第74話 お家に帰る彼女
「……私さ、君と一緒にいるの、楽しかった」
「僕もだよ。幸せだった、夢みたいで」
「そう、だからこそ、怖くなる。世界が滅びるその日が」
忘れていたところに、カオスの存在を呼びおこさせる。
異次元からカオスがやってきて、世界が飲み込まれる。それを防ぐために、ラバーズは殺しあう定めにある。しかし僕らはそれを拒絶して、殺し合ない方法がないのか探すことに決めた。
でも、メシアさんは、ラバーズが殺しあわないでこの世界を守る方法はないと言い切った。殺さない選択を無駄だと突き付けられた。
だから、本気でこの世界を守るのなら、本当にラバーズは殺しわなくてはいけないのだ。しかし、まだそのときまで時間はある。いや、そのときがいったいいつなのかは知らないのだが、しかし今すぐではないと勝手に言い切る。だからそのときまで、殺しあわずに世界を救える方法を模索するしかない。
「ラバーズが殺しあわない、カオスからこの世界を守る方法、何かあるのだろうか」
「私たちラバーズ全員が力を一つに合わせて、ビームでも撃ってカオスを撃退する、なんてことができればいいのだけれど」
そんな女児向け魔法少女がやりそうな方法がとれるのだろうか。しかしラバーズみんなが力を合わせる、という意味では、殺しあって魂を最後の一人にまとめるのも、似てる気がする。力が一つに合わさっているのだから。
「ラバーズの魂が一人にまとめられて、それでカオスを撃退する能力が得られるというなら。全員が協力して能力を一つに集約して、それこそビームを撃つか、能力を最大限発揮して一斉攻撃的なことをすれば、カオスを撃退することができそうな気もするけれど」
「でも、こんな簡単な方法、メシアさんもとっくに可能性を考えているだろうし、あの人はラバーズが君を取り合うから、負の感情によってラバーズの力が強まるって話をしたのよね。それを進めるってことは、今のラバーズ全員の力を最大限に発揮したところで、カオスに対抗できるほどのエネルギーはないということになるのかな」
負の感情が能力を増幅させ、そんな魂が集約して。最後に残った一人に集められることで、さらに強くなる。それがラバーズを戦わせる理由なのだ。
「……でも嫉妬なんて負の感情で能力が増幅するなら、その逆、幸せな感情でも能力は強まったりしないのかな」
なんて日和さんの考察に、確かに感情が能力値へ影響するのならば、それもあり得そうだと納得する。
「だったら、ラバーズ全員が僕と恋人になれば、ラバーズ全員が強くなるのかな」
「それは嫌。君は私だけの星也くんだもの」
と軽く嫉妬して腕に抱き着いてくる日和さんはかわいい。
でも確かに、日和さんに限らないけれど、割と今まで出会ったラバーズの人たちはみんな、他のラバーズに対して敵意を示していて。つまるところ、二股や三股、ハーレムなんて方法はないのだろうと思う。もし僕が強行してその手段をとろうとしても、ラバーズ同士は殺し合いを始めてしまいそうだ。
そんな話をしている内に、家から出て、エレベーターを降りて、マンションの外まで出てきて、もうお別れだ。
「じゃあね、星也くん」
日和さんは荷物を詰めたスーツケースを腰に支えながら、僕に両手を広げた。ハグの合図だろう。
「日和さん、また明日」
僕もたったの一週間で慣れてしまったもので、抱き着くことに躊躇がなくなってしまった。
ぐっと、雲から顔を出した月光が照らす夜空の下で、堂々と抱き合う。日和さんのお花のようないい匂いも、今日で身近ではなくなってしまう。
「星也くん、ん……」
と、日和さんは目をつぶって、唇をこちらにぐっと向けた。
キス待ちの尊い表情。これは慣れない。このドキドキには慣れたくない、大切な感情として一生とっておきたい。
「はい……」
僕はそのキスにこたえるように唇をそっとくっつけた。
ただの唇同士の接触で終わるものだと思ったが。
「……んんんんんっ!?」
この人、舌をねじ込んできた。
こんな場所で堂々と!? いや、夜も九時を回り、人の気配なんてないのだけれど。
しかし自分の住んでいる家、マンションの前での大人なキスは緊張し、謎の背徳感もある。いやらしくびちゃびちゃと水音を立てて、日和さんの舌が積極的に僕の中で蠢く。粘膜が密着し、唾液は混ざり合い、僕らは一つになろうとする。
以前ほどの長いキスはせず、ほんの二十秒ほどでべろちゅーは終わったが、しかし口周りはしっかりベタベタになってしまった。
「バイバイ」
と、頬を赤らめながらも手を振って日和さんは行ってしまい、僕はただ呆然と彼女の行ってしまう背中を見守るしかできなかった。
「いや、バカップルかよ」
なんて余韻を、背後から戌子がつんざく。
「おま、いつの間に!?」
僕は完全に心がここになかったため、戌子の声には飛ぶように驚いた。
「いや、家から出ていく気配がしたからこっそりついてきた。まあ、邪魔な騎士様もいなくなったことだし、お兄、二人きりの時間の始まりだね」
なんて、ジャージ姿の戌子はキス待ちの可愛らしい表情を向けるが。
「戻るぞ」
僕はそれには答えず、ほっとくようにマンション入り口へ向かう。
「ちょっと、お兄!」
戌子は背後から、まるでおぶられるように抱き着いてきた。




