き合いたてのカップルが、デートの記念にグッズを買う浮かれきった流れが、たまらなかった。
「それで、どんなキーホルダーにしようか」
ざっと見た感じ、置かれているのはアクリルプレート上に、海の生き物たちがキラキラしたエフェクトとともに印刷されたタイプのキーホルダーだ。
「これ……はちょっと違うかな」
と言って日和さんが手に取ったのは、イルカが描かれたハートのキーホルダーだ。だが、それはハートが半々になったペアのキーホルダーで、合わせることで一つのハートとなる。が、基本半分しかないので、なんだかハートが割れているようで縁起が悪い。よくこんなもの企画通ったな、とさえ思う。
「無難に、こういうのは?」
僕が候補したのは、シャチのキーホルダーだ。他のプレートに生物が印刷されたのとは違い、こいつは、形がシャチの体を型取っているタイプとなっている。
「これ可愛い! いいね、これにしよう!」
なんて、あっさりとペアのキーホルダーを決めると、日和さんは家族にクッキーのお土産を手に取った。僕もお隣の瀬根家に何か持っていこうかと、適当に安いペンギンの饅頭を選んだ。
それから、二人でだらだらと電車に乗り継いでわが町へと帰ってくる。
しかし初めてのデート、今朝まではものすごく緊張していたのだけれど。いざ日和さんと二人でいると、心はかなり落ち着いていて。まあ、月曜日から金曜日まで、彼女は我が家にいたのだ、そのために今更変に気にしてしまうことはなかったのだろう。でも、慣れたとは言わない。日和さんの可憐さには、以前ほどにドギマギはしなくても、ずっとドキドキはしているのだから。
◇◇◇
次の日から、日和さんのいない日々が戻ってきた。
家に一人きりというのは寂しいのだと思い出したが、しかし今の僕には付き合っている彼女が居るのだと思えば、心強い。
日曜日は一日アルバイトに出向いていた。ついでに来週は平日の夜も四日ほど、シフトが入っている。ちょっと忙しい日々が待っている。
月曜日になると通常通り大学に赴いた。先週、あんなことがあったために、未だ周りからの目は気になるが。しかし、猫俣さん、ではなくて、かりんさんが僕にべったりとしてくることを除けば、特に気にするようなことも起こらず、金曜日の今日までの間、案外普通に大学生活を送ることができた。
でも、変わってしまったこともある。
鳩島先輩と大井先輩が、一週間休んでいたのだ。
鳩島先輩については気まずいところや、本人も落ち込んでいるだろうし、今はそっとしておくべきだろうが。
僕が心配なのは大井先輩だ。連絡を送っても、変身が来なければメッセージの既読マークもつかないのだ。
そりゃそうだ、盗撮されてインターネット上に広げられたのだ。怖い思いをしただろうし、傷つきもしただろう。かなりのショックを受けているはずだ。あの陰気な人だからこそ、本当に心配で仕方がない。
むしろ、僕が放尿姿をネットに上がられたくせに、今平気なところがおかしいのかもしれない。もしかすると、超次元な出来事を目の前で見てきたからか、メンタルが鍛えられてしまったのかもしれないと分析する。




