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第54話 明日は休んで

 少しして、日和さんとの夕飯時。

 今晩は日和さんお手製の味噌煮込みうどんだ。味噌の濃さ、塩梅も良く、細かく切られた厚揚げにしっかりと味が染みこんでいてとても美味しい。だが、味噌味のものを食べていると、お米もいただきたくなってしまうのは僕だけだろうか。


 阿奈さんのマッサージのおかげで、心もスッキリした気がする。だから気分的にはかなりリラックスをしていた。

 しかし、一度明日のことを考えれば、一瞬で緊張が走ってしまう。


 鳩島先輩と直接話すこと自体に対してはそこまで緊張していない。しかし今の僕は大学という場所がとても怖くなってしまっている。

 たくさんの学生に注目されて、嫌がらせも受けて。とても平気ではいられないし、なんていったって、多くの人に僕の放尿姿が見られてしまったのだ。つらいよ……


「星也くん、どうしたの」


 テーブルの向かいから日和さんが心配する。

 しまった、暗い表情をしていただろうか。


「いや、日和さんの味噌煮込みうどんは美味しいなーってさ」

「ありがとう。でも、絶対に違うことを考えてたでしょ」


 日和さんは食器をテーブルに置くと、前のめりになって尋ねてきた。


「ねえ、今日何かあったの?」


 と、真剣な表情で問われた。


「別に、何もないけれど……」


 言いたくない。今日の大学での出来事を日和さんに話したくない。別に、放尿姿が流出してしまったことを恥ずかしがっているわけではない。ただ日和さんに、これ以上無駄に心配をしてほしくないのだ。なんなら、昨日の出来事もほとんど話していないし。


「何もないわけがないでしょ。君、嘘が下手だし。絶対、大学で何かがあったよね」


 だが日和さんは引かない。食事中だというのに僕の隣に座ってきては、顔をぐっと近づけて責めてくる。


「星也くん、私にちゃんとなにがあったのか言ってほしい。君の苦悩、辛い気持ちを、私にも共有してほしいの。だって私は、君の彼女なんだから」


 ウルウルとさせた瞳を向けられ、日和さんが本気で僕のことを心配していることがわかる。その気持ちに、僕は口を緩めた。

 

「……実はさ」


 そこから、僕は今の大学での状況を簡潔に日和さんに伝えた。日和さんの表情は話しているうちにどんどん曇っていき、話し終わったタイミングでは、顔が真っ暗になってしまっていた。


「だ、大丈夫?」


 僕が鬼頭さんにボコボコにされていたときよりも表情は青ざめていて、落ちこんだ様子だ。


「それは私のセリフよ。君こそ大丈夫じゃないでしょ!」


 どっと声を大きくして、日和さんは僕の両肩を強くつかんだ。動揺しているようで、目線が震えている。


「……明日、学校を休みましょう? いえ、休んで。あなたの身が危ないわ」

「お、大げさだよ。それに、これ以上ひどくならないために、明日鳩島先輩に話をしに行くんだし」

「わかったわ。じゃあ私もついて行く」

「日和さんは自分の学校があるでしょ」

「そんなの、休めばいいわ」

「いや、月曜日も休んじゃったし駄目だよ」

「いいえ私もいくわ。行くと言ったら行くわ」

 

 なんて、怖い表情をして一点張りだ。


「私、君に約束したよね。君のことを私が守るって」

「そうだけど、今回の事件に直接ラバーズは関わっていないんだ。ただ、話をつければそれで終わる話なんだよ」

「それでも……」


 もはや半泣きの状態で、日和さんは僕を揺さぶってくる。井の中の味噌煮込みうどんが逆流しそうになり、僕は彼女を軽くたたいてギブアップを示した。


「そんなに気にしないで。学校では賢と、猫俣さんが味方してくれてるし……」

「猫俣さんか……」


 なんとも不服そうな顔をする。


「話をしに行くときも二人はついてきてくれるし。だから、ね」

「……納得はできないわ」


 日和さんは僕にしなだれかかり、胸に頭をくっつけるように抱き着いた。

 なんだか、先ほど胸をマッサージで刺激されたためか、日和さんの頭が触れているだけで、ムズムズしてしまう。


「告白されたがために、こんなにひどいことをされるなんて。なんで、君がいじめられなくちゃいけないのだろう……」

「いじめじゃないよ。嫌がらせをされてるだけ」

「何が違うの?」


 こちらを向く日和さんは、涙を流していた。


「ありがとう、こんなに心配してくれて」

「心配するよ。彼女なんだから、彼氏がこんな目に合っていたら、すごく悲しいよ」


 親身になって心配してくれる。そんな、僕の彼女がすごく素敵だ。

 そう、もうこれ以上心配を重ねないように、明日は頑張らないといけない。元のスクールライフを取り戻すためにも。



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