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第76話 逆痴漢される②

「大きな声は出さないでくださいね。一応、拙者の能力であなたは今、陰が薄くなっています。でも大きな声を出したり、激しく動いたりしたら、目立ってしまって周りに気づかれちゃいま……でござるから」

「えっと、その口調辛くないですか?」

「……大変でござる」


 大変なんだ。


「やめないんですか?」

「自分の正体を隠すためにも、この口調は必要でござるよ」


 なんて難儀なことだ。

 しかし、能力で僕は目立ちにくくなっていると言っていたが。能力って、変身しないと使えない、なんてことはあるのだろうか。少なくとも変身していない状態でラバーズの女性陣が能力を使うところを見たことはないが。もしそうだとすると、僕にくっついている忍、つまり後ろにいる人は、この人ごみの中で、あんな派手な姿をしていることになるのか? それとも、忍ということは逆に地味な姿をしているのか?


 僕は正面のドアのガラス部分を凝視した。反射して、後ろにいる忍を確認できないかと思った。しかし、他の人たちの影はわかるのだけれど、僕の真後ろにいるはずの忍は、シルエットさえも判断できない。なんだか、僕の真後ろにだけ靄がかかっているかのようだ。

 きつい香水の匂いがする。貴婦人が付けていそうな、派手な匂いだが、強すぎて、どのような匂いなのかよくわからない。おそらく、忍の人が本来の自分の匂いをごまかすために、つけているのだろう。


「今から、栗村日和さんとデートでござるか?」

「な、なぜそれを知って……」

「いいですね、さぞお楽しみにしているのでしょう」


 片手は僕のお尻をさすりながら、もう片方の手は僕のお腹へ這うように回ってきた。

 サワサワと、シャツ越しに僕の腹部を、細い指で触る。

 忍は、首元でハァハァ……と、熱い吐息を浴びせてきた。


「腹筋、割れているんでござるね。鍛えてます?」

「べ、別に何もしていないけれど……」


 鍛えてはいないが、僕はあまり身体に肉付きがないため、腹筋が目立っているのだろう。そんな僕のシックスパックの、溝の部分を忍はなぞってきた。

 

「な、なんで身体を触ってくるんですか」

「そりゃ、痴漢をしているのだから、あなたの身体をまさぐるためでしょ」

「いや、やめてください、こんなところで」

「だから、目立たないように能力で周りに暗示を掛けているんです……でござる」

 

 するとその人は、両手を僕の内股の方へと滑らせてきた。


「ひっ!?」

「あはは、大きい声で反応しちゃだめでござるよ」


 くすぐったくて思わず変な声を出してしまい、それを優越そうな声で笑ってくる。


「ふぅ~~」

「ひゃ!?」


 耳に熱い息が吹き込まれて、肩が震えた。


「や、やめっ」

「やめないでござるよ」


 忍は続けて、優しく小刻みに、ふっふっと耳に息を吹き続ける。そのたびに耳がこそばゆくて、しかし謎の快感が背筋を走る。


「耳、赤くなってきたでござるね。恥ずかしい? 興奮してる?」

 

 興奮なんてしているわけがない。吐息が気持ちが良いなんて、僕は気づいていないふりをする。

 なんだか熱くなってきて、汗ばんでしまう。これからデートだと言うのに、何処かで汗を拭き取りたい。


「汗、かいてきちゃったね」


 すると、それに忍は気がついて。

 すぅ〜っと、息を大きく吸い込んだ。


「ああ、あなたの汗の匂い、最っ高」


 なんて昂ぶった小声で、頭の真後ろで話すと、下半身をさわさわしていた両手のうち、片方が胸元まで登ってきた。

 女性のようにスベスベとしていて、さほど大きくはない、白い手だった。

 その手は僕の胸元を一撫ですると、シャツの下にくぐらせて、躊躇なく地肌を触ってきた。


「な、やめてくだっ……ひっ!」

「あはは、あなたのシャツの中、しっとりしていて、温かくて、心地良い。ここに顔を突っ込みたいでござる」


 腹部を撫でると、こそばゆい触り心地で指を滑らせるように胸元まで手が登ってきて。

 片方の胸の辺りを揉んできた。


「くっっ」

「胸板、筋肉はないけれど硬くて、良い」


 内股を撫でていたもう片方の手も、怪しい場所まで滑り込んでくる。

 そして背中に身体をぐっとくっつけてきた。まるで逃さないと抱かれてしまっているようだ。実際ラバーズに変身しているからか、がっちりと強い力で拘束されている。とにかく僕は身じろぎ、そのくすぐったさから逃れようとするも、意味がない。


 しかし、硬いな。背中に何も感じない。だって、後ろにいる人は今、その胴体を僕にくっつけているはずだと言うのに、胸の感触がないのだ。女性であるのならば必ず持ち合わせているはずの、あの柔らかい二つのクッションのような感覚が、まるでない、いや存在しない。虚無、まさに虚乳。つまり、貧乳。


「なんだか今、失礼なことを考えていないでござるか?」

「ま、まさか……」


 なんてごまかすが。


「……えいっ」

「っっ!?」


 忍は、躊躇なく、僕の股間に手のひらを当ててきた。


「い、いや、それは……」

「あはは、男の子の象徴、触っちゃったでござる」


 まだ日和さんにも触られていないはずの股間が、誰なのかもわからない人物に触られてしまった。

 さすがに恐怖心が働いてきて、怖くなって動機が激しくなる。

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