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第66話 青の王子様

「おや、それはどういう意味だい?」


 鳩島先輩自身が、木原さんたち取り巻きが僕に嫌がらせをするように仕組んだ?


「そのままの意味です。先輩、ちょっと自分の股を開いて女の子たちを籠絡した上で、お願いしたっしょ。自分と木野くんが二人でいるところを盗撮するように、それをネットに投稿をするように。そして、木野くんやあーしのトイレしてるとこを隠し撮りしたように、陰湿な意地悪をするように、てね」 

「ははっ、言いがかりだな。根拠もなしに何を言っているんだい。ボクを悪者にしたいなら、もっとマシなウソをついたらどうだい?」

「あーし、直接聞いたんすよ。あの盗撮写真をあげたやつを見つけ出して。で、ちょっっと強く聞いたら、ベラベラと全部教えててくれました。こんな大事な秘密、先輩のことを好きなら命張ってでも吐いちゃいけないだろうにさ〜。結局、あんたらは身体を交えるだけの軽い関係なんすね」


 猫俣さんは意地悪な笑みを浮かべ、まるていやーなギャルのような大きな態度で話を続ける。


「交わってくれる代わりに、木野くんとの逢引の写真をこっそり撮ってほしいって言ったんですよね。なぜそんなことをするのか聞かれると、先輩は木野くんを陥れるためだって伝えたみたいじゃないですか」


 バンッ! と猫俣さんはトランクルームの床をたたいた。


「全部自作自演で、そんな狡猾な手段で、木野くんを手中に貶めようとして。最低な先輩ですね」


 鳩島先輩は何も言わない。何も言い返さない。


「あーし、いじめとか大っきらいなんですよ。この世で一番嫌いで、消え去ってほしい悪習です。そんな行為を促したたあなたも、最低で、大嫌いだ」


 猫俣さんの表情は真剣で、言葉にも力がこもっていた。心の底から先輩を否定している。

 が……


 いじめが大嫌いな、猫俣"かりん"さん。

 

 記憶の奥底、封印した痛い過去に、ピンとくるものがあった。


「王子様……いい響だよね」


 とたん、先輩は裸足のまま、下着姿のまま、トランクルームから降りて湿った地面の上に立ち、猫俣さんと横に並ぶ。 


「王子様……そう呼ばれると、ボクはなんでも手にはいる気がした。地位も名誉も、女の子も。実際ボクは、狙った女の子は堕としてきた。持ち前の美貌と話法で、なんでも難なく済ませてきた。けれどでも、木野くんは簡単には堕ちてくれなかったね。普通なら、壁ドンして唇近づければ、たいていコロッと堕ちるのに。そう、一筋縄ではいかない君は、ボクにとってやはり特別な存在なんだ」


 猫俣さんと間近でにらみ合い、啖呵を切る。


「彼は渡さない。絶対、ボクの男の子にして見せる!」

「そんなことさせるわけない。あんたなんなかに渡せない。絶対、木野くんは返してもらうんだから!」


 意思を交えたその瞬間、鳩島先輩はいつの間にか手に持っていたローションを、ふたを開けて猫俣さんに向けてぶっかけた。だが猫俣さんはとっさに離れて、ぬるぬるにならずに済む。


「あーあ、媚薬入りのローション、高かったのに……」

「妙なものをかけてくるんじゃない!」


 余裕そうに笑う鳩島先輩。険しいにらみつける猫俣さん。

 空気が変わった。重々しい雰囲気を、二人から感じた。


「どうせ、あんたもラバーズなんでしょ?」


 先輩と少し距離を置いて向かい合う猫俣さんは、自身の右耳に垂れる黄色い宝石に触れた。

 殺意むき出しで、ヤる気の表情だ。


「ああ、君もそうなんだね」


 僕の乗るトランクの正面で、S字ラインを際立たせ、まるでモデルのように立つ鳩島先輩は、自身の片手に通った青い宝石の指輪を、もう片手で優しくさすった。


 ああ、これは、また超次元な争いが始まろうとしている。

 殺し合いが、始まってしまうのだ。


「やめっ……」

「あーしは猫。木野くんだけに甘えるキャット!」


「ボクは王子様。木野くんをものにしたい王子様プリンス!」


 静止を呼びかけようにも遅かった。


 とたん、目の前に堂々と立つ鳩島先輩の身体は、煌々と青く光る。それはとてもまばゆく、視界は覆われてしまい目を細めるが、正面奥の方からも黄色の発光が見えて、猫俣さんも変身していることがわかる。

 そほ刹那、カッ!! とても強い閃光が起こり、目の前が何も見えなくなった。

 平衡感覚も一瞬でなくなり、脳が真っ白になって、僕は車の内壁にもたれかかった。


 二人に纏われた光は一瞬ではじけるように散った。まだはっきりとしない視界の中でぼんやりと、二人の変化した姿を確認する。



 目の前に立つ鳩島先輩は、宣言した通り王子様のような姿へ変化していた。

 プリンス、と言ってもその服装はまるで舞台衣装のように優美な、青っぽい王子様系の軍服だ。白いパンツは彼女のスタイルの良さを際立たせ、黒いブーツを履き、腰には細い剣を携えていた。姿勢の良い立ち姿もかっこよくて、そのまま歌劇を始めそうな雰囲気を持っている。


 先日メシアさんに見せられた「ベルサイユのばら」のオスカルを思い浮かべた。まさにそんなイメージの姿をしているが、しかしオスカルは男装をしていても王子様ではないため、どれかと言ったら「リボンの騎士」が、男装の王子様の漫画としては近いだろう。

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