第49話 チャラ男に絡まれる
「ね、猫俣さん」
やってきたのは、片耳に黄色い宝石のイヤリングを揺らし、艶のあるブロンズヘアを垂らした、黒いシャツをデニムにタックインする、かわいらしいギャル。
「おお、猫俣さんっていうの?」
チャラそうな男の片方が昂ぶるように喜んだ。
「ねね、君たちは友達なの?」
「え、いや、あーしらつきあ……」
「友達ですよ!」
猫俣さんの言葉を遮るように、僕は強調してそう言った。猫俣さんは「えー」なんて苦い顔をしたが。
「じゃあさ、俺とも友達になってくれないかな?」
「ちょっ……」
男は僕を押しのき、猫俣さんへ近づく。
「だれ?」
「オレらはこいつの友達。な?」
と、男は僕と肩を組んできた。
友達になんてなった覚えはないが。
「ふーん。ごめんむり」
男の申し出に、猫俣さんは笑顔で拒否をする。
「えーなんで?」
「だって、あーしはこの人が好きだから。ほかの男と仲良くする気はないの」
と、猫俣さんは僕を男から強く引っ張ってはがした。
「えーでもそいつ、他の女の子とも仲がいいみたいだけど、いいの?」
「そうそう。俺らだったら今フリーだよ」
しかしチャラそうな男たちは折れることなく、しつこく猫俣さんにすり寄って来ては軽々しく腕をつかんでくる。猫俣さんも迷惑そうな顔をしていて、いい加減僕はいら立ちを感じ。
「あの、いい加減にしてください。猫俣さんだって迷惑がってますし、仲良くなれないって答えたじゃないですか」
僕は猫俣さんに軽々しく触れる男の腕を払った。
「あ? 邪魔すんなよ」
それに対し男はメンチを切って顔を近づけ、流石に僕はビビってしまい慄くが。
「いや、どっちが邪魔なの?」
そんな圧など気にすることなく、猫俣さんは僕に抱き着いてくると……
「えい!!」
「んんんん!?」
思い切り、僕の顔を抱きしめて、なんと胸に押し当ててきたのだ。
まさに柔らかくて甘露な香りのマシュマロに顔が埋もれ、その顔肌に感じる快感と、谷間のしっとりした空気のフェロモンと、周囲に見られている羞恥心が、一瞬で身体を熱くする。
僕は焦りすぐに離れようとするも、猫俣さんは頭を強めに抱えたまま、僕を離そうとしてくれない。
「いいなお前、俺彼女にもそんなことしてもらったことないぞ」
賢がのんきにうらやんでいた。
「てなわけで、あーしは木野くんにゾッコンなんだから。君みたいなチャラそうな人とは絶対に友達にはなれませーん。ごめんね」
「ちぇー」
ここまでして、やっと男たちはあきらめたのか去っていった。
「ぷはっ」
「ごめんね、見せつけないとあきらめてくれなさそうだったから」
猫俣さんも僕のことを離してくれたのだが……
まだ日和さんの胸も触ったことがないのに。鬼頭さんに続き猫俣さんの胸に顔を埋めてしまった罪悪感と、素直な興奮が身を震わせる。
「はあ……ね、猫俣さん、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。困ってそうだったからさ」
猫俣さんから離れても、顔にはあの柔らかい感覚が張り付き、鼻腔には甘ったるい匂いが残っていた。脳が毒されてしまい、ウロウロしないと気持ちをとても落ち着かせられなかった。
その様子を猫俣さんは愉悦な表情で見てくるものだから悔しい。
「猫俣さん、例のやつ知ってる?」
賢があの件について猫俣さんに聞く。
「知ってる。だからこんなことになったんでしょ。それに、周りの人らも、まるで本物を見たかのようなリアクションで足を止めてるし」
僕も周りを見回すと、足を止めてこちらを眺める人たちを数人確認できた。流石に目立ち過ぎたので、僕ら三人は移動しながら話を続ける。
「猫俣さん、その、ごめんなさい」
「え、なんであやまんの?」
「猫俣さんにも、迷惑をかけちゃったし」
「ふーん、優しいね」
なんて、腕に抱き着いてくる。
胸を押し当ててくるものだから、僕はさっきの顔に胸を押し当てられた感触、そして匂いを思い出して顔がこしょばゆくなった。
「そ、それはやめてくれ。これ以上目立ちたくない」
と僕は腕を引っ込めようとするも、しっかりしがみつかれてはがれない。
まあ、助けてもらったし、少しくらいは許すか。
「ねえ、猫俣さん。以前から気になってたんだけど、なんで星也のことが好きなんだ?」
賢はいきなり尋ねてきたが、しかし確かに、なぜ猫俣さんが僕のことを好きなのか気になる。だって、僕との接点なんてほとんどなかったはずだし。
「うーんと、あーしね、昔、木野くんに助けてもらったことがあんの」
「僕が、猫俣さんを助けた?」
そんなことあったっけ? こんな記憶に残りそうな人と関わった覚えはないが。
「昔って、大学に入るよりもずっと前のこと。そんときは今と違って、すごく芋女だったし、ほんの短い間のことだったから、覚えてないのも仕方はないよ。でも、あーしは君に感謝してるの」
「そうなんだ……」
まあ昔の僕、中学高校の頃の僕は、アニメや特撮の主人公に影響されて、なにかと人助け的なことをしていたことがある。まあ、あこがれからなる偽善で、空回りばっかりしていて、僕の中では軽く黒歴史ではあるのだが。
「でも僕なんか、大したことしてないと思うけれど」
「確かに、今思えば君にそこまで大きく助けてもらったわけではないかもね。それでも君の存在は、あーしの中ではとってもでかかったんだよ。だから大学で君を見つけたとき、また会えたのがすっごく嬉しくってさ……」
……僕って、知らず知らずのうちに、誰かのためになっていることが多いのかもしれない。
「……で、これからどうするつもりなの?」
「ど、どうするって?」
「今の注目されてる状況。どう解決するか」
猫俣さんは抱き着いたまま話を進める。
「僕はとりあえず、鳩島先輩と直接話をしようと考えてるかな」
「本人に、直接ファンの人たちを止めてくれって言うのか」
そうだ。嫌がらせを受けて黙っていられないし、こんな大変なことになってしまった以上、ファンの人らを止められるのはもう鳩島先輩本人しかいないだろう。
「てゆーか、なんで木野くんは鳩島先輩にキスされそうになってたの?」
「そ、それは……」
「こいつ、告白されたんだよ、鳩島先輩に」
「……まあ、そんなとこだよね」
猫俣さんの僕にしがみつく力が少し強くなった。
「……そう、あの人も君のことが好きなの。ということは多分、そういうことだよね」
「……多分ね」
猫俣さんも鳩島先輩がラバーズだとにらんでいるようだ。
「じゃ、あーしも君がお願いしに行くとき、ついて行くよ」
「え、来るの?」
「うん。だって……」
猫俣さんは甘えるように僕の身体を引き寄せると、耳元でささやく。
「あの王子様がラバーズだったら、誰が君を守るの? あんたの彼女はここにいないんだよ」
甘美な小声がこしょばゆく、わかりやすく僕は背中を震わせた。




