第69話 王子様対猫③
「ボクは彼に夢中だ。彼を手に入れるためなら何でもする。手を血に染めてもいい。その覚悟を、この剣に込めよう」
「あーしだって木野くんに夢中だ。心の底から大好きだと思ってる! その気持ち、あーしの愛を、思い知らせてやる!」
お互いに見合い、しかめっ面を浮かべて、息を整えた。
そして刹那――
「――盲愛の細剣――」
鳩島先輩は息を吐くかのようにその単語をつぶやくと、細剣から竜巻のような蒼白の光の渦が発生する。そして剣先を猫俣さんに向けると。
まるで妖精が舞っているかのごとく、ふわりと上品に、細剣を突き刺しに飛んだ!
対し、猫俣さんは両手を掲げると大きな爪を立てる。
「――愛念の爪!!」
そして突き刺しに来る細剣にむけて、力強くその腕を振り下ろした!
青く光る細剣と、金色に膨張した爪がぶつかる。
すると、擬音にしがたい甲高い轟音とともに、二色の光がその場から火花のように飛び散った。
猫俣さんの両手から繰り出される大きな爪の攻撃。一見攻撃の大きさから鳩島先輩の細剣は簡単に押し返されそうだが、細剣と爪がぶつかった途端、互いに大きく反発が起こり距離が開いた。
だが鳩島先輩はぐっと足を踏ん張り、すぐに前傾姿勢になると勢いをつけて、輝く細剣を突き刺す!
「うにゃあああああ!!」
ギーーン!! と刃物同士がぶつかるような音を立てて、また火花のような光が散る。
猫俣さんは自分を守るように両手の爪を十字にしてその細剣を必死に受け止めた。だが体制が整っていないため、身体は押されている。
「アハハッ!」
勝ちを確認したかのように、余裕に笑う王子様だが。
「……あーしはね……一度目の前で木野くんを奪われてんの……」
猫俣さんの踏ん張る足元が、絵に描いたようにグッと凹んで、土が舞った。
爪から光の粒子が漏れ出し、それは押し合いの威力に飲まれて、チカチカ、ギラギラと、スターマインのように輝いていた。
「だから……」
その金色の光は徐々に猫俣さんの腕までを煌めかせると、毛並みは派手になびきだした。毛の生えていない肩付近や太ももの筋肉が、血管の浮き出るほどに張りつめていることを確認する。
猫俣さんの目つきがさらに釣り立ち、瞳がぎらつく。
そして啖呵を上げた。
「もう一度、目の前で取られてたまるかっ!!」
猫俣さんの輝く大きな爪が、鳩島先輩の細剣を返した。
「くっ、!!」
その勢いに飲み込まれ、鳩島先輩は体制を崩しながら背後に吹き飛んだ。そこに猫俣さんは飛び込むように、一撃。爪の斬撃を繰り出した。
「うにゃあああああ!!」
ズーーンと重たい音が響き、大地が揺れた。
木々がバキバキと音を立てながら騒ぎ、地面が一瞬液状と化した。
鳩島先輩は猫俣さんの斬撃により、地面に力強く衝突した。
そこから飛び散る土砂。そして土煙と青い粒子が、衝撃により発生した強風に乗ってあふれ出ていく。
「せ、先輩! 猫俣さん!」
僕は呼びかけ、決着のついたその場所へ駆け寄った。うねったように地形が変わていて、でこぼこな足場に躓きそうになりながら、必至に土煙でかすんだ二人のいるその場所へと駆け寄る。
し、死んでしまってはいいないだろうか。
不安が頭の中を駆け巡る。
鳩島先輩を倒したのは、日和さんではない。誰も殺さないと約束した僕の彼女ではないのだ。
あふれ出る青色の光はすぐに途絶え、同時に煙も薄まり、隠れていた二人の姿をはっきりと確認する。
鳩島先輩は凹んだ地面の上にあおむけに倒れていた。
変身は解かれ、ベルベットの下着姿に戻っている。絹のようにスベスベとしていて真っ白だった身体には、かすり傷が目立った。痛々しくも、しかしなんだかその倒れる様も絵になってしまうほど凛々しいと感じてしまう。
そんな鳩島先輩を、猫俣さんは見降ろしていた。爪は長く伸ばしたままで、殺気は未だ立っている。
「……みっともない姿を、彼に見せないでくれ……早く、とどめを刺してくれ」
意識のあった鳩島先輩は、涙ぐんだ目線を猫俣さんの方に向けて懇願した。
それに対し、猫俣さんは無言でにらむと、その爪先を先輩に向ける。
「ま、待って猫俣さん!」
だめだ、それ以上はけない。人を殺してはいけない。
僕は即座に、猫俣さんの方へ手を伸ばしながら走り寄る。
だが……
「わかってるよ、木野くん。もしあーしがこの爪を先輩に突き刺したら、君はあーしのことも大嫌いになっちゃうんだよね」
爪先を鳩島先輩に向けたまま、猫俣さんは身体をグリッター色に包みながら、変身を解いた。
ああ、そうだった。猫俣さんも、あのときの日和さんとの会話が聞こえていたのだった。だからこそ、猫俣さんも心得ている。
良かったと安堵し、僕は傷ついた鳩島先輩の前にかがみこんだ。
「嫌、こんなみっともないボクを見ないでくれ、木野くん……」
鳩島先輩は弱々しく、汚れた顔を両手で隠してそっぽを向いた。
大切に想った人を前に敗れてしまい、悔しく、恥ずかしく、悲しんでいるようだ。




