第67話 王子様対猫①
まるで宝塚のように絵の強い、美しい王子様に対するのは、日和さんと戦ったときと同じ、猫のような姿へ変身した猫俣さんだ。
両手両足から黄色の毛を、顔には横に三本伸びるヒゲも生やし、尻尾を垂らして。瞳孔は細くなり、ブロンドヘアからは三角の耳が立っていた。
「おやおや、可愛らしい子猫ちゃんだこと。ボクのテクで鳴かせてあげようかね?」
「ごめんだね、あーしは木野くんの前でしか絶対鳴かないのだから」
猫俣さんは四つ足を地面にぐっと踏ん張ると、腰を高くして、喉を鳴らして威嚇する。
「そうかい、なら……」
鳩島先輩は鞘から細剣を引き抜いた。右手にグリップを強くつかんで、その尖った剣先を猫俣さんに向ける。
「ボクは、ラバーズのルールにのっとり、君を処する!」
ラバーズのルールにのっとって、処する。つまり、鳩島先輩は猫俣さんを殺すつもりだ。
その言葉を聞いたとき、僕はすぐに止めないといけないと察した。だが、声をかけようと、目の前の王子様に手を伸ばそうとするよりも先に。
ブワッと風圧が押し寄せる。
鳩島先輩は目にも止まらぬで、細剣を突き刺そうと直進した。
が、猫俣さんは垂直に高く飛び、その突進を回避した。
だが垂直に跳んでしまっては、真下に落ちる一方だ。
真下で、鳩島先輩は細剣を、まるでイナバウワーをするかのような所作で直上に向けた。
危ない、突き刺される!
と危惧するが、猫俣さんも甘くはない。なんと頭から直下して、伸ばした鋭い両爪を鳩島先輩めがけて突き刺した。落下の勢いがついた猫俣さんの爪は力強く、ガンッ!! と金属のぶつかるような音を立てると、先輩は剣の腹で滑らすようにそれを避けた。
そして先輩はバックステップで大きく距離を取ると、直ぐに背筋をピンと伸ばして細剣を構えて、体勢を整えた。
そこへ、猫俣さんはすぐにひっかきにかかる。両手の爪で、連続で斬りかかる。だが先輩は、まるでワルツでも踊っているかのように、優雅に、素早く細剣で攻撃を受け流し、ステップを踏んで距離を保つ。
ガン、ガン……と、細剣と爪が交わる音が、まるで一定のリズムを保っているようで、なんだか二人の争いが踊っているように、美しく見えてしまう。
「あんた、いちいち、動きがキザだね!」
猫俣さんは苛立った様子を表情に見せると、その途端右手の爪が黄金に輝いた。その爪を力強く鳩島先輩に向けて突き刺す。
その威力はなかなかで、先輩も細剣で抑えきれず、「クッ!」とふんばる声を漏らしながらも弾き返したが、身体がのけぞってしまっていた。そこへ間髪入れず、猫俣さんがもう片方の爪を突き刺す。
が、先輩はその腕を掴み、引き込んで、そのまま巴投げの要領で、地面に背をつけながら猫俣さんを下から蹴り上げ、頭上に放り投げた。
軽々と猫俣さんは投げられてしまい、宙で半回転しながら、背中から地面に落ちる。
「ゔに゙ゃっ!!」
鳩島先輩はすぐに起き上がる。その所作も優美ながら動きに隙がなく、倒れている猫俣さんに向けてすぐに細剣を突き刺しに向かう。
「危ない!」
と僕は声をかけるも、しかし超人的な彼女には既にわかっていることで。
猫俣さんは呼びかけるよりも前に、あおむけの状態のまま両手を、両耳の横あたりで地面に踏ん張り。そこから一瞬逆立ちをしたかと思えば、ブレイクダンスのように身体を回転させて、突き刺してきた細剣を握る手を強く蹴った。
その回転の勢いをつけたまま猫俣さんは起き上がる。そこへ鳩島先輩は突き刺す先が大きく反れた細剣の、中腹で斬りにかかるが。猫俣さんは大きく跳躍してまた避けたかと思うと、今度は近くの木の枝に乗っかった。
そして呼吸を整える。
「君、結構機敏に動くんだね」
鳩島先輩も軽く体を揺らし、身体の緊張を解かすように呼吸を整えていた。
「鳩島せんぱーい、あんた本当に木野くんのことが好きなんですか〜?」
そこへ、にやつきながら猫俣さんは悪態をふっかける。
「木野くんが、自分を女の子として認めてくれる人なんでしたっけ? あんたみたいな派手な人が、なんで木野くんみたいな地味な男好きになるんすか。所詮、ただの召使いか、ペットくらいにしか考えてないっしょ」
いや、なぜか僕もディスっているが、あんたもその地味な人を好きになったのではなくて?
「何を言う。ボクの世界に彼以外の男はいないんだ。だからボクは人として、異性として、木野くんを愛しているんだ!!」
凛々しい表情で、大きく声を張って、鳩島先輩は言い放った。
そのとたん、細剣がまるで蒼穹のように澄んだ光を放った。
青く光る剣を、先輩は構える。その所作も美しいのだが、遠くから見るとまるでライトセーバーを握っているかのように見えてしまい、少し王子様のイメージとは齟齬が生じる。
そんなことはどうでもいい。
鳩島先輩は木の上に構える猫俣さんに向かって、「食らいなさい!」と細剣を横向きに力強く振りかざした。
すると、ビュンッと鋭い風切り音を立てながら、青色の光が斬撃となって飛んでいった!
「にゃにっ!?」
猫俣さんは別の木に飛び移ってそれを避けた。だが鳩島先輩は斬撃を繰り返し放ち続ける。
猫俣さんも木々を飛び移り続けて避けるが、途中で飛び移れる木がなくなってしまい、仕方なく地面に飛び降りると、その一瞬。鋭い爪を光らせ、飛んでくる斬撃をひっかくように破壊した。刃がぶつかったわけでもないのに、甲高い金属音を立てながら、光る斬撃は花火のように細かくはじけた。




