↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/115

第77話 逆痴漢される③

「ほ、本当に、やめてください……」

「やめないでござるよ〜」


 忍びは意地悪な口調で、ついに股間を揉んできた。


「やっっ!?」

「おおっと」


 反射的に声をあげそうになったが、とっさに忍は僕のシャツの首元から手を出して、僕の口をふさいで声を抑えた。


「危なかったでござる……」

「んんんん!」


 悔しくも声をふさいでくれたおかげで、僕は周りにこの痴態がばれずに済んだ。


 ……いや、僕は今、痴漢されているんだよな。だったら、普通に声を出して助けを呼べばよかったじゃないか。この人痴漢です、助けてください、て。


「そうそう。もし、この場面をほかの人に気づかれてしまったら、拙者、自分が痴漢されてるって主張するでござるから。拙者と、ただの男のあなたと、周りはどちらを信じてくれますかね」


 ああ、その通りだ。相手は女で僕は男だ。僕が痴漢をされてるのだと主張しても、女性側が否定すれば、こんなセンシティブな事案、誰でも女性側を信じてしまうかもしれない。僕だってその光景を目撃すればそう思ってしまうだろう。


「だから、あなたは拙者に、好きなように遊ばれるしかないんでござるよ~」


 まるでいたずらをする子供のように嘲て、また首筋に鼻をくっつけると、思い切り息を吸い込んだ。


「はぁ~、あなたの匂い、まじ媚薬でごさる〜」


 なんて温かい息を吹きかけて、恥ずかしいところを触られ続けて。次第に、悔しくも変な快感を覚えてしまう。

 このままではいけないと、僕は股間をまさぐる手を掴んだ。


「嫌だって、言ってるだろ……」

「えー、拒絶してるの? でも君、ドアのガラスに映る自分の顔を確認してみてよ」


 自分の顔を確認?

 僕は正面のガラスに映った自分の顔へ目を向けた。


 そして、頬を赤らめたような、変な表情を浮かべている自分を見てしまった。

 

 な、なんで僕は顔を赤くしているんだ。

 ……もしかして、僕、興奮している? 


「そんな……」


 こんなシチュエーションで、いったい誰なのかわらない人に触られて、気持ちよくなっているのか?


「どうしたのでござるか? まるで自分の快感が信じられないと言いたげですね。でも仕方ないですよ。この一週間、あなたは散々快楽に見舞われてきたんです。色々な人に、快感を身体に教え込まれたんです。だから、身体が感じやすくなってしまった、のでござる」


 まさか、そんな言うほど気持ちのいいことなんてした覚えはないぞ。


 確かに、日和さんと大人なキスをして、鬼頭さんに汗の匂いで責められて、戌子に身体を舐られて、鳩島先輩に絆された。一応、阿奈さんにとっても気持ちのよい健全なマッサージを受けたが、でもそれくらいだ。猫俣さんにだってそれほど目立ったことはされなかったと思うし。


 いや、忍の言うとおりだ。ほんの少しの間に、それだけの人に快楽を与えられたのだ。おかしくなって当然なのかもしれない。


『次は〜』


 アナウンスが流れた。もうすぐ、次の駅に着く。


「あ、ヤバいでござるね。このまま駅に着いちゃったら、このドアが開いて、あなたのとろけたその顔、ホームの人たちに見られちゃうでござるねー」


 と、忍は悪戯に笑っている。

 そんなの、いやだ。 


「も、もうやめて」

「えー、どうしようかなー」


 なんて言っても悩む素振りを見せず、身体中をベタべタと触りまくり、そして腰を打ち付けてきた。この忍び、痴漢をやめる気はない。

 電車の速度が弱まってきた。流れる景色の建物が、視認しやすくなる。そして次第に駅の塀が登場し、もうすぐにホームに着いてしまうとわかる。


 焦ってくる。振りほどきたいのに、やめてほしいのに。なぜか気持ちが良くて、興奮してしまっていて。でも駅の人に僕の痴態が見られてしまう、そう思うと怖くて。


 やだ、やだ、やだ……


 おかしくなりそう。混雑した電車の中で顔も分からない相手に身体を弄られて、快感を覚えてしまって。でもこの表情、ドアが開いてしまったらこの情けない表情がホームに待つ人たちに見られてしまう、その緊張が身体を震わせる。


 電車の速度がノロノロとしてきた。ホームの建物が見えてくる。


 ああ、終わった。もう、終わった……


 駅に着いたた瞬間に、電車に乗るため並ぶ大勢の人に、変なものを見る目を向けられてしまう。

 その光景を受け止めたくなく、僕はぐっと目を閉じた。


 ……だが


 電車がついに停車すると、プシュ―っとドアが開く。しかし開いたその音は、正面ではなく後ろ側から聞こえた。

 

 あれ?


 僕はそっとまぶたを開いた。


「ふふっ」

 

 また、あざけるような笑う声。

 目の前のドアは開いていない。

 背中にささやかな風圧を感じた。開いたのは、反対側のドアだ。


「よ、よかった~」


 なんて、身体の力が抜けて、その場にへこたれそうになる。それを忍が支えてくれたが。


「じゃあ、拙者はここで降りるので。デート、楽しんできてくださいっす。では」


 と、忍の身体が僕からはがれた。


 そうだ顔を確認しないといけない、と僕はすぐに振り向くも、僕の後ろにいるのはもう知らない男の人たちばかりだった。もう降りてしまったのだろうか。

 

 はあ、怖かった……


 再び身体から力が抜けそうになり、僕はくてっとドアにもたれた。 


 ……しかしあの忍、僕がこれから日和さんとデートに行くことを知っていた。このことを知っているのは、僕と日和さんと、多分戌子が気が付いているくらい。他には誰にも話していないはずだ。だというのに、なぜ忍はこのことを知っていたのだろうか。それ以前に、あの忍は僕がラバーズにされてきたことを知っているような口ぶりだったし。


 おそろしい。どうやってか仕入れる忍の情報網がおそろしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。