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第73話 デートを決める

「本当にごめんなさい!!」


 僕はとにかく頭を下げた。リビングの中央で棒立ちになる日和さんに、深く、深く頭を下げて、謝罪した。


「なんで星也くんが謝るの? 悪いのは全部鳩島さんなんでしょ」


 なんて口では言うが、しかし日和さんの声はドッと暗くて、怒っているのは頭を上げなくてもわかる。


「いや、僕は約束を破ったんです。何かあったらちゃんと連絡するって、助けを呼ぶって。だといいのに……」

「はあ、もういいんだよ」


 日和さんは僕の両肩を優しくつかむと、折り曲げた半身を起こした。

 時刻は午後七時。昨日までなら日和さんは帰ってくるなりすぐに夜ご飯を作ってくれたのだが、今日はあの後メッセージで送った事後報告を見るやいなや、ご飯どころじゃないと授業が終わり次第飛んで帰ってきたという。


「助けを呼ぶどころじゃなかったのでしょう? ちゃんと理解してるよ。それに、癪だけれど猫俣さんが助けてくれたのだし」


 日和さんはいつもの優しい表情を見せてくれる。


「逆に、猫俣さんには何かされなかった?」


 と、日和さんは僕を案じてくれたが。


「何かされたわけではないけれど……」

「けれど?」

「えっと、その……助けた見返りに、名前で呼び合うことになりました」

「な、名前で?」


 僕は猫俣さんのことをかりんさんと、そして向こうは僕を星也と、下の名前で呼び合うことになった。


「なんか、仲良さそうじゃない?」


 それに対する、笑顔ながらも怒りを感じる日和さんが怖かった。


「ご、ごめん……」

「まあ、それ以外何もされていないならいいわ、今のところは」


 今度あったら……なんて小声で嫉妬を漏らしたのを、僕は聞き逃さなかった。


「ところで、実は明日限定で、名新屋港水族館がカップル割をするみたいなのだけれど」

「は、はあ……」


 いきなり話題が変わった。


「ほら、私たち、まだデートっぽいことしてないじゃない」

「まあ……」


 デートっぽいことをすっ飛ばして、お泊りをしてしまっているのだが。


「つまり、水族館デートを?」

「したかったのだけれど……」

「え?」

「月曜日を休んだ分、明日の午前だけ補習をすることになっちゃったわ」


 それは、なんともタイミングの悪い。


「でも、私は君と、すっごく水族館に行きたいの。デートがしたいの。だから、午後からになっちゃうけれど、どうかな?」

「うん、いいよ。行こう、デート!」

「本当? やったわ! でも……」

「でも?」

「実は、一週間も男の家に泊まらせられないって両親がうるさくて、今日か明日くらいにはもう帰ってこいって言われちゃってて」

「ええ、そうなの?」

「私もう二十歳だっていうのに、過保護なんだから」

「でも、付き合って一日二日の男の家に泊まりに来るなんて、そりゃ両親的にも怖いでしょ。むしろ、よく泊まりに来るとき、OKが出たね」

「それはね、言わなかったの。友達の家に泊まるとしか」


 なんと、日和さんがそんな嘘をかましていたなんて。


「でも、君と一緒にいられることがうれしくて、お母さんから電話が来たときに、ついポロっと言っちゃったの。そしたらこの有様」


 まあ、そりゃそうなるわな。友達の家に行くと泊まりに行った娘が、男の家に数日いたわけだから、心配になる。


「ふふっ」

 

 僕は思わず笑ってしまった。日和さんにしては不誠実で、以外だったから。

 僕に釣られてか、日和さんも一緒になって笑い出す。

 そして少しして落ち着いたら。


「明日のデートの準備もしたいし、今晩で帰ってしまおうかなって考えてるわ。忍者もあれから今のところ来ていないし。もちろん、その人がもうここに来ないなんて約束も信じられるわけではないしすごく心配ではあるけれど。でも、もし何かあれば頼れる?番犬はいるし、今度こそ私に連絡を送ってくれたら、私は飛んでいくから。あなたの騎士として」


 今日の晩御飯は外で済ませることにした。二人で歩いていける距離にあるファミレスで、ダラダラと済ませると、家に戻って荷物を整える。


「夜も遅いし送っていくよ」

 

 家を出るとき、男としてこの台詞を言うのだが。


「大丈夫、私強いし、君の方が危険な目に合うかもしれないから」


 なんて返されることはわかっていた。

 そんなわけで、せめてマンション前まではと送りについていく。


「あーあ、明日から日和さんいないのか」


 月曜日の夜にやってきて、今日という金曜日までいて。昼間は二人とも学校だから、泊まりに来ていてもそれほど一緒にいた感覚はないし、鳩島先輩の件もあって心的にはそれどころではなかった。でも、日和さんが近くにいる感覚は心地よくって、僕の心の支えになっていて、すごく助かっていた。


「毎日連絡は送るし、というか明日も会うじゃない」

「そうだけれど……」


 ここで甘えるように寂しいなんて言ってしまったら、気持ちが悪いな。


「……君と再会して、今日で一週間ね」

「そうか、まだ一週間しか経っていないんだよね」


 そう思えば、なんだかこの一週間はすごく濃密だったな。

 先週の金曜日、僕は誘われた合コンの居酒屋で日和さんに再開した。それで合コンを抜け出した先、公園で日和さんに告白されたかと思うと、僕を巡った超次元な戦いがそこから始まって。

 ほんの一週間の間に、いろんな人に気持ちを伝えられた。日和さんに、猫俣さんに、鬼頭さんに、戌子に、鳩島先輩に。

 まだ忍者の存在もあるし、他にもラバーズはいるかもしれない。僕は日和さんたちに守ってもらうことしかできないけれど、でもだからこそ、彼女を裏切らないようにしたい。

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