第53話 幼馴染の母親にマッサージをしてもらう③
マッサージは続く。
今度は両脇に手を入れられ、くすぐったさに背筋がピクッと震え、おなかに力が入る。
阿奈さんはソフトタッチで、手を脇の下からスライドするように、胸の下へと移動させる。それを何度か繰り返される。
脇から、胸の方へ。何度も、何度も。
こそばゆいし、身体の中で何かが胸のあたりに寄って来るような、むずむずとした感覚がある。
それは気持ちがいいのだけれど、凝り固まったところをほぐされるような快感とは、また違う快楽があった。
しかし続けているうちに、だんだんと息が上がってきた。発汗も起こっていて、額や手のひらに湿った感覚がある。
「ハァ……ハア……」
心なしか阿奈さんも息が荒くなってきているような気がする。それだけ、このマッサージはハードなのか。
「胸のマッサージはね、リンパが流れて……」
説明されるがまったく頭に入ってこない。変な快楽に頭がポワポワしてしまい、思考回路が鈍ってしまった。
「どう、すっごく気持ちいいでしょ?」
ぐっと顔を近づけて聞いてくる。
それは、お互いの白い息が混じり合うほどの距離感だ。
「は、はい……」
阿奈さんが、なんだかいつも以上に艶っぽく、色っぽく感じてしまって。理性が狂わされそうになる。
「でもね、こうすると、もっと気持ちがいいわよ」
そう言って阿奈さんは、人さし指の先で、両胸の中心の周りをぐるぐるとなぞりはじめた。
その瞬間――
ゾクゾクゾク!!
アワアワ……と声が漏れてしまう。
シャツの上から、両胸の中心周りをくるくるなぞる、たったそれだけのことなのに、知らない快感が身体を駆け巡った。
「くるくる……」
ボソボソと耳元で聞こえるか聞こえないかくらいの声で擬音を言い続ける。両胸中心のギリギリのところをこすられるように指先で撫でられ続け。
気持ちがよすぎて、頭の中が真っ白になっていく。
「気っもちよさそうに顔がとろけてきてるわね……」
目と鼻の先に顔を持ってきてそんなことを言われ、羞恥心が働く。情けない顔を阿奈さんに間近で見られてしまっていることに恥ずかしくなってしまったが、しかしそんな感情をすぐに快感が上書きする。
どこかもどかしいのに、だが癖になる感覚。なんだか、今すぐにでも理性がどうにかなってしまいそうなほど、頭の中が溶けてしまっていく……
「ねえ、もっと気持ちいところ、撫でてほしい?」
もっと気持ちいいところ? いったいどこのことなんだ?
なんて、少しだけ働く理性で考えながらも、しかし首は、まるでさび付いた人形のように、震えながらゆっくりとうなずいてしまっていた。
「ふふっよろしい」
指の動きが止まった。そして指先が肌から離れていく。だが、阿奈さんの両手首は胸の辺りにくっついたままで、まだこの部位のマッサージが続くことを理解する。
「このマッサージはね、あまりに気持ちが良いから、普通の施術ではやらないのよ。でも……」
また耳元に顔を寄せて、怪しく囁いた。
「君にだけ、特別にしてあげるわね」
その、期待してしまう言葉とともに……
両胸の中心に、阿奈さんの人さし指が触れた。
ビクッと一瞬のくすぐったい感覚が肩をヒクつかせた。
「行くわよ、覚悟してね」
なんて、妖艶に笑わう。
もしかして、そのマッサージというのは……
サス……サス……
「ンンンンッ!?」
刹那、とてつもない電流が走り、身体が感電したように痙攣しだす。知らない衝撃に、頭がチカチカする。
乳首を、指先でやさしくこすられてしまっているのだ。
「ああっ、ああっ!」
自分でも情けない声、だらしない表情ををさらし続けていることは理解している。それでも、その暴力的な快楽は僕の脳をトロットロに溶かしつくしてしまい、自分を抑えることができない。
「ああ~、気持ちよさそうに息を漏らして〜」
恍惚とした表情で、感嘆とした息を漏らしながら、阿奈さんは満足そうにマッサージを続ける。
気持ちがいい。とにかく気持ちがいい。気持ちがよすぎて、気持ちいい。
「ねえ、星也くん。さ~ら~に、気持ちがいいマッサージをしてあげようか」
「さらに……気持ちがいい?」
つまり、これをさらに超える快感が僕を襲うというわけだ。いったいどんなマッサージなんだ……
「してほしい?」
「……して……ください」
してほしい。もっと気持ちよくなりたい。もうそれしか考えられない。嫌なこと、辛いことを全部忘れて、この快感に漬かっていたい。
阿奈さんはまた怪しく笑うと、ジメッとした息を吐き、艶ほくろの目立つ、ぷっくらとした唇を、ゆっくりと目の前に寄せてきた。
ああ、なんて阿奈さんは美しいのだろう。
僕は、これから訪れる快楽に、心の底から焦がれる。
もっと、気持ちのいいこと。早く、してほしい……
「ナニしてんの?」
そのとき、どっと低くくした声が、この空間を遮った。
「……戌子?」
視界の中に、犬歯を口からはみ出して、しかめっ面をこちらに向ける、制服姿の戌子の姿があった。
学校から帰ってきたのだ。
「あ、あら戌子、いつの間に帰ってたの?」
「帰ってたの? じゃなくて、ナニをしてたの?」
不機嫌な様子で問われる。
「ハア……ハア……何をしてたってお前、決まってるだろ」
「ええ、普通にマッサージよ」
そう、僕は今、阿奈さんに身体中をほぐしてもらっていた。
「お母さんがお兄の上にまたがって、お兄の胸を触って、まるで今からキスをしそうな距離まで顔を近づけてきてるのに。それ本当にマッサージなの?」
「いや、マッサージだろ。それ以外ないだろ」
「ええ、マッサージよ」
別に、何もおかしなことはないだろ。僕はただただ、施術師の阿奈さんにマッサージをしてもらっていただけだ。何も怪しいことはないはずだ。
「……まあ、そうだよね」
と訝しみながらも納得したのか、戌子はその辺に置いていた学生バッグを取ると自室へ向かった。
「……ちょっと盛り上がりすぎっちゃったわね……」
阿奈さんは僕の上から降りた。
「戌子も帰ってきちゃったし、これで終わりにしようかしらね」
「はい……」
気持ち良すぎた脱力で、起き上がることができない。こんなマッサージ初めて受けた。
「お茶入れてくるから、ゆっくりとしててね」
阿奈さんは顔を赤らめながら、せっせとリビングの方へ行ってしまった
「お兄、汗すごいね」
部屋から戻ってきた戌子は、まだ制服姿のままだったが。
戌子は僕の顔の上をまたがるように立った。
「……何してるの?」
「なにってサービスだけど」
……ブラウンのショーツが見える。
確か、戌子はスカートの下にスパッツを履いていたはずだが。
いや、よく見ると戌子は片手に、黒くてスベスベした布をつかんでいる。
わざわざ僕に見せるために、脱いできたのか。
「……ありがとう」
ふつうに興奮しそうだったので、僕は颯爽と戌子の足の間から抜けて起き上がった。
立ち上がっては、軽くなった自分の身体に気持ちが昂る。
名施術師の手腕をゴッドハンドなんて形容をするが。まさに阿奈さんのマッサージは神の手による業だった。つまり阿奈さんは女神だったのか。
「ねえ、お兄……」
戌子はいきなり僕にくっついてきて……
――ペロッ
「ん!?」
頬を舐められた。
「な、何すんだよ」
「いや、お兄の汗舐めたくて」
「いや、お前……」
この間の一件から完全にブレーキが壊れてしまっていないか?
「なんか今日のお兄の汗、雑味がなくておいしい」
「雑味ってなんだよ」
阿奈さんがいる前で変なことを言うな。
「はい、お茶菓子持ってきたからテーブル戻してー」
阿奈さんがお盆にお茶とお菓子をの添えて持ってきたので、僕らは颯爽とマットレスをたたみ、テーブルを戻して、明るい照明を灯す。
さて阿奈さんがテーブルにお盆を置き、僕は床に腰を下ろしたところで。
「戌子、制服にシワができるから、ちゃんと着替えてきなさい」
「はーい」
と、戌子が自室に戻った。
「じゃあ、おばさんも休憩しようかしら」
「お疲れ様です。おかげで、すごく身体が楽になりました」
「そう?」
なんて、阿奈さんは僕の間隣に腰を下ろしてきた。
「あ、阿奈さん?」
僕の胸を、触れるか触れないかくらいの距離で、こするように触りながら、耳元でささやかれる。
「またいつでも気持ちいいマッサージ、してあげるからね」
その含みのある言い方に、ドキドキが止まらない。




