第51話 幼馴染の母親にマッサージをしてもらう
一度自宅に帰って、軽く一日の汚れ、臭いをシャワーで流し、ラフなジャージに着替えた。
阿奈さんは自分の家のリビングで、マットをセットしたり、器具を用意したりと準備をしている。
阿奈さんのマッサージを受けるのは初めてである。以前軽く肩をもんでもらったことはあるが、しかしそれだけでもかなり気持ち良くなった覚えがある。本格的なマッサージをしてくれるというのだ、だから楽しみだ。
しっかり髪を乾かしてから家を出て、お隣のインターホンを鳴らした。
「はーい」
と、軽快な足取りで阿奈さんは戸を開けて出てくるのだが。
「どうぞ入って~」
「し、失礼します……」
阿奈さん、なんだか服装エロいな……
別に、セクシーな服を着ているわけではない。だが、薄手なグレーのシャツは大きなバストの形を目立たせ、首元からは胸がちらついている。
ピッチリとしたジョガーパンツも、阿奈さんの細くない腰回りや大きなおしりを意識してしまう。髪を後ろに縛り、ほほ笑む口元の艶ぼくろも相まって、色っぽい。
いや、いけない。幼馴染の母親に、変なこと考えるな。
そういえば、戌子がいない状態で瀬根家に上がるのは初めてかもしれない。いや、遠い昔にはあったかもしれないが、記憶上では覚えがない。
つまり今、僕は阿奈さんと二人きりの状態なんだ。
なんだか、変に緊張してしまう。別にここへはよく訪れているというのに。
リビングまでやってくると、カーテンを閉めて外の明かりが入ってこないようにされていた。うっすらと橙色の照明が部屋を照らしている。
「なんか、いい匂いがします」
アロマテラピーというやつか。すごく心穏やかになる。植物系の、よく阿奈さんから匂う落ち着いた香りだ。
スピーカーからはクラシックが流れている。フィーリングBGMもちゃんと用意されていて、雰囲気は抜群、本当に本格的だ。
阿奈さんはマグカップを持ってきた。
「ノンカフェインのハーブティーよ」
「ありがとうございます」
まさにリラックス効果を持ちそうなドリンク。口に含むと、うっすらとハーブの香りが鼻を通った。
「椅子にでも座って、まずは心を整えて頂戴」
と、僕をリビングの椅子に座らせる。阿奈さんも僕の隣の椅子に座るが。
たまたまか、なんだか距離が近くて、女性らしい匂いがほわほわと漂ってきた。
その際、左足首にはオレンジの装飾のついたアンクレットが通っていることに気がつき、珍しいなんて思う。
「この間はごめんなさいね。彼女さんとのお楽しみな夜ご飯だったはずなのに、お邪魔しちゃって」
「いいんですよ。僕だってよくお昼をごちそうになってますし。むしろ僕のラタトゥイユが料理上手な阿奈さんの口に合ったか」
「めちゃめちゃ美味しかったわ。本気でほっぺたが落ちそうになっちゃった」
ほっぺたが落ちそうなんて慣用句、久々に聞いた気がする。
「戌子も、彼女さんがいるのにこれからもお邪魔するつもりみたいで申し訳ないわ。あの子の気持ちもわかるけれど」
「まあでも、戌子がいると楽しいですから、嫌とかはないです。ただ、あいつの気持ちには答えてあげられないですけれど」
「……勝手なお願いどけれど、これからも、あの子のお兄であってあげてね」
「もちろんですよ……」
戌子にとって僕は想い人ではあるのだが、阿奈さん以外の唯一の家族としても、あいつからは見られていて。だからこそ、娘に寂しい思いをさせている阿奈さんは、そんなお願いをするのだろう。
「そろそろ、はじめましょうか」
僕はハーブティーを飲み干して、マグカップをテーブルに置いた。
「はーい。じゃあ、そこにうつ伏せになってもらえるかな」
リビングの中央に設置されていたはずの座卓が壁際に立てかけられていて、代わりにその場所には折り畳みの茶色いマットが広がっていた。
「それじゃあ、すいません、よろしくお願いします」
マットの上には肌触りのよさそうなシーツが敷かれて、柔らかそうな枕も置かれている。僕は枕に顔を埋めるようにうつ伏せになった。
「それじゃあ、肩から揉んでいくわね」
耳元でささやくようにそう伝えると、肩もみが始まった。
広げた手が、肩を全体的に包むように揉む。優しく、和らげるように。
その次に、親指を肩の固まっている部分に差し込んできた。ぐっぐっと固い親指が、丁寧に、ほど良い力で、でも場所によってはしっかり強めに入り込んで、ほぐしにかかる。
痛い。けれど気持ちがいい。
「お客さん、やっぱりすごく凝ってますねー」
と言いなれた接客の口調で力を入れてくる。
肩を一通り揉み終えると、肩甲骨のあたりから、腰の方まで、手の平で順に圧迫をする。
「じゃあ、肩甲骨はがしをしましょうか」
なんて口にし、僕は衝撃を受ける。
け、肩甲骨はがし……あの伝説の肩甲骨はがしか。
「身体を横向きにして」
「はい……」
横向きに身体を整えると、阿奈さんは僕の背中側へ回る。
最初に肩をぐるぐると回された。これだけでも十分に気持ちが良いが、ここからが本番だ。
「それじゃあ、入れていくわね」
ボソッと心地よい声で言うと。
指が背中に、肩甲骨の隙間に入って来る。ズンズンと入り込んでくる。
「おばさんの指、結構すんなり入っていくわね」
「うっ……」
声が漏れる。痛くはない、ただ快感が肩の辺りから広がって来る。
背中なんかに、こんなに指が入ってしまうのか。なんだかまるで皮膚を貫通して、直接体内部の筋肉を触ってきているような感覚だ。
グワーッと、阿奈さんが肩甲骨を持ち上げる。身体が、浮かび上がりそうになる。
「痛くない?」
「き、気持ちいいです」
思わず息が荒くなってしまう。
そう、気持ちがいい。マッサージはすっごく気持ちがいい。でも……
たまに、胸が当たる。ふわふわな、というか柔らかすぎる胸が、背中に触れて緊張してしまう。
なんだか幸せな気分だ。
肩甲骨はがしをもう片側も済ませると、上半身がポカポカとして心地が良くなった。
またうつ伏せに態勢を戻したら、今度は腰に指を押し込んでくる。
腰の痛みは特に気になっていたので、これで解消できれば良いが。
「ああっ!」
「痛かったら痛いって言っていいのよ」
「だ、大丈夫です……」
指圧がとてつもない激痛を呼ぶ。それでも快感が同時に走り、もっと押してほしい、もっと押してほしいと心の中で懇願してしまう。
「はあ……はあ……」
まだ肩と腰しか施術をしていないのに、息が上がってしまった。
「必死な様子、かわいい」
なんて阿奈さんはからかってくる。
「コンビニの立ち仕事ねー。もちろん、立ってるから足に負担はかかっているけれど、腰にも疲れが溜まるのよねー。だから、腰回りもこまめにストレッチしてね」
腰の次は太ももを、膝を曲げるようにして伸ばした。
ふくらはぎにも疲労がたまっていたようで、この部位の揉みマッサージもまあまあ痛く、でも気持ちが良かった。
ふくらはぎを揉み終えると身体を仰向けにして、足を股関節の方からぐるぐると回された。
足を回すたびに、たまに胸に膝辺りが触れてしまい、また緊張してしまう。本人は気にしていないというか、気づいていないのか、淡々と続けているが。それって、大丈夫なのだろうか。この人、ほかの人にもマッサージをしているのだよな。と心配するも、その足に少し当たる感触、そこへ意識が集中して堪能してしまう。
「よし、足は終わり」
足を回し終えると、仰向けの状態のまま首の施術に移った。阿奈さんは僕の頭上から、逆さ向きに見下ろすような体勢になる。
「首もカチカチね」
スマホやパソコンを使う際に前かがみになりがちな現代人だ、やはり首にもダメージが蓄積しているようだ。
ぐっぐっと下から持ち上げるように首の中心に指が刺さる。そのたび快感が振動とともに脳へ伝わっていき、パチパチとした。
これはすごく気持ちがいい。癖になりそうだ。
首を揉みえると、今度は鎖骨の下あたりに手が伸びる。そこから肩の方へかけて皮膚が押されていく。
「知ってる?」
小声で話し始める。
「マッサージをすると、オキシトシンやセロトニンが分泌されるの」
たぶん、幸せホルモンというやつのことだろう。
「それによってリラックス効果が増大して、癒されるのよ」
そう、癒される。マッサージをして僕は癒されている。だが……
顔の上で、阿奈さんの大きな胸が、ボヨンボヨンと爆ぜていて。思わず目線が引っ張られてしまう。
年相応なのか、少し垂れて、それでもまだ張りを感じる阿奈さんの胸が、眼福すぎて仕方がない。顔に触れはしないが、触れる直前、本当目の前までは降りてくるもので、ドキドキしてしまう。
だが僕は今仰向けの状態なので、つまり男性として興奮するとあそこが目立ってしまうため、意識しすぎないように気をつける。




